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桜の木に寄り添う  作者: 月乃結海
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恩返し

 また明日、退院の時に来るねとおばぁちゃんに伝えて、私は病室を出た。


 今の私には居場所がない。

 私はとりあえず、お店に行く事にした。


 カタカタカタ……


 病院にいる時から、携帯がなり続いていた。

 ヒロキくんからの電話だった。

 私は、気づいていたけれど出ることは出来なかった。

 今はそっとしておいてほしかったから。


 私はお店へと急ぎ、電話が鳴り止んだ瞬間に上重さんへと電話をかけた。


「 もしもし。今からお店に向かいます 」


 私はそれだけを伝えて電話を切った。


 カタカタカタ……


 上重さんは、いつも私がお店へ向かう電話をかけると外で待っていてくれる。


「 なっちゃん!大丈夫? 」


「 はい。私……私。もう…… 」


 上重さんの顔を見た瞬間、私は涙が止まらなくなってしまう。


「 なっちゃん、中で話しましょ 」


 上重さんは、優しい上品な言葉遣いで私を慰めてくれる。


「 なっちゃん、無理したらダメよ。辛くなるだけだから 」


「 私、今はお店の事しか考えられないんです。不安がいっぱいで…… 」


「 大丈夫 」


 上重さんは、そう言いながら私の背中を撫でてくれている。


「 壁の絵は頼めない。ごめんなさい…… 」


「 いいのよ。無理させてしまったかしら 」


 私はこの涙の意味が何なのか、分からなかった。


 不安からの涙なのか。それとも別れが辛いからなのか。寂しさからなのか。


「 上重さん、しばらくお店にいてもいいですか?今の私には、居場所がないんです 」


「 いいのよ。裏に広めの休憩室を作ってあるから、そこにいたらいいわよ 」


「 はい。ありがとうございます 」


 お店は、唯一の私の居場所。

 これからの夢や希望が沢山詰まっている。


 店長や上重さんのおかげでこの仕事を私はずっと続けてこれたから。

 これからは、恩返しができるように頑張らなくてはならない。


 今の私には、恋愛なんてしてる場合じゃないんだ。

 自分の幼さが情けない。

 やっとこんな思いに気づくなんて。


 私は上重さんに携帯を預けることにした。

 誰とも話をしたくなかったから。


 ちゃんとお店の事だけを考えよう。



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