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「これでよかったのか」
問われて、ルゥはエメリーを見た。
「はい。助けに来てくれて、ありがとうございます」
「ぼくを呼ぶ必要なんてなかっただろう」
「そんなことありません」
エメリーが現れなければ世界は何度も同じことを繰り返していただろう。
それを教えても一笑に付されるだろうから黙っておく。
「お別れは唐突すぎました」
ルゥはエメリーの両手を自らの掌で包みこんだ。
少し冷たいけれど確かに存在していることを確認できる体温。そっと額に当てる。
瞳を閉じて、祈るように。
「あなたとわかりあえなくても、出逢えてよかった。そのおかげで、わたしはわたしであると知ることができました……」
「お前はやっぱり、どこまでいっても甘いな」
ほんの少しだけ、皮肉ではない別の感情が混じった言葉。やわらかな声色が耳朶を打つ。
それはルゥの心を震わせるには充分すぎるものだった。
「ありがとうございます。褒め言葉として受けとっておきます」
手を離してエメリーを見上げる。自然と笑えていた。
「きっとこの胸の痛みが、わたしを前に進ませてくれるはずですから」
エメリーの目が点になる。それから、躊躇いがちに視線を泳がせた。
ルゥと視線が合うと弾かれたように逸らす。
「ぼくは行く。この世界はお前に似てとんでもなく甘ったるいかもしれないが、だとしたらまた出逢うこともあるかもしれないな」
「はい」
ルゥはこの場でエメリーを抱きしめることだってできた。
しかし、そうしてしまえば、お互い二度と逢うことなはいだろうという予感もあった。
「……ふん」
エメリーはそっぽを向いたまま、ごそごそと着流しの袖を探った。
何かを握ってルゥに差し出す。
「そのときまで預けておこう」
闇夜色。エメリーの瞳と同じ色をした、小さな小さな箱だった。
「じゃあな」
「お元気で」
エメリーは振り向かず、右手をひらひらと振りながら出て行った。
どこか軽やかな足取りだった。彼もまた、自らの道を探しに旅をするのだろう。
見届けて、ルゥは箱を開く。
「……!」
開いて、唖然とした。
輝きを放っていたのは――蓮の花の色をした、透明度の高いふたつの宝石。
「し、信じられないっ!」
それらは紛れもなくパパラチアの瞳。
「あのひとは、いつの間に……」
大きく溜息をついてから、まじまじと瞳を見つめて、そっと指で掴む。
蓮の花の色だという。桃とも橙ともつかない、言葉で表現するには何もかも足りない輝き。唯一無二の美しさ。滑らかな表面に、ルゥの姿が反射して映りこんでいる。
「やっぱり、きれい」
空中に翳すと光はいっそう深くなる。きらきら。きらきら。
(パパラチアさんは、どんな景色を見て、生きていたんだろう)
もうそれを知る術はない。
そしてエメリーが何を考えて、瞳を託したのかルゥには分からなかった。
だけど。
「わたしも生きます」
(その果てに、あなたを見つけるために)
「今度出逢うときは、一緒に花茶を飲みましょう」
もう姿も見えない想い人へ、語りかける。
そして、世界は緩やかに置き換わっていく。
誰の夢かは分からない。
だけど、ルゥが生きていく、世界へと。




