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光を持たないからこその美しさ。
(どんな風に世界が見えているんだろう)
きっと、絶望の泥濘に沈んでいるのは、エメリー自身。
……純粋すぎたがゆえに、世界を壊さないと生きていけないのだ。
(その闇夜に、星の瞬きは映るんだろうか)
どんな景色が見えているのかルゥには到底想像もつかない。
「ひとつ」
深呼吸をしてから、ルゥはエメリーに語りかけた。
「お願いがあります。ルベウスの輝きに変わった鋼玉刀を、貸していただけませんか」
「はぁ?」
エメリーが呆気にとられたように眉をひそめた。
「パパラチアさんに言われました。わたしがどんな選択肢へ進もうとも、不幸になると。だとしたら、少しでも悔いのない道へ進みたいと思います」
「……」
沈黙と逡巡。
先に口を開いたのはエメリーだった。
「……本当にお前はばかだな」
ほんのちょっとだけ、柔らかな響きの、嘲笑。
「貴方に言われたくありません。今だって、なんだかんだ言って、助けてくれました」
ルゥは、深く深く、頭を下げた。
「街へ連れ出してくれて、変なひとから助けてくれて、美味しいご飯を食べさせてくれて、ありがとうございました。だけど、許せないことばかりです」
躊躇ってから言葉をつづける。
「きっと、貴方とわたしは平行線のままで解りあうことはできないのでしょう。それが解っただけで充分です」
「物を借りようとしている相手への言葉としては、甚だ不正解だ」
「それはもう、わたし『たち』のものです」
「よくもまぁ、そこまで不遜な態度が取れるな」
エメリーは毒づき、鋼玉刀を腰から抜きとった。乱暴にルゥへ突きだす。
「好きにしろ」
「ありがとうございます」
ルゥが両手で受け取ると、ずっしりとした重みを感じた。
(これは、コランダムの悲しみが詰まった、重さなんだ)
ルゥは鞘に額を当てて、そっと瞳を閉じる。
誰のことも思い浮かべず、ただただ、暗闇を想う……。




