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ぐしゃ。
エメリーがルゥの涙をぐりぐりと踏みつける。
「え?」
ルゥは濡れた頬を拭うことなく、顔をあげた
冷静な態度で、エメリーは感情を乗せず、ただただ告げる。
「あの『鋼玉鑑定士』にお前の情報を売ったのはぼくだ。助けてもらえたとでも思っていたら大間違いだ。お前を殺すのは、ぼくだから。ただそれだけだ」
すっ、と。
ルゥの鼻先に向けられたのは、刀の切っ先。
再び言葉を失ったルゥを見て、つまらなさそうに刃をしまう。
「ただ、まだ早い。それまではせいぜい人間ごっこに興じておくんだな」
エメリーは深く溜息を吐き出した。
「名乗っただろう。ぼくの名前は、エメリー。正しくはエメリー・コランダム。本来ならばルベウスとして生まれるはずだったのに、ルベウスの力が強すぎるあまり、濃い鈍色の瞳になってしまった不吉なコランダムだ」
「エメリー・コランダム……?」
コランダムだと名乗った青年は、初めてルゥに笑ってみせる。刃が、光る。
「ぼくの望みは、すべてを壊すこと。そのためにはお前たちルベウスの、最も美しい瞬間の瞳が必要なんだ。絶望に充ち満ちた瞬間の瞳が」
瞳と、刃と、館の前に転がる石のすべては同じ闇色。
「それにはまだ足りない。また会おう、歌姫のなりそこない」
――意味するものをルゥが理解するにはあまりにも突然すぎることばかりだった。
エメリーは去り、ルゥとその涙だけが取り残される。
(ひどい)
館の跡から昇る煙が収まった頃、ゆるゆるとルゥの意識も戻ってくる。
全身を刺す痛みは消えない。
ぎゅっと服の裾を掴んだ。
(意味がわからない。ひどすぎる。同胞を売っているというの?)
そして、騙されて、殺害に加担してしまった自分自身のことも。
「……許せない……」
涙をかき集めてポケットに収めると、ふらふらと立ち上がって、ルゥは転がっている石のひとつを手に取った。鋭利で、刃物のようだった。右手で石を持ち、左手で髪の毛に触れると、ざっくりと切り落とす。
ばさばさっ。
髪の毛は地面に落ちて、ルゥの髪の毛は不揃いながらも短くなった。
「うわああああああああああああああああああっ!」
そして雄叫びをあげる。弱々しい少女の姿は、もう何処にもなかった。




