01
冒険者になって世界を救う夢見ていた。
自分がその立場になって、ちやほやされたいという気持ちが大きかった。
現実はそう甘くないもので、セレスはもう、色々と後戻りが出来ないところまでいっていた。
「セレス・アキナです。《引き立て役》として、皆様の功績を残す仕事をさせていただきます」
セレスは《引き立て役》をすることになった。
防具のみにお金をかけるようなことをするようにしていた。
まぁ、簡単に言えば、剣や杖といった武器を買わずにいるっていうことだ。
「手柄を横取りしない冒険者は初めてだよ。あぁ、俺はパーティーのリーダーをしている魔術師ロキだ。セレスさんから見て、左が狩人エレン、右が騎士クォル。まぁ、遠隔攻撃が多いから、少し、不安要素があってね」
「では、皆様が攻撃に集中出来るように、私は敵の囮になりますね」
「無理はしないでくれよ?」
「私は中堅です。ギルドに入れないので、自力で上げてます」
セレスはにこりと笑ったつもりだが、最近、口角が上がらずにいる。だから、目の前のロキの顔が恐怖による顔だった。
ーー迷宮ゼレラハーマ五十七階層。
主要モンスターは毒イノシシ、炎ゴブリン、イーターが多く、初心者から抜けたての冒険者が挑むには少々、死を覚悟せねばならない階層だった。
魔術師ロキ達は皆、中堅に入りたての冒険者だろうとセレスは思った。
「セレスさん、ここまでありがとうございます」
「いえ、あなた方のサポートしかしていないので、礼は要りません」
セレスは自分の武器をウエストポーチに入れて、戦闘を終える。
「これ、報酬です」
「こんなに要りませんよ!」
「いえ、良いんですよ」
セレスは戸惑いながらも、一級品の武具が買えるほどの大金を手に、パーティーを解散させた。
* * *
セレス・アキナ。
迷宮都市ゼレラハーマにいる全員が知っている。
冒険者からは『手柄を横取りせずにひっそりと引き立て役として、優位に導く者』と言われて恐れられている。
商人からは『防具のみの冒険者』と言われて売りに行こうとしなかった。
「帝攻軍に入れるお金はいっぱいあるんだけどなぁー」
魔術師ロキから報酬金の一部を貰い、パーティーを解散させた後、一人寂しく、酒場にやってきた。
フードを被っているので、最初はセレスだとは分からずに皆が酒を楽しんでいた。
フードを外した途端、皆がセレスを値踏みする。
「……ねぇ、マスター。貴方、元帝攻軍の料理番だったんだよね? 入れてくれるよう頼んでよー」
「セレスさん、それはさすがに無理です。実力があり、帝攻軍の迷宮開放に参加しないと意味がないですよ」
帝攻軍というのは、ゼレラハーマの最大ギルドで、謎が多い迷宮を一層ごとに開放している。
強大な冒険者が多く、セレスのような冒険者は受け付けないというので有名だ。
「そうだ、セレスさん。帝攻軍に入りたいのなら、迷宮開放に参加してみては?」
「私みたいなのが役に立つとでも?」
「分かりませんよ? なんたって、帝攻軍の迷宮開放は冒険者のロマンですからね。迷宮が現在、四〇七階層まで進んでいますよ。これは多くの冒険者と帝攻軍による素晴らしい功績です。名を刻むことが許されているんですから、参加しましょうよー」
迷宮ゼレラハーマと呼ばれる天高くまであるそれは、巨大ギルド帝攻軍により開放され続けていた。
転送装置を設置し、これまでの階層をショートカットして次へと進めれるように開発までされている。
そんなこんなで、セレスは迷宮開放に挑むことにした。
* * *
人工太陽による光で起こされる。
本日も常に晴天である。
いつもの服の替えを着替えて、昨日の着た服やこれまで溜まっている服を全て、水の妖精に血を与えて洗濯をしてもらう。
その間に、炎の妖精にまた、血を与えてスクランブルエッグを作ったりする。
布切れを腰に巻き、常にストックしている矢をウエストポーチにたくさん入れる。
セレスが住むアパートもどきは、ワンルームなので、変な動きして移動も可能だ。
ーーそれにしても、セレス? 魔法は使わないの?
「うん、使わないよ。あれは、私に使えない」
ーーそんなことないと思うけどなぁ?
「ははは、魔法は先天性の天才しか使えないわ。昨日の魔術師は……まだ、下手くそだったわ。後天性か無理やり契約したのか気になるけど」
ーー契約なんて、オレ達が好むか否かで決まるもんだよ。
「かもねー。あ、そこのパンとケチャップ取って」
ーーまったく、人使い荒いなぁ? セレス。
炎の妖精がそう言いつつも、セレスから血を要求せずに、魔法で運んだ。
彼等はこれまで見た中で、一番、優しい。
「今日から3日間、帰ってこないんだろ? オレ達に任せろ」
炎の妖精が人間の姿となり、この部屋の住人となった。
セレスがにこりと笑って、防具をつけて、替えの服を1着のみウエストポーチの隅に入れて向かった。
帝攻軍は巨大ギルドだ。
弱小ギルドより一番のメンバーを有する。
そこへ誰もが加入したい欲はあるものの、実力を見せるまでにかなり、精神をズタズタに潰すことで有名だった。
詐称していたら、それを突っついて、徹底的に再起不能にしていく。
「初めまして、セレス・アキナです」
「ついに来たよ。《引き立て役》」
「いつかは来るとは思っていたけどな」
「所詮、中堅止まりの役に立たない奴だけどな」
「ただの布切れと音の鳴る矢でどこまでいけるんだか……」
「へぇ! キミが噂のセレスさんか! 僕は帝攻軍の軍長ヨルス・シュヴァサー。会えることに嬉しさが大きいよ!」
「軍長ヨルス様、今回の迷宮開放に参加させていただきますセレス・アキナです。皆様の為に《引き立て役》として、頑張らせていただきます」
「うんうん、よろしく頼むよ」
ニコニコと笑顔を振りまき、ヨルス軍長は先頭に戻る。
ギルドのメンバーの後ろをついて行く形で、加入予定や上級者になりたい中堅などがぞろぞろと歩く。
転送装置に加入予定や上級者になりたい中堅などが先に入って、雑魚を蹴散らしていく。
帝攻軍の兵力を減らすより、加入予定や上級者になりたい中堅を潰すにはうってつけである。
遂に、迷宮ゼレラハーマ四〇七階層、開放攻略が始まった。