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ひねくれ魔王に愛の手を!  作者: 涙涙涙
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9話 仲直りと小さな進歩

鈍い音が響き渡る。

痛みと共に頬骨の軋む音と血の味が口に広がる。


ハッ!?


「な、なに!?」


ルシアが振り返ると木の陰で自分で自分自身を殴りつける少年がいた。



ドゴォッ………


(あいつを、女の子を泣かせたのはオレだ)


バキィッ………


(罰を受けるのは、オレだ)



右に左に己の顔に殴打を繰り返す。

頰の感覚がない。すでに大きく腫れ上がっているのがわかる。


「エ、エル………何してるの!やめなさいよ!?」


ルシアに声をかけられ、動きを止める。


「………」


「なんで、なんでそんなことしてるのよ?」


そう思われるのも当然だ。

はたから見たら奇行としか思えない。

だけど、


「………お前を泣かせたのは、オレだ。だから、お前と爺さんに絡んできた男たちのように、自分を痛めつけた」


口から血が流れる。痛い。


「そ、そんなことしても………」


頬が腫れて喋りづらい。


「あぁ、なんにもならない。不毛、愚行としか言いようがない。だけど、お前が泣いているのを見たら………そうでもしなきゃ胸の痛みが治まらなかったんだ」


「胸の、痛み?」


「こんなん初めてだからわかんねえよ。どうしたらいいかも、お前になんて声かけたらいいかも」


「………バカね」


ルシアがオレに近付いてくる。

拳を握り立ち尽くすオレの前に立ち、両手をそっとオレの両頬に添えた。


「あ、あ。お前、なに、を??」


「………」


ルシアは祈るように目を閉じて黙っている。

すると、頬に添えられた手が薄緑色に光り始めた。


暖かい


「なん……だ、これは?」


頬の痛みが引いていく。


「ケガが治るおまじない。昔からね、こうするとできたの。パパやママも褒めてくれたわ」


穏やかな口調でルシアが言った。


「もう………なんでこんなことするの?」


「お前が泣いてるの見たから。。。泣かせたのはオレだから………」


「そんなことしてもなんにもならないわよ。ふふ、あなた魔族のくせに変な子ね」


「オレが、怖くないのか?魔族だぞ?」


「魔族は怖いわ。でも、エルは怖くない。だって、自分で自分のこと殴りつけるおバカさんな魔族だもん」


「………うるせぇよ。自分がスッキリしたかっただけだ」


軽口を叩けるほどに、痛みも腫れも引いていた。ルシアに言われ、次第に照れくささが増していった。


「自分を痛めつけてスッキリするなんて、ふふふ。あなたドMさんなのね」


「ドM?なんだそりゃ。それよりお前、もう泣き止んだだろ?オレはもう帰る」


「あんな場面見せられたらね。あっ!待ってよぉ。ちょっとだけ、お話しない?」


「あ?なんでだよ?」


「ちょっとくらいいいじゃない、女の子を一人置き去りにする気?それとも、遅くなってダンテに怒られるのが怖い?」


「ふんっ、バカなこと言うな。あいつはオレの従僕だぞ。まぁ変態執事であるという意味ではコワいがな」


「ふふ、そう。じゃ、座ったら?」


「………少しだけだからな。今日はあいつに歩かされすぎて疲れてんだ」


そう言って、二人とも湖に向かい腰を下ろす。二人の間は人一人分の距離。


くっついて座れ?バカな。

んなことしたら爆発するんだぞ。


「はいはい、わかってるわよ。じゃあなにから話そっかな。エル、あたしのパパとママはね、、、、、」


疲れてクタクタだったはずのオレだが、ルシアの声を聞くとなんだが安らぐ気がしてしばらく話を聞いていた。ルシアは自分の両親や今の家に住むまでの経緯、この町のことや近くの王都の話、色々なことを話してくれた。


オレはルシアの顔をまだまともに見ることはできなかった。罪悪感が少しは残っていたということもあったが、コロコロと変わる表情や吸い込まれそうな青い瞳を見ているのは、女の子に免疫のないオレには高難度だった。まだ少し恥ずかしかったんだ。


それでも、チラチラと目を見て話すことはできるようになったのでこれは進歩と言えよう。

うん。




ーーーーーーーーーー




気がつくとすっかり夜が更けており、心配させるといけないということで途中で話を切って二人で帰ることにした。


帰り道、ちょっとした事件が起きる。


「暗くて怖いから、手を繋がない?」


ルシアが急に言ってきてオレの片手を掴んだ。



バチッ!



「きゃあ!」


オレと手が触れた静電気のようなものが走りルシアが驚き手を離す。同時に、オレの中から何かが抜け出たような喪失感を感じた。


「な、なにするのよ!そんなに嫌がることないじゃない」


「オレはなんもしてねぇよ!だいたい、恥ずかしくて手なんか握ってられるか!!………ったく、こんなとこ変態執事ダンテに見られたら………」


「おかえりなさいませ、エルザーク様」



………遅かった。



「ただいまダンテ。ごめんね、心配かけちゃって」


「いえいえ、お気になさらずにルシア様。誰にも抱えるものはあるというもの。ですが、夜中にレディが一人歩きは危険というもの。これからは我が主様とご同行いただければわたくし共も安心致しますので」


「ふふ、これからはそうするわね」


「はい。ぜひとも」


こらこら、二人でなに勝手に話進めてんだ?


「お前、つけてただろ?」


「おやおや、帰りが遅いので心配してこうして家の前で待っていた次第ですが。いやしかし、お二人の姿が見えたと思いきや、すっかり仲良くなられているようで。。。」


お前絶対ずっと見てたろ!?

いつもよりニマニマしてんもんな?


「うるせぇ覗き見野郎。執事の風上にもおけんやつだな」


「わたくしはただ、エルザーク様とルシア様のことが心配で心配で」


「………もういい」


オレは二人より先にズカズカと家の中に入っていき「おかえりなさいませ」と言ったゼベットに顔を向けず軽く手を上げるだけの挨拶をしてすぐに二階のベッドに潜り込む。


三つ並んだベッド。一番壁側の壁際で壁に向かって、頭からシーツをかぶった。


「、、、いい匂いがする」


下から三人の話声が聞こえたが、オレはいい加減眠かったので目を閉じた。




ーーーーーーーーーー



(くふふふ、まさかルシア様に宿るとは。それにあの治癒の力………やはり、人間界に来て正解でしたね)


ルシアと手が触れた時の喪失感。

この時のオレには知る由もなかったが、

何処かで運命の歯車が回るような音をダンテは聞こえた気がした。

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