8話 痛み
「いたたたた。あいつ握りすぎだろ。岩とか余裕で握りつぶすくせに、なんて執事だ。しかし、わざわざ探しに行かなきゃ行けないなんて女ってのは面倒くさいんだな」
「ていうか遠くね?5分くらい歩いたけどまだ見えてこないし。なんか木とか藪とか生えてるし。虫に噛まれたらどうすんの?あーあ、家でゴロゴロしてたかったなぁ」
「だいたいさ、魔族の王なんてオレには興味ないんだよ。平々凡々に毎日を穏やかに過ごす。食べたい時に食べ、寝たい時に寝る。それだけでオレは充分なんだが」
「お?誰に対して言ってるかわからない独り言を言ってる間に水の匂いがしてきた」
「そろそろあのルシアとかいう面倒くさい可愛い生き物がいるんだな?
よし。ここは男としてガツンと言ってやらなきゃ。ダンテも「甘やかしませんよ」ってよく言ってた。
うん、そうだ。
ガツンとな!
ガツ、ン、、、と………」
湖のほとりの木の側からルシアの後ろ姿が見えたので音を立てずそっと近寄る。
だが、声をかけれない。
かけることができない。
なぜなら彼女は、
「ひく、、、ひっく、、、」
泣いていた。
月の白い光に照らされ、一人の少女が湖のほとりで膝を抱えて泣いていた。
震えている。
(なんで、、、なんで泣くんだ?)
オレは正直な話わからなかった。
痛くて涙が出てくることはあった。
しごかれて涙が出てくることもあった。
だけど、あいつは何もされてない。
殴ってもいない。
なんでだ?
(もしかして……オレ、が?)
数分前のやり取りを思い出し、途端に胸が締め付けられる。
(痛い……なんだ、この胸を締め付ける痛みは)
罪悪感
まだ8歳のオレの胸を苦しめたのは、あの子を泣かせたのは自分だ。という想いだった。
最低だ……
広場で胸糞悪い場面を見たが、そんなのは比ではない。
けれど、どうしたらいいかわからない。
あの時のように腹の立つ相手を殴り飛ばせば良いという場面でもない。
(ん……そうか)
まだ小さな自分の手を見ながら思い至る。
固く硬く堅く拳を握りしめた。
ドゴォっ!
鈍い音がした。