7話 礼儀知らずな
オレが助けた(ことになった)老人と女の子がお礼がしたいと言ってきたので宿を探してい事を言うと家に是非泊まっていってほしいとのことだった。
女の子の名前はルシア、オレの二つ年上で10歳だった。爺さん名前はゼベット。
案内されたのは田舎にあるような木造りの小屋、二人で暮らしているそうだ。
「みすぼらしい家ではございますが雨風はしのげましょう。ゆっくり休んでいってくだされ」
「これはこれはご丁寧に、ありがとうございます。良かったですねエルザーク様」
「ふん、オンボロ小屋だな」
「エルザーク様、め!」
ダンテに注意されながら引っ張られたオレの頬はよく伸びる。
いたい。いたいよはなせ。
「むぅ、昔は大きな家に住んでたんだもん!でも、パパとママが。。。」
「これこれ、お客人に混みいった話を聞かせるものではないよルシア。ささ、夕食の用意をしますのでしばしお待ちくだされ」
「、、、あたし、二人のベッド用意してくる」
ゼベットは台所に。ルシアはロフトのような二階に上がっていった。とりあえず食卓の椅子に座ってみる。
「ふむ、親がいなくなにかと生活に苦労している様子ですねエルザーク様」
「だからなんだ?オレだって親の顔なんぞ知らん。まぁ今さら親ですなんて出てこられても何の感情も湧かないがな」
そう。オレにも親はいないし顔も知らない。ダンテからは森の中に捨てられていたのを拾ったと聞かされている。
親が恋しいとかそういう気持ちも知らん。
「それに、あれだけ可愛い子なんだ。身売りでも何でもすれば今よりは多少良い暮らしができるだろう」
「おやおや、初めて見る人間の娘を『可愛い』と評価されるとは。エルザーク様もお年頃、というものなのですね♪」
「、、、うっせ、喋んな」
「まぁまぁそんな風に言わずとも。確かにあの娘の容姿は整っておりますねぇ。そこらへんの女など有象無象も同然。綺麗な格好をさせたら貴族や王家の妾や使用人に引く手はあるでしょうね」
「、、、やっぱ、そのくらい可愛いものなのか?」
「はい、それはもう」
ダンテがニヤニヤしてオレを見る。
殴ってやりたいがルシアの顔を見て碌に喋れないオレは大人しくすることにした。
恥ずかしいじゃん?やっぱ。
「お待たせ。二人とも上に寝るとこ用意したから。パパとママとあたしのベッドが三つ並んであるから、三人並んで寝る形になるけど」
「なっ!、、、並んで。。。」
「これはこれは!多大なるご好意、素直に受け取るといたしましょう」
「お、お前。意味わかってんのか?並んで寝るって。。。」
「おや?エルザーク様ともあろうお方がなにか不都合でも??」
「、、、ねぇよ。それ以上喋んなこっち見んな息すんな」
ぜっったいこいつ今まで以上に笑顔になってやがる。くそ!こちとら免疫ゼロなんだ、悟れ!いや、悟ってるからか。。。
これ以上墓穴掘らんためにも喋らん。
「おやおや大人しいですねぇ」
、、、無視だムシ。
「お待たせしました。粗末な物ではありますが、召し上がってください」
良いタイミングでゼベットが食事を運んできた。ナイス爺さん!
「腹減って死にそうだったんだ。いただきます!」
「ありがたいものです。いただきましょう」
オレたちは少し遅い夕食を楽しんだ。
ーーーーーーーーーー
「ぷぁ。味はともかく腹は膨れた」
「め!そんな風に言うものではありません、マナー知らずな主の無礼をお許しくださいゼベット様。美味しく頂かせていただきました」
「はははは!いやなに、言う通りパンと野菜のスープでは満足いただけなかったでしょうに。お粗末さまです」
「あなた、助けてもらったことには感謝しているけれど、ホントに礼儀知らずね」
ルシアがオレをジト目で見ている。
やだ!見られると恥ずかしい!
「あ?自分の気持ちに素直なのがオレの持ち味なんでね」
「ルシア様。エルザーク様は照れている上にまだまだ世間知らずでございます。何卒ご容赦を」
「ダンテ、喋んなって」
「いいえ喋りますとも。お忘れですか?そういった礼儀や世間の常識を学ぶために来たことを」
「そういえばエルザーク君とダンテさんってどこから来たの?」
「エルザーク君、、、だと?」
「ダンテとお呼びくださいルシア様。できれば照れ屋な我が主のことも親しみを込めて呼んでいただければ。。。」
「なっ!だ、ダンテお前なにを、、、!?」
「わかったわ。エル、よろしくね」
「ふ、ふん!勝手にしろ!」
ヤバい、顔赤くないかオレ?
おい、やめろ。
ハンカチで涙を拭くなクソ執事。
「それで、エルとダンテはどこから?主って言ってるけど貴族なの?」
「おお、これは大変失礼を。では改めて自己紹介を。こちらにおわすお方は将来魔族の王となるお方、エルザーク様でございます。そして、わたくしは第一の家臣ダンテと申します。以後お見知り置きを」
ガタンッ!
ダンテがオレたちの紹介をした瞬間、ルシアが突然ひきったような表情を浮かべ立ち上がる。
「あ、、、あなた達、魔族。。。なの?」
「ああ、それがどうしたんだ?気に入らんか?」
「。。。。。」
ダダダッ、、、ばんっ!
ルシアはそのまま駆け出し、家を飛び出していった。
「はぁ、、、エルザーク様。0点です」
ダンテが顔を右手で顔を覆い呟いた。
笑顔の時と同じく糸目は変わらないのだが眉が下がって落胆している。
いい気味だ。
「なんでだよ?オレは悪い事はしてないし、失礼な態度をとったのはあいつだろ?」
「はぁ、、、エルザーク様。。。少しお仕置きしますね」
ガシッ
「ぐっ、、、あああっ!!!?」
ダンテが右手で顔を覆いながら左手でオレにアイアンクローをかましてきた。
メキ、、、メキメシ、、、、、
「いで、、!いでででで!!!」
「ゼベット様、我が主の非礼をお許しください」
「いえ、、、実は先ほどあの子が口に出しましたが、あの子の両親は。。。」
「そうでしたか。。。辛い想いをさせてしまいまして」
「いえ。ですが正直、儂もあなた達が魔族とわかって驚いております。魔族というのは、、、」
「殺戮と蹂躙を繰り返す悪魔、ですよね」
「、、、は、、、はい。。。」
「どうですエルザーク様?これが人間世界における魔族の立ち位置というものです。これでお分かりでしょう?」
「な、なにが、、だ、、、!?いでででで!!われ、割れるぅ!!!」
メキ、、、メシ、、、、
「はぁ。これでもわからないというのですか。。。つまりですね、彼女の両親は魔族に殺された、ということですね?ゼベット様」
「はい。。。」
「そう身構えないでください。そもそも人間世界で暴れている魔族など下等な雑魚でしかありません。知性のかけらもなく、己の欲望のままに暴れまわる。魔獣の方がまだマシというもので、同族と思われるのもトリハダが立ちます。とはいえ、突然魔族と名乗られても信じてもらえるものではありませんね」
「へっ!結果的にだが助けてやって勝手にお礼がしたいって言ってきたくせによ?勝手なもんだぜ!やっぱあのまま素通りした方が、、、いでででで!!!ホントに割れるって!?」
片手で頭を締められながら宙ぶらりんに持ち上げられたオレの頭はもう限界だ。
限界突破だ!
「ホントにこの方は、、、ですが、このままお世話になるのも無理というものですね。夕食は本当にお世話になりました。このままお暇させていただくとしましょう」
ゼベットは少し悩んだような不安な表情を浮かべたが、こう言った。
「いえ、今日はこのまま休んでいってくだされ。誰であれ、恩人を無下にしたとあれば我が家の恥です。それに、あなた方は儂らの知る魔族とは違うようだ。ご無礼な真似をしました、エルザーク様、ダンテ様、どうかお許しくだされ」
「ゼベット様。。。わたくしのことはダンテと。それでは、お言葉に甘えて今日は遠慮なくお世話になりましょう。ほら、エルザーク様」
オレを頭を片手で持ちながらゼベットの前に差し出す。
「ふんっ!そこまでいうなら仕方な、、、『メキメキメキ、、、』いでででで!!お世話になります!!」
「ふふふ、よくできました。流石はエルザーク様です。さて、と。。。」
パッとオレの頭を離す。
いたたたた。オレの頭、手の形になってないか?
「なってませんよ。ではエルザーク様、いってらっしゃいませ」
「あ?何処へだ?」
「女の子が夜に家を飛び出てしまったのですよ?追いかけなくてどうするのです!?」
「はぁ。。。マジ?」
ガシッ
「行ってきます」
「はい。お気をつけて」
「エルザーク様、ルシアは家を出て左に進んだ先にある湖へ行ったと思います。あの子は落ち込んだ時は必ずあそこへ行きますのじゃ」
「ああ、わかった」
ああ、マジめんどくさい。
だが、女の子を夜に一人にするのはやはりマズいだろうと思うので、迎えに行くとするか。でも、なんて声かけたらいいんだ?
オレにこんな難易度無理だよぅ。
まぁ、なんとかなるかな?
その時にオレに任せよう。
頑張って。
オレは湖に向かい歩き出した。