6話 胸糞悪くなりつい…
オレは女の子と話したことがない。
魔獣の雌とは何度もあったことがあるが奴らは話すことが出来ない。ただ闘争本能のみで襲ってくるだけだ。
そういえば魔族の女にも会ったことがない。オレが会ったことのある魔族はダンテだけだ。
「他の魔族は何処にいるの?」
幼い頃ダンテに聞いたことがあるが、
「そこら中に居ます。ただ、エルザーク様の力を恐れおいそれと顔を出さないのでしょう」
冗談なのか本気なのか、そんな答えを聞いたが何の疑問も持たなかった。
だから、広場に現れた老人をかばうように両手を広げて立つ女の子にオレは釘付けだった。
可愛いかどうか、比較対象が居なかったのでわからないが、その少女は誰の目にも美がつくほどの少女であったのは確かだ。
年の頃はオレと同じくらいかちょっと上かというところ。背中まで伸びた長めの髪は陽の光で金色に輝き、大きめな瞳は空の色と同じくらい青かった。華奢な手足を精一杯広げ、怖さに震えながらも気丈にモヒカンズの前に立ちはだかって居た。
「あ、あなたたち!お爺ちゃんに酷いことしないで!」
「おやおやぁ〜?こりゃあ可愛らしいお嬢ちゃんじゃねーか。残念だが被害者はこっちの方なんでよ」
「いてぇよー、いてぇよ兄貴ぃ!」
「ヒャッハー!」
「そのおじさん怪我なんかしてないじゃない!ニヤニヤ笑って言いがかりつけてるだけよ!!」
「んだとこらぁ!?ガキだと思って大人しくしてたら言いたい放題言いやがって!こいつはお仕置きが必要みたいだなぁ」
モヒカンBがパキパキと拳を握りながら女の子に近づいていく。
「や、やめてくだされ!ワシはともかく孫娘にはどうか。。。!誰か、誰か助けてくだされ!」
老人が周囲に助けを求めるが誰も目を合わせようとしない。
「はぁ、、、どいつもこいつも腐ってやがるな。これが人間社会か。何も学ぶことはなさそうだな」
「んだとお!?誰だ今喋ったやつは!!」
モヒカンBがキョロキョロと辺りを見回す。
「おいおい、ここだよオッさん」
「あぁん?」
モヒカンBが下を見ると、足元に小さな男の子が立っていた。オレだよ。
「ヒャッハハハ!なんだぁこのお子様は!?おい坊主、誰にもの言ってるのかわかってんのか?オレたちは泣く子も黙るこの町の……」
「うっせー」
バゴンッ!!
オレを見下ろし、見下しながら喋り始めたモヒカンBのアゴをアッパーで撃ち抜いた。
老人と女の子、周りの人々も呆気にとられている。
唯一ダンテのみ表情ひとつ変えずに不動の笑顔を保っている
今まで戦闘シーンなんてなかったが、うちの変態執事から昔から死ぬ直前まで拷問しごかれているオレがただのお子様ではなかろう。魔法はまだ使い始めだが、体はバキバキに鍛えられてるのだ。
お子様舐めんな!
「あ、兄貴ぃ!?」
「ヒャ、ヒャッハー!?」
他のモヒカン二人が慌てて白眼をむいて倒れたモヒカンに駆け寄る。
「おい、お前ら目障りだ。消えろ」
「お、、、覚えてやがれ!!兄貴ぃ、すぐに手当を。。。」
「ヒャハ、ヒャッハー!!
モヒカンBの両肩を持ちながら三人は逃げていった。
(まさに小悪党なセリフを吐くとは。。。結局一人はヒャッハーしか言葉を発しなかったな、テンプレか?)
ワーッ!!!
周囲から拍手喝さいが起こる。
小さな子供がタチの悪いチンピラを懲らしめたのだ、当然かもしれない。
が、、、
「うるせぇっ!!」
そんな歓声は耳障りでしかなかった。
オレの怒声に周囲がピタリと止まる。
「なんだお前ら?大の大人が大勢雁首揃えて見てみないふり、いや、見てないふりはしてないか。完全に観戦してるもんな。どういう気分なんだ?老人や女の子がいたぶられるのを見るのは気分良いのか?教えてくれよ」
周りを見渡すが誰も目を合わそうとしない。
「ふん!胸糞悪い気分だ、行くぞ」
「はい、かしこまりました」
ダンテを率いてその場を去る。
集まっていた人垣がパックリと割れ、オレたちに道を開ける。
「こんな無駄な時間過ごすなら、泊まるところを探せば良かったな」
「いえいえ、エルザーク様の勇姿しかと拝見いたしました。わたくし感涙を抑えるのに必死で……」
「そういうのいいから。あーホントに胸糞悪かった」
皆んなの視線を浴びながらテクテクと歩いて行く。
「ま、待ってください!」
人混みから離れるところで後ろから声がした。
「お、お礼を。是非お礼をさせてください!」
引き止めるように少女はオレたちに向かって言った。