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ひねくれ魔王に愛の手を!  作者: 涙涙涙
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4話 三人の勇者

〜リベンジール王国の王子ルイス〜


彼の才能は幼少の頃より開花していた。物心つく頃には炎の魔法を操り家臣たちを驚かせ、10歳になる頃には王国騎士団の訓練に参加し剣の腕を延ばしていく。13歳の頃には彼にかなうものは王国内にはいなくなり、魔法無しの剣技だけでさえ騎士団長と副騎士団長が二人がかりで五分ともたないほどの腕前になっていた。全国民の祝福を受けた18歳の成人の儀、王族が成人を迎える証として、王家のしきたりでリベンジール王国の周りに連なる山の山頂にのみ生えると言われている霊草を取りに行ったときには、護衛隊をつけて向かったものの山頂目前にして突然の飛竜ワイバーンの襲来。魔獣がいないというわけではなかったが、出てもD〜Cランクの魔獣がほとんどの山中。飛竜一匹とはいえ、その脅威は一個騎士団を投入しなければいけないほどのものであったが、危険度Bランクの飛竜を前に彼は護衛兵たちに言った。「危ないから、下がっていてください」と。勿論、護衛としては命を賭して王子の命を守らなければいけなかったのだが、護衛兵は飛竜の迫力に体がすくんで動けない。だが、周囲の心配をよそに彼が魔法を放つ。飛竜と彼が炎の檻に囲まれる。突然の出来事に怯んだ飛竜を一閃、飛竜の首は宙を舞っていた。誰一人傷付くことなく成人の儀を終えたルイス。それだけでも数代来の異例。飛竜を討ち取り正式な王族の儀式を終えたルイスの帰還に国中の民が沸いた。城門から城までの道のりを民衆が埋め尽くす。途中、幼い女の子が彼のために摘んできた花束を渡そうと駆け寄ったとき、思わず転んでしまい花束が地面に散らばる。彼は落ちた花々を拾い上げ、転んで足を擦り剥き泣きそうになっている女の子の傷を世にも珍しい癒しの炎で治す。そして頭を優しく撫でながら「ありがとう」と告げた。人格、実力、共に兼ね備えた王子の姿に国民全てが「勇者」の顕現を認識した瞬間であった。




〜帝国リッドガルの姫エリン〜


彼女はフラストレーションを溜め込んでいた。『魔法帝国』と称される国の第三王女として産まれ、偉大なる魔法使いである父と母を持ち英才教育を受けてきた彼女。完全実力主義なこの国では王家も平民も関係なく地位を築き上げていく。最先端の魔法技術研究所の所長に就く兄をもち、数々の魔導師の称号を持つ魔法使いを生み出してきた魔法大学学長に異例の若さで就任した姉をもち、代々魔法使いのエキスパートとしての血脈に生まれてきたのだ。彼女がストレスを感じなかったのは産まれた瞬間だけ。外の世界の空気を浴び、産声をあげた途端に膨大な魔力が放出され部屋中の家具家財が余波によって粉々に砕け散った。出産に立ち会った者たちは全て実力ある魔法使いだったために一命をとりとめた。しかし、彼女の魔力の暴走は、駆けつけた国内最大の魔法使いである王と、幼少の頃から早くも魔法の天才児と言われていた兄と姉、出産直後だが稀代の魔導師と称される母、この四人がかりで全力で抑え込むまで止まることはなかった。すぐさま彼女は魔法技術の粋を集めた魔力封印の効果を持つ布に何重にも包まれ、やっとの事で母から授乳を得られる。何重にも封印を施された彼女だが、物心つく頃には様々な種類の魔法を発動した。10歳の頃、勉強嫌いな彼女が両親の説得というより命令に近い形で入った五年制の魔法大学も一年で卒業させられる。する、のではなくさせられたのだ。他の人よりも明らかに異質。彼女の魔力の一端でさえ、他の生徒の魔法への向上心や気概をへし折るには充分だったのだ。彼女が『全力を出せない』フラストレーションは、18歳になり他の二国の勇者と出会う時まで、続いた。




〜倭国ワジマの王子シュウ〜


北の国に手のつけられない暴れん坊が居た。国民は等しく『武』に携わっており専用の武器を操る民族。だが彼は「武器を持つなど女子供」と言って素手で強そうな相手を見るとケンカを吹っかけ、毎日ケンカを繰り返していた。だが、真剣を持つ相手にも素手で勝ってしまう天性の筋力や体のバネ、身のこなしが余計にシュウを助長させた。ワジマ国の王は自由奔放な人柄であったが己の息子のあばれぶりに手を焼いていた。子供ながらに大人を組み伏せ、15歳を過ぎると達人と呼ばれる国の道場の師範代達も倒してしまった。だが、強いというだけでは不満は出なかったのだが、あまりに礼を欠いた人を見下した態度に国民の不満は高まっていく。日毎に強さを増していく彼の先を見越し、多大なる灸をすえる為に国王は己の刀を見つめ「片腕一つでもとろうか。。。」と決心した時に事件が起きた。近隣の未開の森から蛮族が押し寄せてきたのだ。人というより獣。そんな野生の部族が千人押し寄せてきた出来事に、愚かにもシュウは嬉々として単身飛び込んで行った。だが、世の中は広い。シュウにも引けを取らない強さを持つ蛮族の族長と戦っている時に手こずった。互いに傷を負うが致命傷に至らない。そんな硬直が続いた時に悲劇が起こる。幼い頃からシュウに打ち負かされていたが何度も立ち向かってきたケンカ馴染みの男が助太刀にきたのだ。シュウは来るなと叫んだが、彼の喧嘩友達は血気盛んなようで怯むという言葉を知らなかった。勢い良く敵を蹴散らしたのもつかの間、二人はすっかり取り囲まれていた。彼は聞いた。喧嘩友達が「後は頼んだぜ」という言葉を残して敵軍に突っこんで行ったことを。彼は泣いた。喧嘩友達に剣や斧、弓矢や鎖が突き刺さるのを彼は見ていた。最後まで闘志の炎を消すことのない幼馴染の最期は、自慢の槍をポトリと落とす瞬間だった。齢18になろうという男が大きな声で泣いた。ヨロヨロと力無く槍を手にしたシュウは叫ぶように泣いた。「俺が弱いから」。「俺に力がないから」。喧嘩馴染みの男の槍を手に数分、いや、数十秒か経ったのち。彼はゆっくりと立ち上がる。「大事な者を守れる強さが欲しい」と胸に。幼い頃から教えられた、当時は鼻にもかけず聞き流していた数多の教授が頭を巡り、なんの考えもなくこなしてきていた特訓の成果が身体を駆け巡る。「守りたい」。それ以外に思うことはなくシュウは立ち上がる。目の前の敵を臆することなく、見くびることなく見据えるその目には、油断や余裕のひとかけらも見えなかった。ただ目の前の敵を倒す。その後はもはや戦いというものではなくなっていた。流れるような槍さばきは敵の急所を的確に貫き。襲い来る攻撃の嵐は手で払いのける木の葉のようになんの意味も持たない。慢心をなくし、ただ純粋に強さを求めた彼の後に敵はいなく、残されるはおびただしい数の死体のみ。蛮族の長は、語る間も無く地に伏していた。戦に勝利したシュウは国中に響くような声で叫ぶ。「俺はもっと強くなる!どんな敵からも仲間を守れるくらいに強くなる!」と。彼の声を聞いた人々は、なんの疑いもなくそれを信じ、国を率いるリーダーとして彼のことを認めた。戦の後を祀り、彼が国を旅立ったのはその戦の直後の出来事だった。






ーーーーーーーーーーーー




三国の王子と姫。

異類の力を持つ彼らが出会うのは最早必然だだったといえる。


しかし、エルザークの家臣ダンテと交戦することは、彼らにとって悲運、もしくは天災というほかなかった。。。




ーーーーーーーーーーーー



「ぐっ、、、がはぁっっっ!」


ダンテの平手打ち一発で地面に埋まるルイス。指一本動かすことが出来ずにひれ伏している。



「いや、、、、いやぁぁぁ!」

己の魔力を全て解放し一点に集め放出した魔力波を片手で握り潰され、返された魔力波からバリアを張るが数秒も持たないことを悟るエリン。



「そん、、、な、、、、」

指先一つで止められた渾身の槍の一突きでバラバラに崩壊する喧嘩馴染ともみの槍。殴りかかるも身体に届く前に弾かれ宙に落ちるシュウの身体。



それぞれが他に類をみない勇者と称えられ、語り継がれるほどの存在だった三人がただ一人の人物、ダンテの前にひれ伏している。



辛うじて攻撃を食らわなかったエリンも、地べたに座り込み無意識に下半身を濡らしてしまうほどに恐怖していた。



「あなた方はもっと強くなれる。我が主のため、さらなる高みを目指しなさい」



そう言い残してダンテは消えた。



絶対に生きて帰れる心地はしなかったが、一人の白い執事服を着た男の企みか、はたまた気まぐれにより三人は命をとりとめた。



だが、それは自分で勝ち取ったと誇れるにはあまりにもかけ離れた生存。

運が良かったとしか言いようのない命。



三人はやり返そうという考えも起こらぬまま、居なくなった男の立っていた跡を見つめるだけだった。





ーーーーーーーーーーーー




「なー、まだ人間の町は見えないのか?もう日が暮れるよー、お腹すいたよー、死んじゃうよー!!」


「エルザーク様、そんな簡単には死にませんよ」


「うっせ、わかってら!!だいたいお前のトイレが長いからじゃないか!?ウンチか!!?」


「いえいえ、大きい方と申しましょうか、随分と大物が出てきたので手こずってしまいまして」


「ふん!どんな言い方してもウンチじゃねーか、この変態執事!!」


「これはこれは、手痛いお言葉を頂いたもので。しかし、主人を待たせるとはわたくしもまだまだ修行不足。より精進していきますゆえ御容赦を。。。」


「ふん!大っきい方のときは一言言って行けよな」


「ええ、これからは必ず、そう致します」


そう言って、ダンテはいつもと変わらぬ笑顔で主と先へ進むのであった。

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