3話 勇者の末裔
真昼でも赤く染まる空。
黒い雲が空に浮き、稲光もよく目にする。太陽、というのをオレは見たことがない。ダンテに小さい頃から色んな世界の話を寝る前に聞かされていたから太陽の存在は知っていたが、この世界には太陽ではなく赤紫に光る満月が東より登り西に沈む。
オレの生まれ育った場所は『魔界』という所だ。
獰猛な生き物がはびこる世界。
『力こそが全て』
実にシンプルでわかりやすい。
強い者は生き、弱い者は死ぬ。
言葉が通じず、知性もなく本能の赴くままに殺戮や捕食を行う生き物を『魔獣』。
知性があり、各々の価値観や道徳倫理などを備えた生き物を『魔族』という。
もちろんオレやダンテは魔族となる。
見た目は普通の人間と変わらない。
挿絵つきの古い書物を以前見せてもらったからわかるが、違いがあるとすればダンテは黒い羽があるし、オレにも小さいが羽がある。ただダンテのような艶やかな最高級羽毛を感じさせるものではなく白と黒のまだらな羽だが。
そして、オレの執事であるダンテは魔界の王となるべき器だとオレに言う。
「わたくしが使えるべき主人は貴方様をおいて他におりません」
というのもよく言われるが、こんな化物級の魔族が何故?あんたが魔王になれるんじゃ?という疑問しか出てこないのである時期から考えないようにしていた。
でも、こいつは決してオレに嘘をつかない。
たわ言や戯言のような事でも、これまでに一度も、だ。
その証拠にほら。
ーーーーーーーーーー
「わー、太陽って眩しいや」
オレ、いま人間界に居ます。。。
「ダンテ君。。。」
「はい。なんでしょうか?」
「なんでしょうか?じゃねーよ!!なんだよこの青い空!白い雲?いきなり眩しい世界にようこそじゃねーか!!」
「は。エルザーク様、ここが人間界でございます」
「わかるよっ!!前から話を聞かされてたしさ!でもなに?どーすんの?住むとこは?食うものは??どーやって生活してくんだよ!?人間世界の生き方とかそんなんは!?」
「は。エルザーク様なら問題ないかと」
、、、殴りたい。
「ありがたき幸せ!」
跪きながら頬を染めニヤけるイケメン執事。まじ殴りたい。
「恐れながらエルザーク様。我が魔力でこじ開けた次元の切れ目はすでに閉じております。魔界の大陸一つを消し去るほどの魔力を使ったため、回復まで少々時間がかかりますゆえ。。。」
なにそんなに気張ってんの?
てか大陸消せんの?
魔王として君臨したら??
「、、、どのくらいだ?」
「三年ほど」
「確信犯だよね?」
「ははっ!ありがたき幸せ」
「褒めてねーよ!変態か」
「あぁ、、、そんなお言葉を。。。」
ダメだ。罵られて喜んでやがるこの執事。
「たく、、、んで?今回の目的は??」
「は!テーブルマナーの話が出たので良い機会と思いまして、人間界で集団行動や社会性、社交性、道徳や倫理など己の魂を向上させる勉強をするのもよいかと思いまして」
化物が社交性とか社会性とか口にして良いのか?
「わたくしも若い頃はこの世界で己を研鑽したものです」
「ふーん。そうなのか」
「ええ。必ずや身につくものがあるかと」
「、、、というか、来てしまったものはしょーがないよな。しばらく帰れないみたいだし」
「流石はエルザーク様!やはり器が……」
「うるさい。んで、どこを拠点にするんだ?見たところ周りは平原だし遠くに山や川しか見えないが」
「はい、ここから数キロほど離れた場所に人間の町があるようです。まずはそこに家を持ちましょう」
「やれやれ、わかったよ。んじゃ、とっとと運んでくれ」
「先ほど申し上げたようにわたくし魔力が底をついておりますので」
「歩けと?」
「流石はエルザーク様!ご聡明な……」
「うるせ。羽は?オレの羽小さいし飛べないぞ」
「わたくしもエルザーク様も羽ばたくのではなく魔力を揚力にして飛びますので……」
「、、、要するに飛べないから歩けと?」
「流石は……!」
「まじ殴りたい。。。」
こうして、オレの人間界での生活が幕を開けたのであった。
一方そのころ………
ーーーーーーーーーーー
「急げ!馬を走らせるのだ!!」
高さ数十メートルはある大きな城の中。
最上級の織物でできた官位衣を纏った大臣は慌ただしく場内を走り回っていた。
「へ、陛下!!!」
大陸を統べる三国の一つ、リベンジール王国国王の前に駆け込み、息を切らしながらも跪いて報告をする。
「ルベウスか。。。どうだ?」
「ははっ!仰せのままに、北の倭国ワジマと西の帝国リッドガルに馬を走らせました!!」
「そうか、ご苦労であった。しかし突然の巨大な魔力の出現か、、、一体何が?」
「わかりませぬ。このような魔力をもつ人間など見たことも聞いたことも。。。もしや、A級魔族が出現したのでは!?」
「ふむ、、、考えられるだろうな。かつてこの世界を震撼させた大魔族バウロス。この大陸の三国の祖となる勇者が打ち滅ぼしたという伝説の。。。」
「はい。伝承では人類の三分の一がそやつに亡き者にされたとか!再び人類の危機が!?」
「うむ。最近では三国のが勢力を伸ばそうと争いの姿勢を見せてきたが、共通の敵が現れたとなると再び力を合わせるしかあるまい」
「伝令の馬にもそのように!」
「よし。ならば魔力の出現地に一番近い我が国が先に確認に向かおうぞ」
「はっ!ですが、誰を向かわせて良いのやら。。。恐れながら我が国の一般兵ではとても歯が立たない相手かと」
「むぅ。。。」
玉座に座ったまま王が。
王の周りで家臣たちが。
跪いて報告した大臣が。
部屋の警護の兵士達が。
皆一様に目を伏せていたそのとき、
バターンッ!
王の間の大扉が開かれた。
ガシャガシャと音を立て、一目で並ではないとわかる装備に身を包んだ三人の男女が王の元に歩み寄る。
「おお、、、そなたたちは。。。」
「父上!只今戻りました!!」
「リベンジール国王、私たちも魔力を感じましたわ」
「強え奴の匂いがするなぁ。王様よ、俺たちに行かせてくれねぇか!?」
銀色に輝くプレートメイルに身を包み、竜殺しの名をもつ剣を腰に下げたリベンジール国の王子ルイス。
身軽に動けそうな金色の半身鎧に白いマント。赤い宝玉を先端につけた魔杖をもつ帝国リッドガルの姫エリン。
漆黒の袴と羽織、大柄な身の丈を更に上回る二メートルはある巨大槍を担いだ髷を結ったワジマ国の王子シュウ。
「戻ってきたか。。。」
リベンジール国王の顔が思わず緩む。
自分の息子を含め、伝説の大魔族を打ち滅ぼした勇者の再来と言われている三国の王子と姫が南の魔物退治から戻ってきたのだ。
「おお、、、伝承の通りに、再び勇者が集ったということか」
大臣のルベウスが祈るような姿で彼らを崇めている。
「しかし、お主たちは先の大義を全うし万全の体制でないのではないか?」
国王が三者の安否を伺うが、
「父上、何も問題ありません」
「そうですわ。ちょっとしたハイキングのようなものでしたし」
「今回はちっと物足りなかったぜ」
「なんと、、、」
南の地の村々を恐怖に陥れたブラックジャッカル。人の血肉を好み、夜になると活発化し村を襲う魔獣の群れ。この世界の冒険者ギルドが定めた規定でD〜Sまで五段階ある危険ランクのBに当たる魔獣を他愛もないと言い切るこの三人に、場にいたものは頼もしさしか感じなかった。
「なんと、、、そうか。いや、そなたたちでなければいけないのであろう」
一瞬悩んでいた国王が目を見開き、威厳を持った声を放つ。
「聞け、三国の勇者たちよ!この世界に再び大いなる危機が舞い降りた!力を合わせ、この世界を救うのだ!!」
「「「はっ!」」」
三人は右手を胸にかざし最上級の敬礼で国王の命に応える。
そして、大きな魔力を感じる平原へと向かい王の間を後にした。
ーーーーーーーーーー
「くふふふふ。楽しみですねぇ、エルザーク様」
「あ?なんか言ったか??」
「いいえ、他愛のない独り言でございます」
「んなことより、遠いし!」
「これも修行のうちです。さぁ、楽しんでいきましょう」
ああ、、、足痛いよぅ。。。