23話 みんなで帰ろ
翌日、学校へ向かう途中ルシアがキツそうなオレを見かねて「手を引いてあげる」と手を握ってきたが、大丈夫だと振りほどいた。ルシアがかなり悲しそうな目をしたので慌てて
「友達に冷やかされてハブられるんだよ」
と言うと、
「そっか、エルが嫌な思いするのは嫌だからあたしも我慢するね」
と言って案外素直に受け止めていた。
というか、あたしも、ってなんだ?
まるでオレが手を繋ぐのを我慢してるような言い方だな?
まぁ、確かにルシアの手は柔らかいし体が近づくたびに良い匂いがしてけしからんこと極まりないが………
まぁいい。
それでもルシアが心配そうに見守る中、なんとか学校にたどり着くことが出来た。
「じゃあねエル、帰りも一緒に帰るから待っててね!」
そう言ってルシアは中学校へと向かった。
オレも下学校に入り下駄箱で靴を履き替えていると、いきなり背中を叩かれた。
「ぐっ!」
体の重みもあってか靴を履いていた途中で片膝を床についてしまう。
「おはようエルザ!どうだ、昨日はスッキリ出来たか?、、、って、そんなに強く叩いてないだろ?大袈裟だな」
ハウロが爽やかな笑顔でオレに挨拶してくる。
くそ、予想以上に体が重たい。
「あ、ああ。大丈夫だ。それよりスッキリってなんだ?」
「あーいいからいいから。一人の時間は必要だよな?同じ男だからわかるぜ、うん」
一人で納得したような顔で頷くハウロ。
いったいなんのことだ??
「あ、おっはよーエルザ。それとハウロも」
「…………はよ」
後ろからアカネの声と細くて聞こえにくいが鈴のような綺麗な声がした。
「なんだそのついでキャラみたいな俺の扱いは?」
「うっさいわねー朝からイチイチ」
「………ていうか、シズネ今おはようって、、、」
オレがシズネの挨拶に気付くとシズネがアカネの後ろにササッと隠れた。
「おぉー、シズネもようやくエルザに慣れてきたかな?ていうかシズネと喋れるんだよ、さっきまでウチとお喋りしながら学校来たしね」
「………そか」
なんとなく嬉しくなってしまった。
仕方ないだろ、男の子だもの。
「それより早く教室行かないとチャイムなっちゃうよ?エルザもおじいちゃんみたいな動きしてないでサッサと行くよ」
うるせ。体が重たいんだよ。
そこからオレはなんとかチャイムギリギリに教室に入ることができた。
教室に入った瞬間、マコーレが頭に包帯を巻いてオレの方を睨んでいるのが目に入った。
(随分と大袈裟なことで…)
どうやら貴族のお坊っちゃんは相当甘やかされてるらしい。
さて、そんなどうでもいいことは放っておいて、今日も魔力を練りながら勉学に励むとしますか。
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「あらー、今日はあんまりキレがないのねー」
実践講座の時間、ハウロと木剣で打ち合いをしているとプラン先生が声をかけてきた。
「………筋肉痛なんで」
「ふーん、、、そっか。ま、無理しないでねー」
オレの体をマジマジと見た後、先生はそう言って他の生徒を見て回った。
「さ、いくぜー!」
ハウロが打ち込んでくる。
重くなった体が思うように動かない。
(これはなかなか、キツイな)
普通ならさばくことに問題はないハウロの剣も今はなんとか防ぐのに精一杯だ。
お互い息を切らしてくる。
「はぁ、はぁ。なんだかキレがわるいな、手ェ抜いてるんじゃないか?」
「んなことするか。オレはいつでも全力全開だ」
「んなキャラじゃないだろ。ま、いいか。いくぞ!」
二人とも一本取れないまま打ち合いを続けた。
「はーい、今日はここまでよー」
その内プラン先生が終了の合図を告げた。
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「ふぃー、今日も疲れたなー」
「ウチも、お腹減っちゃった」
「…………コクコク」
学校が1日終わり、オレたちは帰り支度をしていた。
「さて、帰りますかー………って、エルザ。お前帰らないの?」
「あっ、ああ。ちょっと体がだるくてな。悪いがみんな先に帰っててくれ」
「なんだそーだったのか。気にしないで言ってくれたら肩くらいかしてやんよ」
「そうよ、水臭いわね」
「…………ウンウン」
「いや、悪いしいいって。いいから先に帰っててくれよ、今日はゆっくり帰りたい気分なんだ」
「ふーん………ま、男にはそういう時もあるか。んじゃ、先に帰るぜ、また明日な」
「ああ、悪いな」
ふー、なんとか三人とも先に帰ってくれた。ルシアが一緒に帰ろうって言ってたしきっと迎えに来るんだろうからな。
、、、さて、そろそろ出ても大丈夫かな。
誰も居なくなった教室で人気のないことを確認しオレは教室を出る。
校門に向かい歩いていくてルシアの姿が見えた。
(やっぱりな。あいつらに見られたらうるさいだろうし、何言われるかわからんからな)
そう思い校門のルシアの元に近づいていくと、ルシアの横の壁、校門の後ろ側から人影が見えた。
(ん?誰か居る。ミッちゃんか??いや、複数の気配が。。。まさか)
「あ、エルおかえりー」
ルシアが声をかけてきた。
「お。それより、誰か居るのか?」
ルシアの肩越しに後ろの方を見てみると、
「おう、おつかれー!」
「ウチ待ちくたびれたし」
「…………」
こいつら、先に帰ってたんじゃ。。。
「水臭いなエルザー。恥ずかしがらなくてもみんなで帰ったら楽しいぜー!」
「水臭いわよエルザ。ウチたちにルシアちゃんを紹介したくなかったのね?」
「…………ジー」
三人がニマニマしながら眉毛を吊り上げながらジト目で見ながら三様にオレを見て言った。
「もうエルったら、あたしにもお友達紹介してくれたらいいのに」
そんなオレの気も知らないでルシアは嬉しそうな笑顔でオレに言う。
いや、だから先に帰らせたんだって。。。
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「えー、じゃあルシアちゃんって途中から引っ越してきたんだ!?」
「そうなの、両親が亡くなってからお爺ちゃんと二人暮らしだったの」
「へー、俺たちも一緒に遊ぼうって誘ってたんだけどいつも一人で居たから不思議だったんだ」
「うん、引っ越してから人付き合いも無くなったししばらくは誰とも遊んじゃいけないってお爺ちゃんに言われてたから」
「…………友だち」
「えぇっ!?シズネちゃん友だちになってくれるの!嬉しいなあ」
「あ、俺も俺も!」
「もちろんウチも!」
「うわぁ、あたし嬉しい!ねぇねぇエル、こんなにいっぱい友達できちゃった!」
きゃいきゃいはしゃいで飛び跳ねているルシアに言われてなんだかなぁって表情しかでないが、、、
「はいはい、よかったねぇ」
「あっ!全然心がこもってない!なんなの、もう」
「あー大丈夫大丈夫。ルシアちゃん、こいつルシアちゃんを独り占めできなくなって拗ねてるんだよ」
「えっ!?えっ、えっ、そんな。。。エル、あたし。。。」
「………いちいちうろたえんなって。ハウロ、あんまりからかうとこいつ本気にしちゃうだろ」
「おんやー、本気にしてもらっていいんじゃなーい?ウチらを先に帰らそうと企んでたエルザくん??」
「うるせ!こーなるとわかってたから言わなかったんだよ」
「…………素直じゃない」
えっ?ほぼ聞こえないように喋った。意外と突っ込むんだなシズネ。
「まぁまぁ、みんなで帰るのも楽しいよねエル?」
「………静かに帰れたらな」
「そうそう。ねぇルシアちゃん、もしよかったら今度ウチらと遊ばない?」
「えっ、いいの!?嬉しいなあ!じゃあさ、お爺ちゃんに家に連れてきていいか聞いてみる!」
………まずい。
「ありがと!そういえばエル、休みに行っていいか聞いてくれた?」
「そんな約束してたの?エルお爺ちゃんにそんなこと話してなかったよね」
………やれやれ。
「話すタイミング逃してたんだよ。これでも居候の身だしな」
「そうだったんだ!そんなの遠慮しないで言ってくれたらよかったのに。あたしもお爺ちゃんに聞いてあげる」
「やりぃ!これでエルザの家に遊びに行けるんだな!」
「…………やた」
「………許可してくれたらな」
「大丈夫、あたしも一緒にお願いするからね」
「じゃあ、明後日の休みはエルザの家に集合ね」
おおー、という掛け声をあげてオレたちはワイワイと家路についていった。




