2話 ダンテの笑み
「フンフーン♪」
台所から肉の焼ける良い匂いと鼻歌がする。彼は随分とご機嫌なようだ。
「エルザーク様〜。もうすぐできますからね〜♪」
「ああ、早めに頼むわ。魔力使ったから腹減って死ぬ」
家のすぐ横には巨大な竜がすでに死んでいるがな。
「いったいどうやったらこんな化け物倒せるんだ?同じ化け物なの?」
テーブルに頬を付き、家の外に横たわる晩飯の亡骸を見ながら呟く。
「おや!こんなヒョロ男なわたくしを化け物扱いとはヒドい!ヒドすぎます!」
どうやら肉が焼けたようだ。湯気の立つ肉の乗った皿をテーブルに運びながらダンテが心外と言うような声を出す。
「いや、確かに見た目はヒョロっとした細身だけどさ。ちなみにあの竜どうやって倒したんだ?」
「いえいえ、こちらに向かって飛んできたのおでこをテイっ!としただけでございます」
ダンテがオレの頭に当たらないようにチョップのような動きをする。
なに?そんなんで竜とか殺せるの?
全世界のヒョロ男子に謝れ。
「やめて。オレの頭あいつみたいに割れるから」
外の竜の頭はパックリと二つに割れていた。
「まさか!そんなことするはずあるわけがないです!!と、いうよりもエルザーク様にはそんなことはできない。と言った方が正しいですかね」
でた。
いつものこれだ。
『やらない』よりも『できない』という不可の言葉を投げてくるのはこいつの口癖のようだが、オレからしたらなんの信憑性もないものだ。
「そんなことよりも、熱いうちにお召し上がりください!」
目の前には竜のステーキが置かれている。こいつの料理は絶品だ。こんなふざけた性格だが悔しいと思うこともなく美味い。特にステーキの上にかかったダンテ直伝のソースにはぐうの音も出ない。
冗談半分で作りかたを聞いてみたことがあるが「秘密です」と得意の笑顔で交わされた。
変なものとか入ってないよね?
「入ってるわけがありませんよ♪」
人の心読まんでくれ。
「ふん。いただきます」
ガツガツと肉に齧り付く。
うん、やはり美味い。
うますぎるのだ。
「沢山お代わりがございますので」
「うん、お代わり。お前も食えよ」
「はい。ではお言葉に甘えて」
こいつはオレが食べろというまで決して食べない。ましてや先に食べ終わっていたなどと今までに一度もないのだ。
こいつなりの忠誠なのだろうか?
「ささ、お代わりです。ではわたくしも。。。」
ダンテはナイフとフォークを使い上品に肉を口に運び、ワインを口にする。
スキー場のロッジのような作りのこの家にはおよそ似つかわしくない所作だ。
まるで高級レストランの紳士のような食事姿。かたやオレはガツガツと肉を頬張る野生児か。。。
「、、、オレもテーブルマナーとか、覚えた方が良いのか?」
「おや?あれ程わたくしが教えると言っても耳を貸さなかったのにどういった心境の変化で?」
「、、、なんでもない。忘れろ」
「ふふふ、このわたくしにお任せを」
「げっ!?お、お前何を、、、」
いつも満面の笑顔を絶やさないダンテだが、更に笑みを深めアン◯◯マンの口元のようにニヤけた時のこいつはヤバい。本当に喜んで何かとんでもないことをするのだ。
初めてこの笑みを見たときは三歳の頃。
「空を飛びたい」
と言ったオレを上空3000メートルの所から笑顔で放り投げた。
あの時は色々なものをチビったものだ。
地面に激突寸前でダンテが拾い上げたらしいがもちろん気絶していたオレは知る由も無い。
2回目に見たときは五歳の頃。
「強くなりたい」
と言ったオレを三頭狼の子犬の群れに投げ込んだ。
もちろん親犬はダンテが吹っ飛ばしていたが、親をヤられ怒りに狂った子供達に危うく食い殺されそうになった。
3回目に見たのは今日の朝だ。
ダンテに教わっているのだがなかなか魔法ができず若干凹んで、
「魔法が使えたらなぁ」
と呟いた。オレは確かにその時部屋で一人だった。ダンテは森に果物を取りに行っていたはずだったが「エルザーク様!よくぞ決心を!!」とか言いながら部屋に突如現れ、オレを森(だった場所)まで連れ去り「体で覚えるのが一番です」と言って最初はオレに魔法を打つ気だったのだ。
慌てて「手本見るだけでいいから!」と命乞いのように叫んだのはまだ新しい記憶だ。ただ、そう言わなかったらオレはケシ炭になっていたかもしれない。
「ご冗談でしょう。エルザーク様があれくらいの炎でコゲひとつつくはずがない」
いやいや。
お前の頭ん中がご冗談でしょう?
人の頭の中を読むなと何遍言わせる。
「これは、大変ご無礼を」
。。。もう何も言うまい。
「んで、今度は何をしてオレを死の淵へ誘うんだ?」
「わたくしの忠義をそのように受け取るとは、、、あぁ悲しい」
「うるせ。どうせまたとんでもないこと企んでるんだろ?」
「企む、というよりも提案なのですが。。。」
「、、、イヤな予感しかしないが言え」
「人間界に行きましょう」
「へ??」