12話 始まる学校生活
「さて、そろそろ機嫌は直してくれたかの?」
「ふん!お爺ちゃんまであたしを辱めて!」
だいぶ収まってはきたものの、ルシアはまだプンプンしていた。
いやぁ、怒った顔も可愛いなこの子。
「いい加減諦めろよ。その方が早い」
「なっ!あんたもねぇ!!………」
「あいつらに弄られるネタが増えるぞ」
オレはダンテとダンテの書いた絵を感心しながら見ているゼベットを指差した。
「………そうね、わかったわよ」
しぶしぶながらも納得してくれたようだ。
「さてさて、ではお二人に話があります。どうぞおかけになってください」
二人とも椅子に座る。
オレとルシアが隣同士、ダンテとゼベットが隣同士で、オレたちはお互い向き合う形になった。
「昨晩、エルザーク様とルシア様がお眠りになられてからわたくしとゼベット様で話し合ったことがあります」
何を思い出したのか、オレの隣でボンっと顔が赤くなる音がした。気がするだけだ、実際ルシアは赤いが音は鳴ってない。
そして、
ダンテはゆっくりと端的に言ってきた。
「お二人には学校に通ってもらおうと思っています」
。
。
。
。
。
え?
ーーーーーーーーーー
えっ?
それからどうなったって?
「はーいみんなー!今日は転校生の紹介よ。さ、挨拶してね」
「………エルザだ」
オレの入る8歳クラスで自己紹介してるんだよ。
ザワザワ………ザワザワ………
「よろしくー」
「なーんか暗いやつだな」
「ちょい目つき悪いなー」
「クール系ー?」
「女の子みたいな名前ー」
オレと同い年の連中がオレを見ながらザワザワしている。
(ちっ、マジでめんどくさい。子供多いし半分くらい女の子だしマジこえ〜)
オレの8歳クラスは40人2クラスだった。ちなみにA組とB組の内、オレはA組である。
(ダンテのやつ、相変わらず無茶苦茶しやがる。人間界に来ても変わりなしだな)
昨日の昼間の話を思い出す。。。
ーーーーーーーーーー
『エルザーク様、もうおわかりのように魔族は人間にとって忌み嫌うもの。魔族というのは隠して絶対にバレてはいけませんよ。名前もエルザにしときましょうか。安易な偽名ですが、エルザーク様の名前は魔物の王としてのイメージが湧いてきますので』
エ◯タークとかぶると言いたいのか?
30〜40代くらいしかわかるまい。
『めんどくさいな………家でゴロゴロしてたい』
『何事も経験でございます』
聞いちゃいねーな主の言葉。
『7〜9歳で下学校、
10〜12歳で中学校、
13〜15歳で上学校、
16〜18歳で大学校と、年齢によって通える学校が違うのですから。行けるチャンスは今しかございません』
『で、でもダンテ。うちには学校に通う余裕なんて。。。』
学校に通えるのは貴族だけでなく平民も等しく平等だが、学費はそれなりにかかるのだ。平民の五人に一人くらいの割合でしか学校で学ぶことはできない状況だった。
『ダンテ殿が協力してくれることになっての。申し訳ないからと最初は断ったのじゃが、代わりに家で世話になりたいということでの。どうじゃルシア?』
『い、行きたい。あたし、学校に行ってみたいわ』
『ほっほ、なら決まりじゃの。エル殿、ルシアと学年は違うが同じ敷地内じゃ。よろしく頼みますぞ』
『ちょ、爺さん!あんたも勝手に………』
『エル。いや、なの?ウルウル』
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ああそうさ、オレが断れるわけないだろ。あんな風にウルウルした目でお願いされたら断れるわけない。
いや、いつかNOと言えるようになってやる。
「はいはい、静かに!じゃあエルザ君の席はー………あそこの後ろの席ね」
「………わかった」
この担任の先生はプランという。
茶色の長い髪をゆるふわウェーブでスタイルが良い。何より先に爆乳が目に入る。擬音的にユサユサどころではない。バインバインだ。
全く、見れたもんじゃない。
指差された席に向かうとオレの歩く足元に途中の席からに足が伸びてきた。反対隣の席からはクスクスと笑い声が聞こえてくる。
(なんだ?)
転ばせる気だったのだろうか?
そんなことしてなんになる?
ヒョイと軽く交わして席に向かう。
ちっ、と舌打ちが聞こえた。
見ると足を伸ばしてきた男の子は身なりのいい格好をしていてTHE悪ガキみたいな顔をしていた。その隣の男の子はTHE取り巻きみたいな顔をしている。
どうやら貴族のお坊っちゃんのようだ。
貴族を見たこともないけどな。
席に着くとふんわりと良い香りがした。
左の席を見ると、長い黒髪の清楚な感じの女の子が居た。大人しそうな印象を受ける子だ。可愛いし。
その子に目をとられていると前の席の女の子がオレの方に振り向いた。
「おっす、転校生。ウチの名前はアカネ、よろしくね!」
「あ、ああ」
少しどもってしまった。
まだ慣れてないんだよ!
ルシア以外の女の子は初めてなんだ。
肩くらいまでの赤髪で、おでこを出すように前髪をピンで留めているアカネ。黒髪の子とは正反対の印象で、男の子と混じって遊ぶような活発な感じだ。喋り方もパキパキしているし。この子も違うタイプで可愛い。
なんでこんなに一気に可愛い子に出会うかって?
神に聞いてくれ。
アカネが続けて喋る。
「この子はシズネ。ちょっと大人しいけどとっても優しい子だよ。仲良くしてやってね」
アカネが黒髪の女の子、シズネを指して紹介している。
ふむ、名前の雰囲気に合った女の子だな。よし、ダンテの言葉に従うわけではないがしばし付き合う学友だ。挨拶だけでもしておくか。
「よ、よろしくな」
まっ、またどもった!
恥ずかちい!!
「…………ボソ」
「えっ?」
シズネが何か言ったが聞き取れなくて思わず聞き直してしまう。そしたら、
プイ
っと顔を反対側に向かれてしまった。
やだ、何この地味に効くショック。
「あっはは!「こちらこそ」って言ったんだよ。この子大人しくて声小さい上に恥ずかしがり屋だから気を悪くしないであげてよ。特にあんたみたいにカッコいい男の子はさ。なぁシズネ」
オレがカッコいい?
どういう意味だ?
新手のイジメか?
オレが女の子にカッコいいなんて言われるわけがなかろう。
「…………」プイプイ!
アカネに言われシズネが黙ったまま首をふるふる振っている。気のせいか頬が赤らんでいた。
「よう、いきなりかましてくれるな転校生」
背中の方から男の子の声がした。
振り向いて見ると黒髪短髪で綺麗な緑色の目をしたヤンチャそうな男の子だった。
「俺の名前はハウロ、よろしくな」
爽やか系男子だ。
きっとモテるに違いない。
本能でそう感じる。
「おいおい、いきなり睨むことないじゃないか。仲良くやろうぜ」
爽やかな笑顔で返してきやがった。
眩しいじゃない!
「………ああ、よろしくな」
「なんだか斜に構えてるな。慣れないか?」
「ずっと人のいない山奥で暮らしてたんだ。人付き合いには慣れてない」
「えっ、そうなのか?友達とかは?」
「………いない。なんか文句か?」
「あはは、そうだったんだ。いや、気を悪くしたらごめんな。なら、今日から友達だ、よろしく」
爽やかな風を巻き起こしながら右手を差し出してきた。なんだ?新手の魔法か?
「あ、握手だよ。。。はは」
「………それくらい知ってる」
見栄張った!
本当はダンテから話を聞いてた程度しか知らない。頑張れオレ!
「よ、よろしくな」
オレも右手を出してハウロと握手を交わす。
「あー、ハウロだけ抜けがけずるいー!あたしもあたしも、よろしくね」
続けてアカネも手を出してくる。
ゴクッ。。。いい、のか?
恐る恐る握手を返す。
(や、やわらかひ………)
「ぷっ、、、はは!!あんた顔真っ赤だよ!はーウケる。ほら、シズネも!」
アカネが振ったシズネの方を見てみると、オレとは反対の方を向きながらおずおずと手を差し出していた。
(いや、めっちゃ震えてるし)
「お、おう。エルザだ、よろしくな」
シズネの震える手をオレの震える手が触れる。
シュバッ!!
指先が触れるか触れないかの瞬間にシズネが手を引っ込めた。
なに、このショック。。。
「あっはは!めーずらし、シズネがこんなに積極的になるなんて」
そうなのか?
ウサギ並みに怯えてるようにしか見えないが。。。
「はいはーい、そういうのは休み時間に親睦を深めてね。さ、授業を始めるわよ」
プラン先生の高めの声がして、最初の授業が始まった。
事前に渡されていた教科書という本を言われるままに開く。
こうして、オレの人間界での学校生活は幕を開けたのだ。




