体(イタミ)の消失
僕はいつもの帰路につく。
紅い太陽はフツフツと体を沸騰させるかのように熱く、痛くもえている。
黒い空と赤い太陽とゆう、不釣り合いな景色に見とれていた。
この不条理な世界の中で最も美しい。ふと、思い出す一説。
「鳥は卵の中からぬけ出ようと闘う 卵は世界だ 生まれようと欲するものは
一つの世界を破壊しなければならない」
-ヘルマン・ヘッセ『デミアン』
あぁ、そうか。僕は鳥だ。考え、散るだけでは生き足りない。
闘わなければ、この"世界"の外へ出る為に…!
少年はまた、夢を見る。
心に黒く染まった箱を持ち、大人達が作った檻に入った。子どもを飼育するための檻へ。子どもと一緒に笑っている子どもは僕の目には子供にしか見えない。死んでしまっているのだろう。もう、救えない。背後から声がした。
「何を見てるの?何かあるかい?」
顔が見えない。黒いモヤにかかっている不気味な大人は僕に言った。
「いえ、別に。ただ、死んでいると思いまして。」
あ、やっぱりだ。大人達はまたこの目で僕を見る。親と同じだ。
僕を虐げるようなこの目。僕を蔑むようなこの目。
箱の中身が重くなっていくのを感じた。
下を向き、言葉を無くしたまま自分の個別の檻に戻る。
そして黒く沈み、眠り落ちた。
ー助けて。誰か助けて。嫌だよ。何で僕だけ…。何で。
死ね。死んじまえ!こんなヤツら!!死んじゃえばいいんだ!
僕だけが苦しまなきゃいけないのはおかしい。そうだ!
僕が殺せば良いじゃん…。
目が覚めた僕の頬には涙は無かった。不思議と心は落ち着いていて、それ以上に気分がよかった。夢の内容はよく覚えていない。
いつもの日常を繰り返す。テレビの中ではもう一つの世界の子どもが笑っていた。
その裏では殺人やテロのニュースが流れていた。犯人の動機は「喧嘩中にむしゃくしゃしてやった」、「借金が払えないから」だった。
退屈。つまらない回答に呆れるばかりの僕の目は一つの回答に目を奪われる。
「人だって動物。オトナはその動物が成長しただけ。それにオトナは毒だ。有害性を持った生物だ。動物でもない。ねぇ?そんな奴らを何で殺しちゃいけないの?」
ドラマのセリフだった。そうだよ。ただの生物だ。百足や蠍や蛇と同じ。殺していい存在。その時、心に咲く鎖は錆び付いていた。
「次のニュースです。××県〇〇市にある、児童養護施設「 」で惨殺事件がありました。犯人はこの養護施設で生活をしていた児童で年齢は16歳だそうです。この少年の動機としては『つまらなかったから。あの"セカイ"で生きたくなかった』などと意味不明な事を言ってるようで警察は精神鑑定の結果とともに調査を進めていく方針です」
僕は笑っていた。夢の中で下を向いて、笑っていた。手に持ったナイフは赤い血をヒタヒタと床に垂らしている。
「何をしているのか分かっているのか!!おいっ!」
1人の男性職員が叫ぶ。床に死を置いた子どもに対して叫ぶ。
「えぇ、分かっています。殺しました。職員を。それが?」
子どもは首を傾げながら言った。目を恐怖に支配されている大人に対して言った。
「なぁ、止めないか。不満があるなら聞くから!なぁ!やめろ!やめろよぉっ!!」
醜いニンゲンはまた叫んだ。いつも見てきた強さは欠片すらも残していない。それを見た子どもはまた笑った。そう、愉悦に浸っていたのである。今、虐げていたあの大人が目の前で懇願し 恐怖し 願い 壊れ 祈り 死ぬ 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
「はぁ〜、もう終わっちゃった。大人もこんなに弱いのか。人って脆いな」
手に持っている、いくつものオトナとゆう名の生物を殺してきたナイフはカタカタと音を立て、床に落ちた。子どもはその場にしゃがみこんで一言、口にした。
「夢の中の子供の僕。やっと、やっと子どもになれたよ。やっと生きれるようになったよ。君はどう?」
外はけたたましいサイレンがなっていた。
警察官に連れていかれる時、僕はもう一つの"世界"を見た。
そう、夕景になびくもう一つの世界を…。
(現実の世界の僕。僕もやっと子どもになれた。やっと死ねるようになったよ。ありがとう)
目が覚める。涙は流れていなかった。
ー君も救われたのかな。よかったー
鉄の檻の中で一言呟き、僕は笑う。
(こちらこそありがとう、次は僕が死ぬ番)




