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姉弟。

柴田はづきは私立高校の二年生である。

弟の柴田みづきは同じ高校の一年生。年子と良く間違えられるが、実は二歳離れていた。

はづきは四月生まれ。弟は二年後の二月の早生まれだった。

両親は共働きで、家の料理は全てはづきがやっている。家事はみづきと分担していた。料理ははづき。掃除がみづきだ。

家族仲は凄く良い方だろう。親友のミケからブラコンだと言われてしまう程だった。


はづきが料理を始めた理由は、弟のみづきが切っ掛けだった。小さな頃は身体が弱く、小食だったみづきは、いつもお粥などを食べざるをえなかったせいで、味の濃い物が食べれなかった。調子が良くても味が濃くてご飯が食べれない。共働きで忙しい両親は、出来合いの物を買ってくる事が多かったせいだろう。

これではいけないと小学生ながらにネットを駆使して調べ上げ、弟の為にと手に傷を作りながらも出汁から学び、料理に励んだ功績か、気がつけば弟ははづきのご飯しか食べなくなっていた。


「嬉しいといえば、嬉しいんだけど……」


もう慣れてしまったので料理は苦では無い。月一の大量の買い出しもみづきは黙って手伝ってくれるし、片付けも手伝ってくれる。


弟は可愛い。可愛いが……。


「大きく育て過ぎた……」


小さくて可愛い弟が大好きだったはづきは、ごはんを沢山食べるようになって大きく、丈夫になっていったみづきに少々複雑な思いを持っていた。

中学では陸上部のエースとまで言われ、推薦で同じ高校に入ると言ってきたのには驚いたが嬉しかった。弟は可愛い。可愛いのは当然だ。ここまで育て上げたという達成感すらあった。


だけど、だけど……。


「小さくて可愛い弟が欲しい~!」


弟がいるのに弟萌えな、はづきだったのだ。



***



「だから編入生なんて論外。タイプでも無いし」


昨日の壁ドンから何かあったかとミケに聞かれて、思わずそう答えた。


「そうだった……シバはヒカル君のドルオタだった……」


ドルオタ、とはアイドルオタクの事だ。

ファンクラブには当然入っているし、行ける範囲のコンサートチケットの争奪戦に参戦は当然だ。転売は絶対に許さない。滅べ! と呪いを込めながら違反報告をよくしている。

両親の許可が出ないので遠征は出来ないが、都心部に住んでいるのでそれだけは強みだった。

部屋には作ったうちわが沢山飾ってあるし、お小遣いは将来の遠征用の貯金と公式グッズに費やしている。

部屋着はアイドルグループとヒカル君の名前が入ったパーカーだ。弟には、それで外には絶対出るなと不評だった。

熊のぬいぐるみをグループ人数分揃えて、ヒカル君を筆頭にお揃いの衣装を真似た服を作って着せ替えたりしている。


更にこのアイドルグループ、実は平均年齢12歳。弟属性が売りのグループだった。


「だって、ヒカル君は可愛いよ~!」


「ランドセルはないわ~~~」


「もう卒業しました! 今年から中学生です!! 学ランヒカル君が超かわいい!!」


「変わらないよ!!」


ミケは三毛門七海という名前だ。名字の「みけかど」から、ミケと呼ばれている。

スレンダーなショートヘアの眼鏡美人で読書好き。図書委員なのも、好きな本を経費で買えるからという不純な動機からだった。


シバとミケは名字の動物的特徴から話題になって仲良くなり、よくよく話すと好きな異性のタイプも互いに次元が違うと笑い合った。

なので現実で好きな男の話になれば、先ず次元の違う相手と特徴が比較される。

何故編入生がはづきにそんな事をしたのかは謎だったが、恋の話になるかと思えば、全くタイプが違うから論外だというのも互いに分かる話だった。


そんなやり取りを教室でしていたら、同じクラスの女の子から柴田さーんと呼ばれた。


「え?」


呼ばれて廊下の方を見ると、弟君だよーと嬉しそうに話している同級生と、ムスッとした顔のみづきがいた。


「………」


「あら?」


ミケは頬杖をついて事の成り行きを見守っていると、教室に入ってきたみづきははづきの机の前まで来て、ぼそりと言った。


「お腹空いた……」


「だから言ったのに! ご飯食べなさいって!!」


鞄の中から大きめのお弁当を取り出してみづきに渡す。


「朝ご飯ちゃんと食べてから朝練行くの!」


「うん」


短距離走選手であるみづきは足が長く、身体も大きい。そんなみづきに小柄なはづきがお説教している光景は、実はこのクラスの名物でもあった。

みづきはその走りからドーベルマンみたいだと言われている。はづきもストレートの長い黒髪なので、よく一緒に例えられるが、名前に柴が付いているので柴犬だとからかわれるのも多かった。


貰ったお弁当を嬉しそうに抱えて自分の教室に戻ろうとしたみづきを呼び止める。

まだ何かあるのかと不思議そうな顔をするみづきに、はづきはもう一つお弁当を差し出した。


「も一個用意したから、片方は直ぐ食べなさい。お弁当出来る前に出なきゃいけないなら前日に言ってよ、もう!」


重かったんだから、とふてくされているはづきに、嬉しそうにしているみづきの光景は微笑ましい。

みづきに尻尾があったら、嬉しくてぶんぶんと振られていることだろう。


「シバのふてくされた顔って、ほんと柴犬そっくり」


ミケがぼそっと言った。

ミケ曰く、はづきのふてくされた顔は、リードを引っ張られながらも拒否をして、顔の肉が一カ所に寄った、あの不細工な顔だという。


「黙っていれば大和撫子系美人なのに……なんてぶちゃ可愛いの」


「褒めてるの!? 貶してるの!?」


きゃんきゃん抗議する様も可愛いと、ミケははづきの頭を撫でていた。

その様子をスルーして、黙って帰ろうとする弟を呼び止めて、はづきは言った。


「何か言う事は?」


「……ありがと、姉ちゃん」


「よし!」


言いそびれたなら今度からメールしなさいよねと文句を言いつつ、自分の席に座る。

話は終わったとみづきも教室に帰ろうとして、その足がピタリと止まった。


「どうしたの? みづ……」


みづき越しに、廊下からこちらをじっと見つめている男子生徒に気付いたはづきは固まった。

昨日、下駄箱でボディーブローでお返事した編入生がこちらを見ていた。

金髪碧眼の彼は非常に目立つ。


「柴田さん、いい?」


クラス中にざわりとどよめきが走る。

みづきは思わずはづきを見ると、その顔色が悪い事に気付いた。

二つのお弁当箱を抱えたまま、みづきは「何?」と返事をした。


「え?」


「柴田は俺だよ。用があるんだろ? 行こう」


「え、ちょ……」


みづきは無理矢理編入生を連れて行く。これにクラス中は呆然としていた。


「……あれ? みづきに用があったの?」


「違うでしょ!!」


はづきの呟きにミケがすかさず突っ込んだ。


「シバのブラコンもそうだけど、弟君も大概よね」


ミケは溜息を吐いてそう呟いた。




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