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銀河戦國史 (トーマ星系の反乱と勇者タオ)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
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タオの新天地

タオの新天地


「ほう、サバ村から、生贄が・・ああいやいや、労働者の応募があったか。」

 軌道上施設にある執務室で、ガミラは蔑むようなまなざしで、手にしたタブレット端末を見つめた。指を画面上でスライドさせると、それに連れてタオを始め、サバ村からやって来た者達の顔が、次々に画面上に滑り込んで来た。

 ガミラはトーマ星系人だ。同胞が見れば一目で、アメリアの末裔ではなく、トーマの人間だと分かる。ボレール星団の者同士での出身地の見分けは、やや困難になるが、アメリア人とボレール人の見分けは容易だった。

 ガミラの表情には、同胞との出会いを喜ぶような色は、全く見えない。無表情に5人の顔と素性を確かめ終えると、タブレット端末の上辺に備えられたマイクに向かって言った。

「通せ。」

 タオとその一行が、ガミラのいる執務室に連れられて来た。ガミラは彼らに背を向け、窓からの景色に見入っていた。赤黒い巨星が窓の中で、ゆっくりと回転していた。回っているのは彼らの方だが。

 その回転がもたらす遠心力に身を委ねて、ガミラはどっかと、ソファーに腰を落した。

「何を求めて、ここに来た?」

 ガミラは尋ねた。タオが5人を代表して答えた。

「故郷の集落を救う方法を見出す為に、来た。」

「収穫物の豊富な分け前に預かり、故郷の者の腹を満たしてやるのか。」

「うむ、それも良いが・・、それで目先の危機を脱する事も重要だが、出来れば集落の資源収集力を上げたいんだ。その方法を求めている。ウミからの資源採取だけでは限界があるんだ。」

「そうか、いずれにせよ、故郷に豊かさをもたらすのが目的か。」

「豊かさ・・?まぁ、そうなるのか?・・別に豊かってほどじゃなくてもいいのだが・・。飢えによる病で死ぬ者が出ない程度には、収穫を得たい。あんたもそうだろ?故郷の者の事を想って、勇気を振り絞ってコーギの事業に参加したんだろ?」

「あー、まぁ、そうだ。」

「共に頑張ろう!故郷の為に。」

 タオは手を差し出した。ためらいがちに、ガミラはその手を握った。

「で、俺たちは何をしたらいい?」

 握手を交わしながら、タオは尋ねた。

「まずは、我々が使っている資源採取船の操縦を、訓練して習得してもらおう。」

「おう!船の操縦は得意だ。すぐにマスターしてやるぜ!」

「よし、彼らを訓練施設に案内しろ。」

 ガミラが、タブレット端末を通じて従卒に命じると、その後すぐに執務室に入って来た従卒に導かれて、タオたちは退出して行く。

 一人になるとガミラは、また赤黒い巨大惑星を見つめながら、つぶやいた。

「なんだあれは、青臭い。同じトーマ星系人だと思って、親近感でも覚えておるのか。くだらない。」

 吐き捨てるような言い回しだった。

「故郷の為に!?そんな言葉を吐いていられるのは、今の内だけだ。すぐに己の事しか考えられぬようになる。奴隷として酷使される日々の中では、己の命一つを繋ぐのが、精一杯になるのだからな。」

 赤黒いガスの塊の中に、何かを探すかのように睨み据えながらガミラは言った。

「故郷の為に何かを得るだと!?そんなものここには無い。ここにあるのは、己一人の豊かさの追求だけだ。他者を出し抜き、己一人が富を独占する。そんな情景しかここには無い。」

 ガミラの口元が嘲笑に歪んだ。

「フフフ・・。それすらも、お前たちには与えられない。なぜならここでは俺が、全ての富を独占するからだ。クッククク・・、俺がここの支配者なのだ。お前たちを奴隷として酷使し、俺一人が全ての富をしゃぶり尽す。フフフフ・・、故郷の事など忘れ去り、ただ己の命を繋ぐ為だけに、死ぬまでここで、馬車馬のごとく働き続けるのだ。フフフフフ・・、ククククク・・・・。」

 嘲笑に肩を震わせるガミラの背が、赤黒い惑星の怪しい光に重なって、無底の暗黒のごとき陰を浮かび上がらせていた。

 馬車馬と言われても、タオには分からないだろう。馬という動物を見た事も無いのだから。

ガミラのいた集落では、かつて馬車を使っていたのだ。第5惑星のファイとは別の衛星上で、物資の運搬に使われていた。

馬はその環境中では、すぐに死んでしまう事から、今では使われていないのだが、ガミラにとっては、死ぬまで働かされる哀れな存在の代表だったのだろう。

 そしてそれが、タオ達に待ち受ける運命なのだろうか・・・。


 タオの操る採取船が、赤黒いガスを切り裂くように、惑星ガス雲から飛び出して来た。惑星の環の一部である、中空を浮遊している氷塊を、ひょいひょいと軽快に躱して、軌道上施設に飛び込んだ。

「まさか・・、あいつ、突破したのか。」

 リークは唸った。

 採取船の操縦を習得するには、最低でも3ヶ月はかかるはずだ。才能の無い奴は一生かかってもモノにならない。それをたった2週間でここまで・・・。

 ガス雲の中に設置された障害物の群れの中に、幾つかのターゲットブイが漂っており、障害物を避けながらブイを拾い上げるという、採取船操縦の修了テストを、タオは易々と突破したのだ。

 10年以上のキャリアを誇るリークですら、出した事の無い好タイムをたたき出しての、一発合格だ。

 彼と同時にテストに臨んだ10名程のパイロット候補生は、半数が脱落した。3名は障害物に激突し、1名はその衝撃で死亡した。

合格したのはタオともう一人だけで、その1人は半年の訓練期間を経て3度目のトライでの合格だった。

そんな過酷で命がけのテストに、本来なら3か月以上の訓練期間を終了してから臨むはずのテストに、訓練開始から2週間で恐れ一つ見せずに挑み、過去最高のタイムで一発合格するという快挙に、リークは嫉妬と屈辱を覚えた。

「気に入らねえ。潰す。」

 リークはドッキングベイの傍の物陰に潜み、タオを待った。

 採取船から降りたタオがそこを通りかかった時、リークは背後から殴りかかった。渾身の一撃でタオを再起不能に陥れてやるつもりだった。

 今日までは彼がここのエースだったのだ。だが明らかに、彼はタオに抜かれた。10年戦士の彼だが、操船技術ではタオに勝てそうにも無い。だから彼は、殴ってタオを潰す事にしたのだ。

 ただ嫉妬の感情だけでそうするのではない。エースの座からの陥落は、彼の生活や未来や、生命さえも脅かす事態なのだ。

 エースパイロットの座を3年間保持すれば、採取船チームの指揮官の地位が与えられ、配給される食糧などの生活物資も豊かになり、危険な現場作業からも解放される。安全な所から指示を出すだけでよくなる。

 富と平穏がその手中になるのだ。あと3か月、エースパイロットの地位に留まれば、彼は手にできるはずだったのだ。

 だが、タオが現れた。明らかにタオの腕はリークより上だから、2年9か月エースの地位を保持し続けたリークの苦労は、水泡に帰してしまう事になる。冗談じゃない!

 粗末な食糧、過酷な業務、そして採取業務を続けていれば、いつ死が訪れても不思議ではない。そんな地位に、これからも留まるなど、冗談ではない!ようやくその地位から解放されようとしていたのだ!

 だから、タオは殴って潰す。潰さなくてはならないのだ。

 一発で決めなければいけない。武器の所持も使用も不可能だ。作業者全員に装着されている腕輪が、それを許さない。その腕輪は、携帯監視装置だ。作業者たちの行動を監視し、制御する物だ。

 武器を所持したり使用したりすると、強力な電流でカラダの自由を奪われ、地獄の苦痛を味わわされる。暴力をふるってもそうだ。殴った瞬間に同様の事が起こる。

 だから、殴って、一発で再起不能に陥れなければいけない。

 殴った直後には電流の苦痛が待っているのだが、それさえ堪えれば、起こってしまった事に関しては不問だったから、暴力沙汰の犯人だと明らかになったとしても、これまで通りエースパイロットでいられるのだ。

 彼ら作業者を奴隷として使い、いかに効率よく採取業務をこなすか、という事しか、彼らの使用者は考えていないのだ。道徳も倫理もここには無い。

人殺しだろうが荒くれ者だろうが、採取の実績さえ良ければ、事後には何のペナルティーも与えない。しかし殺人や暴力による怪我が続発すれば、採取の戦力低下につながるので、一定の防止策は講じてある。ただそれだけのことだ。

今タオを一撃で再起不能に陥れれば、一時の電流地獄の後に、これまでと変わらないエースパイロットとしての日々が帰って来て、そして3か月の後、彼は晴れて指揮官となり、安全な業務と豊富な配給を獲得できる。

 そんな、リークの将来を担った渾身の拳が、タオの側頭部めがけて突進した。

 リークは確信していた。酔いしれてもいた。何と素晴らしき我が拳。確実にこの男を再起不能にできる。死ぬかもしれないが構わない。

 それだけ見事な拳を繰り出していたはずだったのだが、タオはひょいと躱した。後ろに目があるとしか思えない身のこなし。

(なぜだ・・、なぜだ・・、なぜだ・・・・・。)

 そんな思いと共に、リークは電流の苦痛を味わうことになった。

 “電気ショック”が終わるのを待っていたかのように、タオは話しかけて来た。

「お前の地位を奪ってしまう事になるのは、済まないと思っている。豊富な食糧と安全を手に入れたいのは当然だ。あと少しでそれが手に入るところを、俺が妨げてしまうのだからな。こういう行動に出てくることも、予測していた。」

「ちっ・・、憎ったらしい野郎だ!」

 電流のダメージで虫の息のリークは、床の上に大の字で横たわったままタオを見上げながら、何とか声を絞り出した。

「操船だけでなく、暗闘にも長けてやがるのか。全てお見通しか。」

「俺はどうしても、ここでエースパイロットになって、ヤマへ行く資格を得たいんだ。ヤマへ行って、ヤマを有効利用する方法を学ぶんだ。そして、それで故郷の集落を救うんだ。どうしてもやり遂げなければいけないんだ。」

 タオは悲しみを湛えた瞳でリークを見ながら続けた。

「お前には関係の無い事で、お前の苦労を水の泡にする事になってしまう。その事は本当に済まないと思う。」

「エースパイロットになれば、ヤマへ行けると思っているんだ、お前。」

 そういって嘲笑を浮かべたリークに、

「ああ!ガミラが約束してくれた。エースパイロットを3年続ければ、ヤマへ行く資格を与えてくれるって。」

「お前、それを真に受けているのか?ククク・・。」

 リークの嘲笑に、タオは少し不安げな表情を見せたが、すぐに消えた。

「ガミラは同じトーマ星系の同胞だぞ。疑う理由なぞあるか。」

 そういって、タオは踵を返し、居住エリアへと戻って行った。

「同胞・・クククク、故郷・・クハハハ、愚かな。馬鹿なことを言っていやがるぜ。ガミラは欲に目がくらんだ鬼畜だぞ。己一人が富を得る為に、コーギに魂を売ったんだ。トーマの同胞だろうが何だろうが、情け一つかけはしないんだ。お前は一生ここで、奴とコーギを肥え太らせるためだけに働かされ続けるんだ。故郷になど、もう二度と戻れはせんのだ。故郷を思い出す気力すら失う程の、絶望の中での過酷な労働が、お前を待っているんだ。クハハハハハハ・・・。」

 嘲笑を浮かべていたリークの顔に、悲しみの色が満ちて来た。

「こいつをつけられた瞬間に、お前の運命はそう決まったんだよ。」

 リークは、たった今自分を電流で苦しめた腕輪を、目の前に掲げた。

「同胞だからと油断して、こいつを装着されるのを黙認した時に、何もかも失っちまったんだよ、お前は。」

 「お前」と言うのはタオの事だったが、リーク自身の事でもあった。

「一生奴隷なんだよ、お前も、俺も。」


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[一言] 素手で一発で再起不能の攻撃を仕掛けるなんて、背後から殴りかかるのではなく、目潰すとかじゃないときつそうっすね…
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