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銀河戦國史 (トーマ星系の反乱と勇者タオ)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
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エピローグ


「そんなことまで、遺跡から見つかった資料には記されていたの?」

 エリス少年は呆れたように言った。

「メイリにキスされた秘密を、誰にも言うわけにはいかないけど、黙ってはいられなかったんだろうね。」

と、父はマクシムを弁護するように言った。

「何千年も後の時代の僕らに、そんな事カミングアウトされても困るよね。」

と言いながら、エリスは嬉しそうだ。

「でもとにかく、そのマクシムが紙に伝記を書いてくれたおかげで、この4000年も前に起こったトーマ星系の出来事を、僕たちは知る事が出来たんだ。」

 マクシムの手柄を、エリス少年は心から褒め称えたい気持ちだった。

「そろそろ、晩御飯の準備をするわよ!」

 父の長い話の途中に帰宅していた母が、キッチンからそう叫んで来た。

「おお、もうそんな時間か。じゃ、父さんはちょっと行かなくちゃ。」

そう言いおいて、父はリビングを出て行った。

 エリスの両親は、2人で一緒に夕食の調理をするのが日課だった。

 ハウスコンピューターに命じれば、何もしなくても食事くらいすぐに出て来るのだが、彼の両親は、自分達2人で一緒に造ったものを食べる、という事にこだわっていた。

 エリス少年は、リビングからそっと出て、キッチンで調理に勤しむ両親の背中を覗き見た。

「タオとメイリも、あんなふうに仲の良い夫婦になったのかな?」

 そんなつぶやきの後、少年も両親の間に割って入って、夕食の準備を手伝った。

数十分の後には、エリス少年は両親と共に、テーブルに並べられた美味しそうな御馳走を囲んでいた。

「いっただきまーす!」

「たっぷり食えよ!」

 家族の夕食が始まった。

「その後、タオやメイリは幸せに暮らしたの?」

 エリス少年は、先ほどの歴史談義に舞い戻って、父に尋ねた。

「伝記には、その後の様子は記されていないけど、トーマ星系第5惑星の衛星ファイから採取されるピンクサファイアは、その後ボレール星系中に行き渡り、珍重されることになるから、ファイの開発は成功したのだろうし、十分な量の資源を確保できるようにはなったはずだよ。」

「だったら、サバ村の人達は、その後は豊かで平和な生活を送る事が出来たんだね。」

「うーんそうだな・・、豊かと言うほどのものでは無かったかもね。遺跡から分かる範囲で言えば、ミナト家の人々の様な“みやび”な生活は、その後も出来なかったようだし、岩石惑星で暮らす人々と比べても、その生活は貧しいものだったようだね。餓死者が続出する程の貧しさからは、脱出できたのだろうけど。でも平和な暮らしは出来たと思うよ。」

「ふーん、トーマ星系にはその後戦乱は無かったの?」

「まあ、ずっと時代が下れば、5回に渡って戦われた銀河大戦などがあって、銀河中の全ての人が無事では済まなかったからね。それに、銀河暗黒時代には、銀河の全ての宙域が1つの帝国の支配下に置かれたわけだから、トーマ星系の人々も、ある程度の辛酸は舐めただろう。でも、タオやその孫の時代くらいまでは、トーマ星系は平和だったと思うよ。」

「そうか、じゃあタオは、メイリと平和な暮らしが出来たんだね。でも、飢えに苦しむ程の事は無くなったけど、周りの惑星や星系と比べたら、貧しい生活だったんだ。」

 エリス少年は、思いを巡らせる表情で続けた。

「タオは、そんなに豊かな暮らしは望んでなかったと思うけど、メイリと一緒に居られれば、少しくらいの貧しさなんてへっちゃらだったと思うけど、でも、あんなに頑張ったタオにも、平和と豊かさを両方手にするのは難し事だったんだね。」

 そう言いながら、エリス少年は目の前におかれた、温かなスープを見つめた。

「なのに僕は、何の努力もしてないけど、平和も豊かさも手に入れられちゃってるよね。」

 少年の声は、少し沈みがちになっている。

「なんか不公平な気がして来るな。僕このスープ、飲んでもいいのかな?」

 そんな風に、遥か昔の人に共感したり、思いを寄せたりできる息子に、父は尊敬の念すら覚えた。何て優しい子に育ったのだろう。

「タオもメイリも優しいから、エリスにそのスープ飲んで欲しいと思うのじゃない?」

と、母は言った。少し考えたエリスは、

「そうだね、このスープを飲まない方が、タオ達の頑張りを無にする事のような気もするね。昔の人達の色んな頑張りの上に、今の僕たちの暮らしがあるのだからね。」

 少年の声色は、またいつもの明るさを取り戻した。

「でも僕、美味しいものを食べる時は、歴史の中で頑張ってくれた人たちの事を思うようにしよう。みんなのおかげで美味しいものが食べられるって事を、忘れないようにしよう。」

「それは良い心掛けかもね。」

 我が息子を眩しそうに見つめながら、父は言った。

「あーん」

と、エリスは目いっぱい大きく口を開けて、温かなスープを流し込んだ。

(タオ、メイリ、その他のたくさんの、歴史の中で頑張ってくれた人たち、みんなのおかげで飲む事が出来たこのスープ、とってもおいしいよ!)


 黄泉の狭間にたゆたう、遥か古代の、激動の時を生き抜いた勇者とその妻の御霊が、そんなエリスの心の声に、温かな眼差しを投げかけている・・・・・・・・・・かもしれない。


今回舞い込んだ一葉の物語はこれで終わりです。

いずれまた、別の葉が歴史の大樹より舞い落ちてくることでしょう。

では。

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