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銀河戦國史 (トーマ星系の反乱と勇者タオ)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
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タオの特攻

「そ・・そうだ・・そうだった。罪の意識に動転している場合じゃない。もうこれ以上、カンザウの刺客に誰も殺させてはいけない。これ以上の犠牲者は出したくはない。」

と言い、シーザーは通信係の者に尋ねた。

「他の反乱軍の様子はどうだ?コーギ側に付いていた連中は?」

「お・・お待ちください・・今調べます。」

 しばしの間をおいて、報告があった。

「コーギ側に付いていたトーマ人達は、全員反乱軍への降伏を申し出ているようです。あちこちから、投降を表明するメッセージとそれを受け入れるメッセージの履歴が見つかりました。」

「親分だったコーギが全滅させられたら、もはや戦い続ける意味は無いだろうな。」

と、ガミラが言った直後、

「あ・・ああ・・、隊長!カンザウの刺客から、反乱軍全体への無線が入ってます。繋ぎます。」

 そして操縦室内に、タオ達がウミからヤマに向かっている時にも聞いた声が流れて来た。

「トーマの諸君聞こえるかの、われらはカンザウの使者でおじゃる。諸君らの活躍もあって、コーギの者共の誅殺は上首尾に完了いたしておじゃる。今後はわれらカンザウ一族が、ヤマの開発を指導して差し上げる故、いちどトーマのみなみなと、ゆるりと話がしたい。場所を指定するよってに、そこへみなで集まってたもれ。コーギの手下として働いておった方々も、コーギ誅殺が成った今、反乱軍に降伏し従うのが上策じゃぞよ。われらはコーギの手下であった者達も差別するつもりなど無い故、安心して反乱軍に着き従うがいいぞよ。」

「ちっ!俺たちの皆殺しも、着々と進めるつもりでいやがるな。おい、いま通信がつながっている連中にだけでも、カンザウの刺客に従わない様に伝えろ!奴らが裏切り者だと教えてやるんだ!」

 シーザーの言葉を受けて、全員が弾かれたように通信設備に飛びつき、通信先の部隊への説得を開始した。

 タオも通信機に向けて怒鳴った。

「おい!聞こえるか!こちらはシーザーの部隊だ。今のカンザウの刺客の言葉には従うな!奴らはお前たちを皆殺しにするつもりだぞ!指定された座標にのこのこ集まって行ったら、さっきの閃光を浴びせられて、殺されるんだぞ!」

「は?何を馬鹿なことを。あの方々はわれらの神だ。救世主だ。見ただろう!さっきコーギの悪鬼どもを葬った業を。素晴らしきチカラだ!あの方々に付き従えば、俺たちの未来は安泰だ。もう痛みも苦しみも味合わなくていい。」

「違うんだ!カンザウはお前たちを指導するつもりはないんだ!皆殺しにするつもりなんだ!」

「ふざけるな!失礼な事を言うな!われらの神カンザウ様を愚弄する事は許さんぞ!アメリア星団の素晴らしい技術を俺たちに授けて下さるんだぞ!あの方々は、セクリウムの化身に違いない。」

「はぁ?セクリウムはボレール星団にしかない元素じゃないのか?なんでアメリアから来た奴がセクリウムの化身なんだ?しっかりしろ!冷静になれ!さっきの恐ろしい攻撃が、こんどはお前たちに向けられるんだぞ。」

「うるさい!話にならん!お前こそさっきの“神の雷”を受けて死に絶えてしまえ!」

 その言葉を最後に、通信は一方的に切られてしまった。

 他の反乱軍部隊も、同様だった。皆、先ほどのビーム兵器や核兵器で、すっかりカンザウの刺客に畏怖と尊崇の念を抱いてしまったようだ。

「反乱軍の宇宙船も、コーギの手下だった連中の宇宙船も、続々と、刺客の指定した座標に向かっています。」

 そんな報告がもたらされ、シーザーも彼の部下達も焦燥を露わにしていた。

「どうする。このままじゃ奴らの思う壺だ。何とかならないか・・」

 その時、

「宇宙船が一隻、カンザウのミサイルに追われています!」

という報告が届いた。

「何、もう皆殺しが始まったのか?まだ集まり切ってはおらんだろ。」

「いえ、コーギの生き残りがいたようです。さっきの攻撃を逃れ、宇宙船で離脱を試みている所を、刺客に見つかって、ミサイルを撃ち込まれようとしている模様。」

「なんとか助けてやれないか?見殺しにはしたくない。」

タオの言葉にシーザーが答えた。

「俺も同感だが、助ける手段が・・。」

「宇宙船から脱出してしまえばいいんだ。なぜ、そうせん?」

ガミラが言った。

 通信係がしばらく、その追われている宇宙船と連絡を取り合った様子で、改めて報告して来た。

「例の宇宙船は、乗員がとても多く、全員の脱出は不可能だそうで、誰かを見殺しに一部の者だけで生き残るのは嫌だから、このまま全員で運命を共にするつもりの様です。」

「脱出できないのか・・。難儀な奴等だ。」

と、ガミラ。タオが口を挟んだ。

「この宇宙線は、全員の分の脱出シャトルがあるのか?」

「この船は、超が付くほどの人手不足だからな。幸か不幸か脱出シャトルは余っているくらいだ。でもシャトルをあの船の届けているようなゆとりはないぞ。」

と言うシーザーの返答にタオは、

「全員脱出した後、この船をミサイルにぶつけるんだ。」

と言った。

「船をミサイルに・・。そんな曲芸みたいなこと、何百回に一回成功するかどうかだぞ。」

「俺、多分できる。俺に船の操縦を預けて、全員脱出してくれ。」

「おい待てタオ!お前自分の命捨てて、あの船を救おうって気か!」

慌ててマクシムが言った。

「いや、ミサイルにぶつかる直前に、俺も脱出する。大丈夫だ、俺も死なぬし、あの船も救う。やって見せる!」

「無茶だ、そんなの。自殺行為だ!」

マルクもタオを止める構えだが。

「頼む!やらせてくれ!」

とタオが言うと、シーザーは、

「自信があるんだな。お前は絶対に死なないと、言い切れるんだな。」

と言い、マルクの方を向き直り、

「コーギ一派の者を、もうこれ以上死なせたくない。賭けてみよう、タオに。」

と言った。

「有難う。必ずやって見せる。みんな急いでシャトルで脱出してくれ。俺の分の者シャトルは残してくれよ。」

後半は冗談めかして言った。

「総員退避だ!急げ!」

シーザーは大音声で号令し、彼の部下は俊敏な動きで、彼の指示に従った。

「俺はお前と同じシャトルで脱出するからな。」

と、マクシムが言うとタオは、

「危険だぞ。先に脱出しておけ。」

と言ったが、

「必ず成功するんだろ?お前がそう言うんだったら、危険など無いって事だ。」

と言い返した。

「分かったよ、勝手にしろ。」

タオがそういうと、

「タオの脱出シャトルの操縦者は、俺しかいないよな。」

とリークが言った。

「俺たちも、意地でも離れないぞ。」

と、カリンが言い、ソイルとプロームが頷いた。

「ここまで来たら一蓮托生だ、俺もお前らと同じシャトルに乗る。」

と、ガミラまでが、タオと運命を共にする道を選んだ。

「お・・俺も・・」

と、マルクが言いかけたが、

「お前は駄目だ。命令だ。俺と共に来い。」

と、シーザーに命じられ、渋々彼に付いて行った。


 シーザー達の脱出が完了し、操縦席にはタオ達のみが残された。

「操縦の仕方、知らないけど分かるんだろ?」

 長年タオを見て来たマクシムがそうタオに尋ねた。

「ああ、初めて見る操作装置だが、自分の手足のようにこの船を動かせると思う。」

「何だというのだ、その特殊能力は・・。」

と、あきれ顔で言ったリークは、

「では俺たちは、先にシャトルに乗って、いつでも飛び出せる状態で待っているからな。」

と告げ、他の面々を引き連れて、操縦室を出て行った。

 一人残った操縦室で、タオは目を閉じ大きく深呼吸した。

 目を開き、壁面に張り付いた数多の計器類を、どれともなく漠然と眺めるタオ。するとタオの両手が無意識のように動き、軽やかに操作装置に触れて行く。

タオの目は、その手先指先を見てもいない。計器類を漠然と眺めたままだ。

 そして、

「よし、大丈夫だ。衝突コースに入った。」

 満足気な顔を浮かべつつ、タオも操縦室を出て行った。


「あ、タオ達のシャトルが見えました。」

マルクの報告に、シーザーが驚きの声で応じた。

「もう出てきたのか・・!?。・・やはり、断念したのか?初めて操縦する船をミサイルにぶつけるなど、やはり無茶だったようだな。まぁ、失敗に終わったとて、彼を責めるわけにはいかないがな。」

 あまりに早く、タオ達が船から脱出して来たので、シーザーはそんな風に思い込んでしまった。しかし、

「あ、爆発の閃光だ!ミサイルが何かに衝突・爆散した模様!爆発の閃光を視認しました。」

そんな報告に続いて、

「・・・コーギの船は無事です!・・・ミサイルと我々の乗っていた船は消滅しています。どこにも見当たりません。」

「・・・つまり、成功したという事なのか?あんなに早く出てきたのに、ぶつけられたのか、我々の船とミサイルを?あんな短時間で、こんなにも困難なミッションを成し遂げたというのか?」

「そ、そのようで。」

 シーザーも彼の部下達も、口をあんぐりと開いた体で、タオの神業への驚きを現した。

「どんな超能力を使ったんだ、タオ。」

 通信が可能となったタオのシャトルに向け、シーザーが言った。

「こいつ昔からこうなんだ。マシンを操縦となると、神懸かり的なんだ。」

 タオに代わってマクシムが答えた。

反乱軍の一同の顔には、驚きを通り越して呆れたような表情さえ、浮かび上がっていた。その時、

「コーギの宇宙船から連絡が入りました。ミサイルから守ってくれたことへの謝辞と、我々に対して先方の宇宙船への乗船を熱望する旨を、伝えてきています。」

との報告があった。

「行くか?タオ。」

シーザーが訪ね、タオが答えた。

「行こう。」

 シーザーはタオに、隊長の座を譲ったような気配があった。


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