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銀河戦國史 (トーマ星系の反乱と勇者タオ)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
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タオの驚愕

少し残酷な描写が登場します。

 その時、暗転していたモニターに、見た事も無い人の顔が映った。

 面識の無い人の顔が映ったというだけの事ではない。そういう色や形の人間の顔を、タオ達は見たことがない、というような顔が、モニターに映ったのだ。

 人間の顔にしては白すぎ、かつ平べったすぎると、タオ達は思った。

 ほりが深いとか浅いとかいった概念は、トーマ星系の人間しか見たことの無いタオ達には存在しなかったが、彼らはこの時初めて、ほりの浅い人間を目撃したのだ。

 これが本当に人間なのかとも思えたその、モニターの中の「モノ」は、しかし言葉を発して来た。

「われはコーギ一派の者におじゃりまする。此度は、ようやくわれに釈明の機会を与えていただき、感謝する者におじゃりまする。」

 いきなりの低姿勢に、モニターに見入る一同は度肝を抜かれた。やはりコーギの者だから悪い奴と決めつけた事は間違いだったのかとの思いが、皆の心を駆け抜けた。命乞いの為に、今だけ低姿勢を繕っている可能性も、誰しもが考慮したが。

「いましがた、我らの下に攻め来たる方々の言葉を聞くに、我らのヤマ開発の監督不行き届きの為に、大変な怒りを買ってしもうたよし、まずは心より謝罪と釈明をさせて頂きたい。大変申し訳ない事でおじゃります。」

(あ、謝った・・。)

 マルクもシーザーも、反乱軍の全員が、この人は殺してはいけないという感慨を持った。いきなり皆殺しにして良いような人間では、決して無い。モニターの中の人物の、言葉や態度から、瞬時にそう悟った。

「われらに技術指導を依頼して来た方々に、作業に当たる方々への直接の指揮監督はお任せしてしまっておじゃりましたが、まさか人命にかかわる事故が数多く起こっておったり、過酷すぎる作業を強いていようなどとはつゆ知らず、何の手立ても講じて来ませなんだ。我らがもっとしかと、直に監督致してさえおれば、失われずに済む命があったとの事、まことにお詫びのしようも無く、申し訳無いことでおじゃります。お怒りの段は当然ながら、今後は良きに計らいますゆえに、なにとぞご容赦頂けぬものかと、勝手ながら・・。」

 平身低頭の体だった。その表情からも、声色からも、心からの反省と謝罪の気持ちが伝わって来た。

「また、収穫量に関しても、我らに伝えられる数値が改ざんされたものであった故、我らは作業者達に、十分な報酬が支払われているものと思うておりました。これもわれらの確認不足が招いた問題でおじゃりましょう。平にご容赦頂きたく・・。なにとぞお怒りを収めて、改善の機会を賜りたく・・。」

「そんなことはもういい!あんたたち早く逃げろ!カンザウの刺客が、あんたたちコーギを皆殺しにすべく、もうすぐそこまで迫って来ているんだ!今回の反乱は陽動だ!あんたたちの目を反乱の方に向けている間に、カンザウの刺客があんたたちに気付かれぬように接近し、あんたたちを皆殺しにする作戦なんだ!」

と、シーザーは叫んだ。

 モニターの中の白い顔に驚きが浮かぶ。

「何と!・・なるほど、カンザウの族長の考えそうな事よのう。皆様はカンザウの口車に乗せられてしもうたのでおじゃりまするな。純朴なるトーマの方々故、カンザウのはかりごとに利用されてしもうたのでおじゃりまするな。」

「おい!そんなのんきに、落ち着いている場合じゃないぞ!早く逃げなきゃ殺されちまうんだぞ!」

 リークが叫んだ。マクシムもマルクも、同様の事を叫んでいた。もう誰も、謝罪の言葉も反省の意思表示も望んではいなかった。死なないで欲しい。この人達には生きていて欲しい。そんな気持ちが皆の心を埋め尽くしていた。

 その瞬間、軌道上のコーギの居住施設の外観を映していた、分割されたモニターの左半分に、強烈な一筋の閃光が走った。

誰もが、何が起こったのかを理解できなかった。モニターの故障かと思ったものも多かったが、次の瞬間、驚愕の光景が、左右両方のモニターに移し出された。

 左側に移っている軌道上施設には、中央付近につい先ほどまでは無かった大穴が開いていて、その穴からゴマ粒のような物が次々に噴き出していた。

 目を凝らすと、そのゴマの一粒一粒が人間である事が分かった。

 更に数秒遅れて、その穴からは新たな閃光が噴き出し、施設の外壁の至る所からも、閃光が漏れてくるのが見て取れた。

 その閃光は刃のごとく、軌道上施設を切り裂き、分解し、その破片を飛び散らせていった。

 もう一つの画面の中では、施設の大穴から閃光が噴き出したのと同じタイミングで、モニターに映っていた男の白い顔が、突如起こった爆風でちぎれ飛び、胴体から下のみが残されるという残酷な光景が一瞬映り、その直後、画面全体が真っ白な光に埋め尽くされ、そして暗転し、沈黙してしまった。

 タオも、その余りにも恐ろしく、おぞましい光景に、声一つ出せない程の驚愕を覚えていた。ピンクサファイアすらも、一瞬だがその輝きを失ったように見えた。

「な・・なんだ!何があった!何が起こったんだ!」

 驚愕し周章狼狽しながらシーザーは叫んだが、何が起こったかは薄々感づいていた。その予測できている絶望的な事実を報告する声が、操縦室に響いた。

「か・・、カンザウの刺客からの攻撃と思われます。前方のコーギの施設は、一撃のもとに大破し、完全に沈黙しました。」

「ば・・馬鹿な、まさか。奴らはまだ、何十万キロも彼方にいるはずじゃないのか?」

「はい、約60万キロメートルの彼方にいます。」

「では・・、どうして、どうやって・・」

 動揺を隠せないシーザーに、ガミラが言った。

「だから、何十万キロの彼方から攻撃し、一撃で軌道上施設を破壊できるほどの兵器を、カンザウの刺客が持っていたって事だ。」

 先ほどまで徒手空拳で、ボカスカという打撃音を響かせた戦いを繰り広げていた彼らに、射程距離数十万キロメートルを誇る大出力のビーム兵器による攻撃が加えられたのだ。タオ達や反乱軍には、もはや人間業では無く、神か悪魔の御業としか思えないような攻撃だった。

「し、死んだのか?今の人?攻撃を仕掛けている俺たち反乱軍に、謝ってくれたあの人が・・」

そう言うマルクの声は震えていた。

 反乱軍の面々は、全員が驚愕に思考停止し、恐怖に打ち震え、絶望に苛まれていた。

 なんという恐ろしい者達と手を組もうとしたのか。何と言う恐ろしいものに裏切られ、命を狙われているのだろうか。こんな攻撃が可能な、超先進文明をもつ彼らから、身を守る術などあろうはずがないのでは。そんな感情を抱かせた。

 そんな彼らの見つめるモニターでは、十数個の小さな枠内に映し出されていた軌道上施設に、次々に閃光が襲い掛かり、爆発四散して行く様子が映し出されていた。

「あ!ああっ!こ・・、コーギの軌道上居住施設、次々に破壊されていまぁす!うわぁっ!す、全て閃光の一撃で、こ・こ・・木っ端みじんに!」

 悲鳴のような報告が終わる頃には、モニター内の小枠には施設の残骸しか見受けられないようになっていた。

 引き千切られたような、幾つもの建造物の破片が、中空に虚しく漂っていた。その破片の周囲にある、無数のゴマ粒の様な浮遊物の幾つかは、もごもごと蠢いていて、まだ生きている人間であることが見て取れた。

 無論彼らを救う手立てなど、有りはしない。

「今度は・・、今度は、み、ミサイルが飛来して来ましたぁ!刺客の船団からのものと思われ、ヤマの大地の上にあるコーギの施設を目指している模様!」

 ミサイルという言葉はかろうじて知っているタオ達だったが、それが現実世界に存在しているとは、思ったことがなかった。トーマ星系は、かくも戦争と無縁の世界だったのだ。

 そして、モニター内に3つほど映し出されていた地上施設に、小さな光弾が落ちて来て、施設に接触したと思った瞬間に、画面が真っ白に漂白されるほどの強烈な発光があった。

その光が収まってみると、木っ端みじんに破壊された施設と、その上空に黙々と立ち上るきのこ雲が、モニター上に現示された。

「核弾頭ミサイルだ。一発でヤマの大地の施設を粉砕してしまいやがった。何と言う威力だ。」

 ガミラが絞り出すようにつぶやいた。

 操縦室には、しばしの沈黙が訪れた。誰しもが絶句していた。目の前に繰り広げられた現実を、受け止めきれないといった様子だった。

 やおら、マルクが震える声で、かろうじて聞き取れる程の小さな声でつぶやいた。

「こ・・こ・・殺してしまった。みんな殺してしまった。あの人、あの真っ白な顔の人、いい人だったのに。謝ってくれたのに。」

「・・何という事だ。コーギの連中が、皆殺しなどするべきではない、善良な人たちだと分かった瞬間に、一瞬にして、全員殺されてしまった。」

そう言ったシーザーの声も震えていた。

「お、お、俺たちは、何という事をしてしまったんだ!俺たちが殺したんだ。全然悪くない人達を、ちゃんと話し合えば、分かり合えた人達を、共に手を取りあって、ヤマの開発を続けて行けたはずの人達を、み・・み・・、皆殺しにしてしまった。」

 マルクの目からは涙が、ボロボロと零れ落ちていた。がくりと床に膝を付き、両手で顔を覆ったが、その指の隙間からは洪水のように、涙が止めども無くあふれ出して来た。

「あ・・ああ、ああああ・・」

 もはや言葉にも出来ないような、激しい自責の念に苛まれ、肩を震わせて嗚咽の声を漏らしていた。

「悪鬼だ・・、悪魔だ・・俺達・・」

「最低だ、最悪だ、俺達こそ皆殺しになるべきだ・・」

 反乱軍の面々からは、次々に自らを責め苛む言葉が漏れた。

「お前達、若者が気に病むことではない。」

 シーザーが、残る力全てを振り絞るかのように、声を張り上げて行った。

「これは我々反乱軍首脳部が計画し、決定した事だ。コーギを悪と決め付け、カンザウの罠に嵌り、お前達を巻き込んでしまったのは、我々反乱軍首脳部だ。お前達には、何の罪も無い。全ては俺たちの責任だ!」

 そう言うと、シーザーはマルクの肩に手を置いた。

「済まない、タオの言った通りだった。ちゃんと話した事も無いコーギ一派の人々を、一方的に悪と決めつけていた。仲間の命を奪われた事で感情的になり、真実を見ようとする心を失っていたんだ。」

 マルクの背中をさすりながら、他の反乱軍の面々を見回しながら、シーザーは話し続けた。

「我々に過酷な労働を強制したり、危険な作業で多くの命を失わせたりしたのは、コーギから事業の指揮監督を任された、トーマの人間だったんだ。少し冷静になって調査すれば、そのくらいの事は分かったはずなのに、コーギ一派はミナト家の者で、アメリア星団から来た者達で、異邦の者だから、トーマ星系の者ではないから、セクリウムの洗礼を受けてないから、そんな理由で差別し、安易に全ての罪を負わせ、悪と決めつけてしまっていたんだ。愚かなことだ。どうしようもない馬鹿者だ、我々は。」

 シーザーは、操縦室内を歩き回り、反乱軍メンバー一人一人の肩に触れて行きながら、語った。

「お前達は、この意思決定には関与していない。われわれ首脳部の指示に従ってくれただけだ。お前たちまで罪を負わないでもらいたい。」

「そんなこと・・、コーギを憎み、恨んで来た事は、俺たちだって同じです。あんな奴等、皆殺しになって当然だなんて思い続けて、この反乱に参加していたんです。これは、反乱軍メンバー全員の罪です。」

「で、反乱軍は悪だから、このまま皆殺しになって良いのか?俺たちがここでじっとしてたら、カンザウの刺客は反乱軍のメンバーも、コーギの手下となっていたトーマ人も、皆殺しにするつもりなんだぞ。」

と、タオが言うと、反乱軍の面々はようやく少し、我を取り戻した表情になった。


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