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銀河戦國史 (トーマ星系の反乱と勇者タオ)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
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タオの戦闘

「おい、俺たちも加勢するぞ。とにかく自分達の身を守らねば、何も出来んからな。」

 そういったタオの顔を、勝手にしろと言いたげな視線でちらりと見たシーザーに、ガミラが喚きかけた。

「俺たちも戦ってやるんだから、武器をよこしやがれ!」

「武器?そんなものあるか。」

「何故だ!コーギの手下から奪ったんじゃないのか?」

「反乱軍全員の分などあるはずがない。一つ目のヤマに向かった奴らが全部持って行ったよ。」

「武器が全く無いのか?じゃあもう戦うのは無理だろ?降伏するしかないんじゃないのか?」

「あっちだって五十歩百歩だ!」

 そう言っている間に、基地の外壁に、宇宙船による体当りで穴を開け突入して来た敵兵が、タオ達のいる一角に侵入して来た。

「よぉし!突撃だぁ!」

 シーザーの号令一下、反乱軍の面々十数人が、侵入して来た者達目がけて襲い掛かかって行った。

「え?ええ?丸腰で突撃?あいつら馬鹿なのか?殺されるだけだぞ。」

 そういったガミラだったが、その次に彼らの前で繰り広げられた光景に、更に唖然となった。

 侵入して来たコーギの手の者達と、基地を守っていた反乱軍の者達が、激しい戦闘を展開したのだ。徒手空拳で。

 このトーマ星系における反乱劇では、どちらの陣営も十分な量の武器などは用意できておらず、各所でこういった、徒手空拳での戦いが繰り広げられていたのだ。

 宇宙船を使っての移動は行われたが、武装を施されてある宇宙船なども僅かにしか無かったので、宇宙船同士の戦闘というのもほとんど無く、あっても自滅覚悟の体当りくらいしか、攻撃方法は無かったのだ。

敵基地を制圧する場合は、体当りで外壁に穴を開けて、基地に乗り込み、そこにいる敵を殴り飛ばすしかない。シーザー達もそうやってこの、ビーマが併設された基地を制圧したのだ。基地の穴をふさぐのに、戦闘以上の苦労を強いられたことは、言うまでもない。

「な・な・な・・殴り合い?」

 多少なりとも武器を扱ったことのあるガミラには、それは驚きの光景だったが、元来戦闘とは無縁で、武器など存在しなかったトーマ星系の人々に労働を強制するのに、多くの武器は必要なかった。

 だから反乱が起こったところで、コーギの側も反乱側も、武器を持てたのはほんの1割程度の者であり、ほとんどの者は丸腰だったので、戦闘は大半が徒手空拳による「殴り合い」だったのだ。

「これだったら俺たちにも、十分に活躍の場があるぜ!」

 そう言ってタオは、激しい戦闘のただなかに踊り込んで行った。

 基地に侵入して来たのは、全員トーマ人で、徒手空拳であっても、敵も味方も戦闘経験の無い者同士だったが、過酷な労働に鍛えられているタオや反乱軍と、コーギの手下のトーマ人では、その身のこなしに雲泥の差があった。

 タオには、コーギの手の者を殴り飛ばすのは簡単だった。一度に3・4人に懸かって来られても、全く引けを取らなかった。リークもマクシムも、2・3人を一度に相手にし、カリンやソイルや年長のプロームまでが、敵と対等以上に渡り合っていた。ガミラは足手まといだったが。

 しかし敵の数は多かったし、中には骨のあるのもいた。更には一人の敵の手中に、どこで拾って来たのか、2メートル程の鉄の棒が握られていた。この戦闘の中では、最強の兵器だった。

 ぶんぶんと空を切って振り回される、その最強の兵器を前に、反乱軍の者共は周章狼狽し、右往左往していた。1人また1人と、反乱軍のメンバーがその餌食となり、残酷にも巨大なたん瘤を負わされて行った。

 反乱軍メンバーが手も足も出せずにいるその最強の兵器に、タオが敢然と立ち向かった。右往左往するしかない反乱軍を尻目に、一直線に切り込んで行ったのだ。

 反乱軍の面々は唖然となった。無謀すぎる攻撃だと呆れた。

 が、しかし、ブンと振り下ろされたその最強兵器=鉄の棒をひらりと躱したタオは、躱した勢いのまま体を一回転させつつ、瞬時に間合いへと踏み込み、敵の側頭部に回し蹴りを叩き込んだ。

 最強兵器を握りしめたまま脳震盪を起こしたその敵兵は、直立不動の体勢のまま背中から地面へと倒れ込み、沈黙した。

 恐るべき最強兵器を振りかざした敵を、タオが一撃のもとに打ち倒した事で、反乱軍達に歓声が上がり、一挙に勢い付いた。基地内の至る所から、苛烈な攻撃を反乱軍が加えている、ボカスカという打撃音が響いて来た。

「やるなぁ、タオ!殴り合いでも引けを取るとは思わなかった。凄い奴だぜお前は!」

 そう言って近づいて来たタオとリークが、互いに背中を預けた態勢で戦い始めると、もうそれは完全に無敵だった。

 タオもリークも、背後に一切の心配の必要が無くなり、正面の敵に存分に、次々と拳や蹴りを繰り出して行った。いつの間にそんな信頼感が、2人の間に出来上がったものか、旧知の戦友のごとき戦いぶりだった。

 1時間以上にも及んだ激戦の後に、反乱軍は見事、基地に侵入して来た敵部隊を迎撃した。敵は一人残らず、コテンパンにのされ、ボッコボコにされていた。

 基地内に凱歌が上がった。しかし、

「迎撃には成功したが、時間がかかりすぎた。一つ目のヤマにいる反乱軍の仲間達に、この人数で刺客の事を伝えるのには、全く時間が足りない!」

と、悲壮感を滲ませてシーザーが叫んだ。

「このままでは多くの仲間が、刺客の餌食になってしまう!」

「とにかく行きましょう!隊長。宇宙船には通信装置はたくさんあるし、ビーマは自動制御で無人でも動かせるから、ここにいる全員で一つ目のヤマに向かい、1人でも多くの仲間に、危機を伝えましょう!」

と、マルクが言うと、シーザーは落ち着きを取り戻し、決然として表情で、

「うむ、そうだな。全員を救うのはもう不可能かもしれんが、1人でも多くを生き残らせるよう、最善を尽くそう。」

 といった。

それを聞いた反乱軍の面々は、脱兎のごとく指令室へと引き換えして行き、全員での出撃に向けた準備を始めた。

「俺も行く、俺も手伝う、俺も宇宙船に乗せてくれ。」

作業に追われる反乱軍達に向けて、タオが叫んだ。

「俺たちのやり方に反対なのじゃなかったのか?」

シーザーが冷徹な声色で答えた。

「コーギの皆殺しには反対だが、トーマの同胞の命を1つでも多く救う事には大賛成だ。コーギの皆殺しを防ぐ方法は、今は思いつかないが、トーマの同胞を一人でも多く救う方法は分かり切っている。俺がそれを手伝ったからって、お前たちには何の害にもならないだろ?」

「・・そうだな。」

 タオの言葉にシーザーの表情が和らいだ。

「コーギを皆殺しにする事に、俺も疑問を感じないわけでは無かったし、ヤマの開発が終わってしまう事にも危機感を覚える。だが、今この状況で俺たちに出来る事は、反乱軍の仲間達を救う事だけだ。それを手伝ってくれるというのなら、大歓迎だ。」

 そこへマクシムが口を挟む。

「本気か?タオ。反乱軍を手助けして、俺たちに何の得があるんだ。こいつらがこういう考えなんじゃ、ヤマの開発はもう終わりだ。命を懸けて飛び込んでも、もう得るものは何もないんだぞ。これから壮絶な殺し合いの場になる、危険極まりない一つ目のヤマに行く価値は、俺たちにはもう無いんじゃないのか?」

「得とか損とか、ヤマの開発とか、それは後で考えよう。トーマの同胞が大勢殺されようとしているんだ。それを阻止するのに命を懸ける事を、俺はおかしいとは思わない。」

決然としたタオの言葉に、マクシムは頭をぐしゃぐしゃと掻きむしりながら言い返した。

「あーもう、いかにもお前らしいよ!タオはどこまで行ってもタオだな!綺麗事もそこまで貫けば英雄譚だ。分かった、俺も行く。どこまでもお前に突き合ってやる。そのつもりでサバ村を出てきたんだ。」

 リークもプロームもカリンもソイルも、そしてガミラまでが、マクシムに同意を示すように、大きく頷いた。

「何だ、ガミラ。お前はもう、ここに残っていても良いのだぞ。ウミからヤマに出てこられた時点で、お前はもう用済みだしな。」

 リークが冷やかすように言った。

「何だと・・。そう言うな。コーギが滅ぼされてしまうとしたら、トーマの人間に嫌われたままでは、俺は生きては行けぬではないか。少しは恩を売っておかないと・・。」

「何だよお前、刺客の攻撃からトーマ人を救う事で、俺たちをこき使った罪からまぬかれようって算段なのか?」

 カリンもからかうように言った。が、タオは、

「打算だけで命までかける奴がいるか。一つ目のヤマに行くのは命がけだと分かった上で、ガミラも来ると言っているんだ。口では打算的な事を言っているが、トーマの同胞を見殺しに出来ないという思いが、無いわけでは無いだろう。」

「どうだかね。」

と、マクシムは言ったが、ガミラを見る眼差しには、さわやかなものがあった。

「よぉし!同胞救済に全力を尽くしたら、ガミラのこれまでの罪は帳消しにしようじゃないか!」

と、タオが言うと、

「ちゃんと最後まで、逃げずにやり通せばな。」

と、マクシムが答えた。

「逃げたら罪は倍だ、分かったか。」

と、リークが言った。

「俺達がしっかりと見張っているからな。」

と、カリンが言った。

 リークとサバ村の面々に注視されつつガミラは、

「分かったよ、ちゃんと最後までやるよ。カンザウの刺客に、何もかも破壊され、奪い去られてしまうのは悔しいしな。トーマ人だけでも助けたい。」

ときっぱりと言った。


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