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銀河戦國史 (トーマ星系の反乱と勇者タオ)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
12/25

タオの焦燥

「今、俺たちは、ビームとやらで加速しているのか?」

 居住筒で感じる程度の力で、床面に押し付けられているマクシムが訪ねた。

「そうだ、ビーマを使ってこのくらいのGを、数十時間にわたって、この宇宙船に与え続ける。」

 同じ強さで床面に押し付けられているガミラが答えた。宇宙船に乗り込んだ全員が、同じ強さの疑似重力を感じているのだ。

Gというのが、床にカラダを押し付けている力の事であるというのは、マクシム達にも理解できることだ。居住筒に適度なGを発生させるべく、筒の回転速度を調整する時に、必要となる概念だからだ。

 彼らが今感じているGが遠心力ではなく、加速度がもたらしているという事も、日ごろからシャトルで移動しているから、馴染みのある概念だったが、その加速度がビームによってもたらされているというのが、マクシムにはぴんと来なかった

 ビームが生み出す等加速度は、安定した疑似重力を、乗組員に提供していた。

「これで、5日でヤマに着くのだな。さっきのような強烈なGに耐え続けるのかと思って、ビビったぞ。」

と、マクシムは言った。

 途中まではジェット噴射とビーム推進の併用で、ブラックアウトを起こしそうな程の、強加速によるGに耐えさせられたのだ。

 ガミラはコンソールに張り付いて、通信の傍受に余念がない。ヤマで起きている反乱についての詳細情報を得ようと、必死なのだ。

 到着してからの行動計画を決めていない彼らだったが、出発時点でヤマの近くにコーギ一派が保有している基地に、到着予定時刻などの連絡を入れていた。

しかしそれ以降は、彼らからは連絡をせず、通信の傍受に努めていた。あまり多くの者に、こちらの存在を知られない方が良いという判断からだった。

「2つ目のヤマは、ほぼ反乱軍の手に堕ちたらしい。ヤマの軌道上の基地に設えられたビーマも、そこに係留されていた宇宙船も、反乱軍に乗っ取られた。ビーマに加速された宇宙船が、次々に1つ目のヤマに向かっているようだ。」

 ガミラは焦燥感を露わにして報告した。

「1つ目のヤマに、コーギの連中は住んでいるんだな。」

 タオが訪ねた。

「そうだ。コーギ一派は誰一人、一つ目のヤマから離れる事は無い。2つ目のヤマの開発は、手下にしたトーマ人達に任せきりだ。コーギの中の位の高い面々は、惑星上に建設されたシェルターに住んでいて、位の低い面々は、軌道上で暮らしているという事だ。」

「位ってなんだ、同じ一族の中に位なんて身分差があるのか?」

 集落内部にも集落間にも、身分差などというものの無いトーマ人にとっては、信じ難い事だった。

「反乱軍は宇宙船を乗っ取って、ひとつ目のヤマにいるコーギのもとに突撃して、そして、どうするつもりなのだ?」

タオは困惑気味に尋ね、ガミラは答えた。

「反乱軍が何を考えているのかは、分からん。日ごろの苦役に怒り狂って、見境もなくコーギにたてついているだけかもしれんし、暴力で脅して、より彼らにとって有利な条件で、ヤマの開発の技術指導をさせようとしているのかもしれん。」

「しかし結果として、コーギとの関係が完全に決裂し、カーガ星系に帰って行ってしまうとかいう事態になる可能性もあるんじゃないのか?ヤマ開発の技術指導を続けてもらえぬという事になっては、反乱を起こした者達にとっても、何の得にもならんだろう?手荒な事をするのは、得策とは思えんが。」

と、プロームも反乱軍への疑問を口にした。

「武器を奪って、コーギ達のもとに突撃するというのは、過激すぎる行動だよな。怒りで我を忘れているとしか、思えない。やはり、見境なく暴力を振るっているだけなんじゃないか?」

と、カリンも言った。

「反乱軍が、そんな愚か者たちの集まりなのだったら、何としても反乱を阻止しなくちゃな。ただ闇雲にコーギに暴力を振るおうとしているだけだったら、誰も何も得るものが無くなってしまうぞ。」

と、マクシム。

「苦役から逃れたいのなら、コーギの事業から逃亡すればいいだけだし、コーギのもとに突撃する理由としては、やはり、仲間の命を奪われた者達が、怒りに我を忘れているという事なんじゃないかな?」

と、ソイル。

「反乱軍を阻止するのだとしたら、俺たちが反乱軍を攻撃するという事になるのか?説得とかできるのかな?説得して止める事が出来るのかな?反乱軍と戦闘になったりしたら、トーマ人の命を奪うことになったりしたら、俺は嫌だな。」

カリンは戸惑いを露わにした表情だ。

「いずれにせよ、反乱軍が何を考え、どうするつもりなのかが分からなければ、俺たちもどこへ何をしに行ったらいいのか分からないぞ。」

プロームも、彼らの置かれている難儀な状況を憂える顔だ。

「ヤマで働かされている奴らは、例の腕輪は付けられていないのか?」

とマクシムが尋ね、ガミラが答えた。

「ヤマには、作業者が多いからな。全員の腕輪などは用意できないし、強武装したコーギの者も近くにいる。日常の労務は、軽武装の、コーギの手下になったトーマ人が、他のトーマ人作業者を監視・監督していると聞いた。腕輪は使わずに作業者を管理下に置いているみたいだ。」

「トーマ人が、武器で脅してトーマ人を働かせているのか。」

タオは悲しい顔をした。

「でも、武器で脅して働かせていたから、その武器を奪っての反乱を許すことになったんだな。」

とマクシムが言い、

「武装したトーマ人の監視役を、反乱軍が買収したというのも、あったようだがな。」

とガミラが言った。

 彼らは状況を話し合ったが、今わかっている情報だけでは、今後の行動計画は決められそうにも無かった。

 ガミラはその後も、無線による情報収集に専念した。相変わらず、到着後の行動が決められないので、彼らの船からは何も発信する事はせず、ひたすら通信の傍受による情報収集に徹していた。

 その傍受で、思いもよらぬ方角からの電波が捕えられた。

 第5惑星でスウィングバイをして、第3惑星に向かっている幾つかの宇宙船の集団が、互いに連絡を取り合っている無線が、傍受されたのだ。

 スウィングバイとは、惑星の重力や公転運動を利用して、宇宙船の速度や進行方向を変えるという、航宙技術だ。

 今補足された宇宙船団は、第5惑星を使って減速と方向転換を行い、第3惑星を目指しているらしかった。

 顔面蒼白のガミラが、慌てふためいた体でタオ達に報告して来た。

「おいおい、今、とんでもなく恐ろしい無線を傍受してしまった。大変なことが起きようとしている。録音したから、こいつを聞いてくれ。」

 そういうとガミラは、手にしていたタブレット端末で、録音した音声を再生した。

「全船団に確認致す。目的地である3の惑星に、きちんと向かっておるだろうのぉ?」

という、ひとつの宇宙船から発せられた無線の音声がながれ、別の複数の音声が答える。

「2番船、方位速度ともによおございます。」

「3番船、同じにございます。」

 同様の報告が、5番船まで続いた。

「反乱は手筈通り発生し、コーギ達の探索機能は全て、反乱軍の動向を探るために使われておるようじゃ。我々の存在が気付かれる心配はない。このまま突撃を敢行し、コーギどもを一人残らず殲滅するぞよ。」

「2番船、御意にございます。」

 3・4・5番船も了解を告げた。

「その後に、トーマの雑草共もかき集め、皆殺しにせねばならんからなのぉ、武装の点検は入念に実施しておくのじゃぞよ。雑草共は、コーギに代わってカンザウ一族の者が、ヤマの開発の技術指導をしてやるとの言を真に受けておるゆえ、集めるのはいともた易い。武器さえきちんと働けば、確実に皆殺しに出来るのじゃぞ。」

「2番船、御意にございます。」

 他船も了解を告げて、音声の再生は終了した。

「何なんだ!?この無線は。何者なんだ、これは。」

録音された無線音声を聞き終えたタオは、困惑の表情でガミラに尋ねた。

「おそらく、カーガ星系から来た、ミナト家の分家のカンザウ一族から放たれた、刺客だ。反乱が起きた最大の理由はこれだったんだ。反乱軍は、カンザウ一族にそそのかされ、コーギに歯向かったんだ。コーギ亡き後には、カンザウの者がより良い条件でヤマ開発を指導してくれると信じて。」

「しかし、そのカンザウの者は、コーギの後にトーマ人も皆殺しににするなどとぬかしておったじゃないか?反乱軍のことか?コーギの手下も殺すつもりなのか?」

「コーギ抹殺の事実が明るみに出るのは、カンザウ一族の者にとってはまずい事だろうから、反乱に関わったトーマ人は一人残らず殺すつもりだろう。反乱軍はカンザウに従うだろうし、コーギが滅んでしまえばコーギの手下のトーマ人も、反乱軍に降伏することになるだろう。」

「で、反乱軍もコーギの手下も、嘘の約束で言いなりにさせ、一か所に集めて、一人残らず殺してしまうつもりなのか!?何という恐ろしい事を考えるんだ。」

タオは憤りを抑え切れぬ様子で叫んだ。

「コーギもカンザウも、同じミナト家の者じゃないのか?なぜ皆殺しなどという事が言えるんだ?」

「さあな、ミナト家が5つの分家に分かれて、覇権争いをしていることは聞いておったが、殺し合いや暴力は好まない氏族だとも聞いておった。コーギ一派の出身母体であるノート一族が、トーマ星系からの収穫で富を蓄え、勢力を増していて、カンザウ一族が風下に置かれているという状況はあったらしいが、まさかコーギを皆殺しにしてまでして、ノートの勢力を削ぐ行動に出るとは、想像も出来んかった。」

 ガミラも困惑の表情で教えた。

「やはり、恐ろしい連中なのだな、ミナト家というのは。セクリウムの洗礼を受けていない人種というのは、こうも野蛮なものなのか。」

 年長のプロームには、ボレール以外の星団の者といえば、セクリウムの洗礼を受けていない不浄な人種という発想が、定着していた。

 タオはセクリウムの洗礼は関係無いとは思ったが、ミナト家の者の発想の凶暴さには、背筋が凍る思いだった。

「このままでは、コーギもトーマの者達も、みんな殺されてしまうのか。その後、奴らはトーマ星系をどうするつもりなのだろう。」

「分からんが、カンザウ一族の者達は、トーマ星系がどうなるかなど、知った事では無いのだろう。ミナト家の中で発言力を増し、カーガ星系の富を独占できればそれでいいのだろう。その為にミナト家の者に知られずに、コーギを抹殺しようとしているのだ。トーマ星系の事など、何も考えてはおらんだろう。」

「何なんだ、それは!畜生!」

タオは怒りをあらわに叫んだ。

「ミナト家の内紛に巻き込まれて、多くのトーマ人が虐殺されようとしているのか。」

年長のプロームは、比較的冷静を保ちながら、状況を確認した。

「させるか!絶対に阻止しなくちゃ。そんな事されてたまるか!」

マクシムも怒気を孕んで言った。

「しかしその刺客という連中も、こんな重要な無線を傍受されるなんて、間抜けな事をするもんだな。」

 プロームは相手の失態を見極める落ち着きを見せた。

「だいぶ油断もあったんだろうな。心底トーマ人を馬鹿にしているようだから。それに船団内部だけに伝わる位の、微弱な電波での無線だから、誰にも聞かれるはずがないと思っていたんだろ。我々はたまたま近くにいたから、これを聞く事が出来たし、出発の時以来、我々の方からは一切電波を出しておらぬから、こちらの存在は向こうには気付かれておらぬだろうしな。」

と、ガミラは言った。

「俺たちの存在は気付かれていないのか。計画が筒抜けになっているって事も、知らないままという事だな。」

と、マクシムは言い、更にガミラに尋ねた。

「この電波を出していた連中は、まだ近くにいるのか?」

「いや、内側のウミでスウィングバイして我々の近くを通り、我々を追い越してとっくに先にいったよ。」

 未だ加速途上のタオ達の船は、刺客の船団よりかなり速度が遅かった。

「3の惑星とか言ってたが、ひとつ目のヤマの事か?」

「うむ、ミナト家の連中はそう言う呼び方をする様だな。」

「俺たちを追い抜いて一つ目のヤマに向かってるって事は、刺客たちの方が先に着くのか?それじゃぁ、もう、どうしようもないんじゃ。」

「いや、先に着くのはこちらになりそうだ。奴らはもう加速は出来ないから、等速でヤマまで向かうことになる。しかし我々は加速している。途中で奴らを追い抜く事になるはずだ。」

「追い抜く時に、攻撃は出来ないのか?」

「この船に、兵器は搭載されてない。」

「そうか、逆に攻撃される心配はないのか?」

「やつらはこちらに気付かないはずだし、もし気づいても、兵器を無駄遣いは出来ないだろう。」

「トーマ人を皆殺しにする為にか。奴らはどんな兵器を使うんだ?」

「それは、俺も良く知らん。が、たった5隻の宇宙船で数千人のコーギと、数十万人のトーマ人を殺害出来るような兵器なのだろう。」

 ガミラとマクシムが言葉を交わす間、タオは考えていた。

刺客達よりも先にヤマに着けるのならば、反乱軍やコーギの手下のトーマ人にこの事を伝え、トーマ人同士で殺し合う事を止めさせなければ。その後、どうやって刺客達の攻撃を凌ぐのか?凌ぐことが出来るのか?コーギ達に伝えれば、彼らなら凌ぐ手立てを知っているのか?

 皆は黙りこくった。思案を巡らせていた。もう全員が必死だった。無線の傍受が突きつけた現状は、彼らにとってはあまりに深刻なものだった。大量のトーマ人が虐殺され、ヤマの開発も頓挫し、サバ村を救う手立ても消失してしまう。そんな暗澹たる未来を、カーガ星系から来た刺客はもたらそうとしているのだ。


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