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銀河戦國史 (トーマ星系の反乱と勇者タオ)  作者: 歳越 宇宙 (ときごえ そら)
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タオの暗雲

「奇襲船団は進発したのかえ?」

 御簾の向こうから、男のものではあるが、甲高い声が聞こえて来た。

「手筈通りにおじゃりまする、殿下。」

 御簾の手前で返事をしたのも、男ではあるが甲高い声だ。彼らは、無理にでも甲高い声で会話する事を、“みやび”だと考えるのだ。

「これでいよいよ、ノート一族の者共の鼻を明かしてやれるぞな。」

「その通りにおじゃりまする、殿下。コーギ一派の連中は、手下としたトーマ星系の雑草共々、皆殺しになるのでおじゃりまする。」

「さすればノートの財源も無くなり、でかい顔も出来なくなるわけじゃ。わらわ達カンザウ一族が、ノート一族に代わりミナト家に君臨し、カーガ星系を取り仕切る事ができる時も、近づくわけじゃ。愉快よのぅ、よほほほほ。カーガ星系で生み出される富の大半が、わらわ達の自由になるのじゃ。痛快よのう、よぉーっほっほっほ。」

「いやぁ、まったくでおじゃりまする、おほほほ・・。」

 ここは、カーガ星系第3惑星の大地の上で、タオの落涙の4か月ほど前の話だ。丈夫な地殻で覆われた、この惑星の地面の上に建設された、シェルター都市内の宮殿での会話なのだ。ミナト家の分家の一つであるカンザウ一族の族長とその付きの者が、宮殿内で、御簾を挟んで話し合っているのだ。

 会話を交わす男達の視線の先には、緑豊かな庭園があった。涼やかな水の流れを、色とりどりの花々を、見て楽しめた。蝶が舞い、鳥が歌った。

 カーガ星系での惑星開発がもたらした、潤沢な富を元手に、彼らは贅を尽くした庭園のある宮殿に住まっているのだ。

 彼らの言う”奇襲船“は、トーマ星系はおろか全てのボレール星団の人々には見た事も無いような、アメリア星団で生み出された最新鋭の兵器を搭載し、ビームセイリング航法でカーガ星系を後にしたのだった。レーザービームによる力強い加速を数日間継続して、光速の9割程にまで達し、4か月余りでトーマ星系に侵入できるだろう。

 殺人や破壊を目的とした“兵器”というものは、ボレール星団の人々には縁の無いものだったのだ。全ての人々が等しく貧しく、対等の立場で助け合うことで、争いの無い暮らしを数千年に渡って続けて来たのが、ボレール星団の人々だからだ。

 そんな彼らが、このような最新鋭兵器に狙われては、逃げる事も防ぐこともかなわず、ただ死を待つしか無いであろう。

 トーマ星系の者には悪魔の道具としか言いようのない、その恐怖の兵器を乗せた“奇襲船団”が、コーギとその手下のトーマ人を「皆殺し」にすべく、解き放たれたというのだ。コーギの事業の中で、奴隷として働かされているタオ達も、その標的の中に入っているかもしれない。

「して、首尾よく反乱は起こるのであろうな。」

「もちろんでおじゃりまする。反乱の首謀者が、決行の日取りを連絡してよこしておりますゆえ、それに合わせての奇襲船団の進発におじゃりまする。」

「トーマ星系の雑草共は、わらわ達の兵器で簡単に刈ることができるが、コーギはわらわ達と同族であり、それなりの武装を保持しておるゆえ、反乱で注意を逸らさぬことには、皆殺しはかなわぬからな。」

「御意。ぬかりなく手はずを整えておじゃりまする。まずは反乱に目を奪われている隙に、コーギどもを殲滅し、その後トーマの雑草共を、反乱を起こした側も、コーギの手下だったものも、まとめて皆殺しにして、われらがコーギ抹殺に関与した証拠を隠滅いたしまする。反乱を起こした雑草共には、コーギ亡き後我らが惑星開発を、コーギの時より良き待遇で指導してやると言い含めておりますゆえ、我らの言には逆らいますまい。コーギの手下どももコーギ亡き後には、反乱を起こした者共に降伏するしかなくなりますゆえ、我らの思惑通りに動かせまする。そこで雑草共を一つ所に集め、一網打尽に刈り尽くす手筈におじゃりまする。」

「よほほ、それは愉快!自ら刈られに集まってくるのか、雑草共が。よほほほほ。味方と信じたものが繰り出す、見た事も無い異世界の兵器に、なすすべも無く刈られてゆくのか、雑草共が。恐怖にひきつる顔が思い浮かぶのぉ、いと可笑し、よぉほほほ。」

「おっしゃる通りでおじゃりまする。コーギの時よりも、豊富な餌にありつけるとあさましく企んだ雑草共が、自ら刈られに集まるのでおじゃりまする。おほほほほ。」

 甲高い笑い声に、「カッコン」という庭園の“ししおどし”の響きが、相の手を入れた。

「愚かな雑草を巧みに操ってコーギを滅ぼし、ノート一族の勢力を削ぐとは、我ながら上手く考えたものよ。カーガ星団内で直接ノートに手出しをするというわけには、いくまいからのう。」

 ノート一族は、コーギ一派によってトーマ星系から送られて来る収穫もあって、財源に富み、ミナト家において大きな勢力を誇っている。

風下におかれているカンザウ一族としては、ミナト家の人々の目が行き届いているカーガ星系内でノート一族に危害を加える事は、自殺行為だった。そもそも護衛が厳重になされていて成功確率は相当に低いし、ノートに危害を加えた事が明らかになれば、断罪され粛清される運命だった。

だからこのカンザウ家の族長は、目の上のたん瘤として彼らの風上に君臨するノート一族の者に対して、これまで手の施しようが無かったのだ。

そこで今、トーマ星系での反乱で倒されたように見せかける事で、他のミナト家の者達に気付かれずにコーギを殲滅し、ノートの勢力を削ごうとしているのだ。

反乱軍がコーギ一派を殲滅する事は不可能と思われたため、直接コーギの者を殺害するのは、彼らカンザウ一族の放った刺客だが、その事はミナト家の者達には決して知られるわけには行かない。カンザウの族長にとっては。

 このような、ミナト家の内輪もめのとばっちりで、タオを含めたトーマ星系の人々の命は、カンザウ一族がコーギ抹殺に関与した証拠を隠滅する為に、奪い去られようとしているのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 話が動き始めましたね さてどうなるタオ
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