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4号機「服を作ろう、ガイドさん!」

 ガイドさんによって未来から持ち込まれたボイスレコーダーの爆発で引き起こされた爆風により、綺堂宣市の住む街一帯がふわりと暖かく柔らかい風に包まれて、それほど間も開かないうちに綺堂家では次の騒動が起きていた。


 この家の主な住人である綺堂宣市——彼は今、髪の毛にはいくつかの小さな木片を乗せたまま、顔中を粉まみれにして若干白く染められた状態で、トイレの前の廊下でガイドさんにお説教をしていた。そして、そのお説教を受けている方はというと、宣市の足元でピタリと綺麗な正座をしたまま微塵も動きを感じさせなかった。これでは彼の説教を聞いているのか、いないのか、わからないくらいじっと微動だにしなかった。

「ガイドさん、僕の話を聞いてますか?これじゃトイレに入って、ドアに鍵もかけられませんよ。だってそのドアがほぼ無いんですからね!まあ、常にオープンしていて入りやすいですけども」

 宣市は大きさの異なる二枚の木の板を両手で持ちながらそう言った。

「しかしセンイチ、ドアそのものはその二枚と、入口の三枚目を合わせれば存在します」

 対して、ガイドさんはトンチンカンなことを言って返した。

「はあ……、そうですね。確かに三枚をつなぎ合わせることができれば元通りですね」

 宣市は呆れながらそう応答した。


 どうやら宣市が両手に持っている二枚の板切れ、元はトイレのドアだったようだ。そして、三枚目というのは今もトイレの入り口で、下の蝶番に繋がれたまま、通り抜ける風に合わせてパタンパタンと不規則に揺られていた。そう、現在トイレのドアは上部のおよそ三分の二程を喪失した状態であった。

 事の顛末はと言うと、ガイドさんがボイスレコーダーの処理と称して巨大な爆発を引き起こした後、宣市はすぐにテレビの電源を入れ、ほぼ全てのチャンネルで一斉に緊急特番が放送され始めたことを確認すると、一目散にトイレへと向かい中から鍵を掛けて閉じこもってしまった。その後、ガイドさんはしばらくの間、特番を放送していないチャンネルもいくつかあることや、バレなければ問題は無いし、今なら代わりに犯人になってくれそうなところもある、といった物騒なことをトイレの扉の前で呼びかけながら、ドンドンとノックして出てくるよう促していた。


 そんな時、それは起こった。

 ガイドさんによる度重なるノックに耐えられなくなったトイレのドア中段部分がミシミシと音を立てながらへこみ始め、ものの数秒でだるま落としの様に吹き飛ばされた。それからノックしていた場所がドア中段でも上寄りだったため、上段部分も中段が吹き飛ばされた勢いによって引き寄せられて吹き飛んだのであった。

 幸い、綺堂家のトイレはドアと便器の位置が対面しているタイプでは無かったため、吹き飛ばされた板が中に居る宣市に直撃はしなかったものの、破片や埃などはもろに被ってしまったのだった。


 そういった経緯の後、現在に至ったのである。


 そして、呆れ果てている宣市に対してガイドさんがこう告げた。

「私が未来から持ってきた装置なら修復に近いことはできるかもしれません」

「え、それって?」

「ですから、新しいドアを作り出すことが可能かもしれません」

 そんな受け答えをした後、お互いにほんの少しだけ黙ったまま見つめあってから、先に宣市が口を開いた。

「なんだ、やっぱりそういう未来の道具とか持ってきてるんですね!」

「はい。私が最初に出て来た引き出しは今、異次元空間『ウルズの泉』へと続くゲートに置き換わっているのですが、そこの中に創生機『グロッティ』という材料を入れるとそれに見合った別の新しいものを生み出す装置があります」

 嬉しそうな宣市に対してガイドさんはどこか自信に満ちた様子でそう説明したが、彼はすぐに疑問が生まれた様子で呟いた。

「あれ?でも、そんなものに置き換わったということは元の引き出しの中身は……」

「さあ!早速泉へ行きましょう!」

 ガイドさんは宣市の疑問をはぐらかすようにいそいそと部屋へと向かわせようとしたのであった。


 しかし、この状況でもう一波乱引き起こしに来たかの如く一台のトラックが綺堂家の方へやってきた。

 そのトラックは荷台が金属製の箱型になっていて、そういったものの中では一番小さな、住宅街でも進みやすそうなものであった。そして、その箱の側面には進行方向に対して前方にアルファベットで「ZAKURO」と黒で下半分に記されており、その後方には何かのマークにも見える奇妙なものが描かれていた。その奇妙なものは白い太線で描かれた一つの大きな円を、それよりは細めの白い直線で縦に真っ二つにし、それでできた二つの半円の中には赤くて小さな丸い粒のようなものが均等に詰められて出来ていた。

 そう、それら全体だとまるで何かの断面図を簡略化したようなものであった。

 最初はそれなりにエンジン音をさせていたトラックも、綺堂家に近づくに連れて徐々に減速して最後にはしっかりと停止した。それから、トラックのドアはあまり音を立てないよう慎重に開けられ、車内から赤い上着に黒いズボンの男性が降りて来た。次に、その男性は後方にある荷台の扉へ小走りで向かい、扉の施錠を注意深く解除してからそのまま荷台の中へ入っていくと、それほど間もなく若干横へ長めな平たい段ボール箱を片腕に抱えて荷台から出て来た、その箱の側面には大きくオレンジ色でミカンと描かれている。その後、男性は荷台の扉を空いている方の腕だけで器用に閉めてから、綺堂家の玄関へと一直線に向かっていった。

「ザクロ宅配便ですが、綺堂宣市さん宛にお届け物です」

 男はそう言ってから綺堂家のインターホンを鳴らした。


「しまった、今日は金曜日だから来るんだった」

 宅配便の配達員によりインターホンが鳴らされたとき、宣市は何かを思い出したかのように慌てふためいてその場でキョロキョロしだした。

「何が来るのですか?」

 突然慌てだした宣市に対してガイドさんは尋ねた。

「洗濯物!」

 宣市は一言そう返すとガイドさんと二枚の板切れをその場に残して、玄関へと急いで向かっていったのであった。


「すみません、今開けます!」

 宣市がそう言いながら玄関をそっと開けると、そこには一人の穏やかで優しそうな顔つきをした中年男性が立っていた。彼の着ている赤いシャツの胸元には「田中」と書かれた顔写真付きの名札が付いていて、ザクロ宅配便の田中さんという宅配員であることが窺えた。

「えー、綺堂宣市さん宛にお荷物です」

「はい、どうも。いつもすみません」

 田中さんと宣市は簡単に受け答えをしながら段ボール箱の受け渡しをした。後は伝票にサインをして無事完了、といけばよかったのだが当然のようにそうはいかなかった。

「センイチ、もしも刺客だったらどうするんですか!」

 ガイドさんがそんなことを言いながら玄関にやって来たのだ。

「んん!?」

 そんなガイドさんを見て、とっさに田中さんは変な声をあげながらガイドさんから顔を背けた。

「この反応、怪しいです。きっと刺客です!」

「あ、そうだ!ガイドさん、トイレのドア残ってるのも外して持ってきてもらえます?」

「しかし、センイチ!くっ、わかりました」

 宣市は田中さんの反応とガイドさんの全身を改めて見て何かに気付いたようで、勝手に怪しむガイドさんを見えないところへと戻させると急いで田中さんにサインを渡したのであった。

「ど、どうもー」

 田中さんはサインを受け取ると早急に去っていった。そして、入れ替わりにガイドさんが三枚の板切れを持って宣市のもとへとやってきて言った。

「センイチ、先程の刺客は?」

「ガイドさん、母から材料が丁度今届きました。なので、その『グロッティ』とやらであなたの服から作りましょうか」

「は?はい、わかりました」

 そう、宣市自身もロボットだと気付く前はガイドさんが全裸の女性に見えていたことを思い出したのだ。そして、定期的に彼の母親が溜まった洗濯物をこうして送り付けてきていることと結びつき、ガイドさんの服を最初に作ることを決心させたのであった。

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