3号機「その名は、ガイドさん!」
——あ、あー。聞こえてますかー?ん?いいんだよ。いいって、ただの雰囲気だから。昔の僕、いきなり話の腰を折られてしまってすまないね。それでは手短に話そうか。僕は君がいるその時間から十と数年位先に存在する未来の綺堂宣市だ。今回そちらに送り込んだそれは端的に言うと、大量殺戮兵器を無理矢理メイド型に改修しようとした結果できたもので、恐らく危険性は当社比で8割型減ったと思う。そんなものを野に放つということがどういうことか、聡明な君ならわかるだろう。こうして僕は今も聡明なわけだしね。うんうん。ということで一緒に仲良くやってくれ、頼んだぞ!そして02nVe、これの後処理は任せた——
未来の世界の人型ロボットが持ってきたボイスレコーダーからしっかりと再生されたのは、未来の綺堂宣市を自称するものからのメッセージだった。対して、今現在の宣市はそれを握りしめて言い放った。
「なんだこれ!何の解決にもならねぇ!」
それは、今の状況を生み出した元凶とされるものへの憤りのように感じられた。そして、彼はそのままの流れでその手を振りかざし握りしめられたそれを床にたたきつけようとした。すると、すかさずロボット娘が止めに入る。
「お待ちください!それには隠ぺい用の仕掛けが施されていて、意図的な衝撃が加わると爆発してこの街が消し飛びます!」
「よーし、それなら確実にお前も一緒に連れていけるな!」
何か物騒なことがさらりと明かされたものの、それを聞いてなお宣市はひるむどころか力を増していく。ところが、ロボット娘は自信あふれた様子でこう答えた。
「それはないです」
「未来のロボットは化け物か!もう返す!」
そう返答され、宣市は文句を言った後でボイスレコーダーを突き返した。その後、ロボット娘はそれを丁寧に受け取ると冷静に言う。
「補足説明しますと、メイド型への無理な改修を受けたため、ただの大量殺戮兵器だった私は主人の身の回りのあらゆるサポートをしながら、兵器としての側面も残した徳用殺戮兵器へと昇華しました」
はたしてそれは本当に大丈夫といえるのだろうか。いや、言えないだろう。という結論が頭の中では出ているものの、今の自分では未来に返す術がないので、結局は自ら手綱をしっかりと握るより他ないと固く決心する宣市であった。
そんな決心をした宣市に対し、ロボット娘が何か伝えたいことがあるように尋ねる。
「ところでセンイチ。一ついいですか?」
「はあ……。なんですか、ロボッ娘さん」
「そのロボッ娘という呼称を変えていただきたいのですが。ご先祖様のことを呼んでいるのか、私のことを呼んでいるのか時々わからなくなります」
声をかけられた宣市が疲れ混じりに返答すると、ロボット娘はそう伝えた。その瞬間、少し宣市は頭を抱えて考えた後、何か思いついたように声をあげる。
「ご先祖、ご先祖!?ソルトくんか!って、男の子じゃなかったの!?」
「はい。我々のプログラムは彼女に用いられているものを進化させたものであり、いうなれば魂の祖先となります。もちろんボディは違うのですが」
既に彼の家にいたロボット「ソルトくん」がロボット娘の祖先であることだけでなく、実は彼ではなく彼女であったことに驚愕する宣市。同時に、歴史を変えかねない重要そうなことがあまりにもさらりと発せられた気がしたので、未来の危機管理は本当にどうなっているのだろうと心配にもなっていた。だが、ロボット娘はマイペースに提案を続ける。
「それで、私としては気軽にヴェルダンディと呼んでいただければと思うのですが」
「ないです」
「ぐぬぬ……」
ロボット娘は宣市に自らの提言を敢然と受け流され、自身の名前がひどく軽い扱いを受けているように感じたのか、難しそうな表情をしていた。しかし、宣市はそんなことは気にせず質問をする。
「過去はどうあれ、今は一応メイド型ロボットということでいいんですよね?」
「はい」
「そこで、『害にしかならないメイド型ロボッ娘さん』をもじって、『ガイドさん』というのはどうだろう!うん、そうしよう!」
宣市はロボット娘の返事を聞くと、すぐに大きな声でそう断言した。
「害にしかならない……?この私が?」
害にしかならないと明言されたことで頭を抱えるロボット娘に、宣市はさらに言葉を付け加える。
「ああ、安心してください。今後の評価次第では略し方は変わるかもしれません」
「そうですか……。よし!ならば、この私――ガイドさんの活躍をこれからしかとその目で見届けてください!」
こうしてロボット娘は「ガイドさん」という名前を得て綺堂家の一員となったのであった。
「さて、それではひと段落付いたところでこれの処理をしないといけませんね」
そう言うとガイドさんは立ち上がり、窓へ近づき開けた。
「へ?」
宣市は処理と言われ、何の事だろうと首を傾げた。そんな彼にガイドさんは手に持ったものを見せながら説明する。
「これですよ、これ。未来から持ってきたボイスレコーダーの処理です」
「ああ、ボイスレコーダーの処理ね。はいはい」
それを聞いて納得する宣市、言葉を続けるガイドさん。
「これには隠ぺい用の強力な爆弾が仕込まれていると、さっき言ったじゃないですかー、もう」
「そうそう強力な爆弾が……。って、ちょっと待って!一体どうするの!?」
「こうするんですよ!」
宣市は会話の途中で嫌な予感がしたため止めに入ろうとしたが遅かった。既にガイドさんの手により未来から持ち込まれたボイスレコーダーはものすごい力で空の彼方へと投げ飛ばされた後だった。そして、数秒経過した後、ピカッと閃光のようなものが走ると同時に轟々と爆音のようなものが聞こえ、ふわっと柔らかいそよ風が街全体を包み込んだのであった。
この件は後にこの世界全体を揺るがしかねない事件へと発展することになっているのだが、それはまだ今の宣市達とは関係のない別のお話である。