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1号機「そいつは、ガイドさん!」

 宣市は先程までは確かに「普通の生活」を送っていた。

 今日も朝に起きて学校へ行き、学校では見知った級友や教師と共に過ごして、学校を出た後は適当にやるべきことを済まし、やりたいことをしてから夜に寝て、また朝を迎える、という様な一見するとなんでもないような事だが幸せに思えそうな明日を迎えるはずだった。


 しかし今現在、宣市の身には突拍子もないような出来事が降りかかっていた。

 全裸の女性と思われる存在が、いきなり机の引き出しから飛び出してきて、彼の目の前へと美しく着地し立ち上がり、意味不明なことを言い放った。

 

「私の名前は戦闘用人型自律式機甲 試作二号機 ヴェルダンディ。誰かの命は狙われている!」


 まるで漫画やアニメのようだったが、宣市からすればアニメじゃないし、本当のことなのだから驚きだ。この時、彼は簡単には理解できそうもないこの状況への恐怖と不安、それに加えて一応は全裸の女性のような存在と対面したことによる羞恥で直視できないでいるようだったが、頭の中で考えることはやめなかった。

 ――戦闘、機構?戦う団体……、テロリストか?それに誰かの命は狙われているって、そりゃあ世界中を探せば誰かしら命を狙われてる人なんてそれなりにいそうだが……。そうか、こいつはこの国を狙うテロリストでこの国のことを教えろってことか!


「くっ、殺すなら早く殺せ!」

 これが現在の彼が出した答えだった。

 宣市は当然こんな状況初めてだったし、部屋の中でもベッドの下や、クローゼットの様にある程度の広さをもった場所へ何かが潜んでいて、そこの住人が襲われるといったドラマや映画みたいなことは想像できても、やはり勉強机の小さく薄い引き出しの中から何者かが突然出てくることは予想だにしていなかっただろう。それに、こういった奇妙なことへの対処の仕方は傍からみればもっといい方法ができるとか、自分だったらもっと賢く立ち回るとか思えるかもしれないが、実際に遭遇してしまえばどうしようもないことだってあるのだ。

 しかし、そんな宣市の答えに対して、そいつは驚き交じりにこう言った。

「えー!いきなり保護対象抹殺ですか?そんなことしたら私の任務いきなり終了じゃないですか、センイチ」

「……は?」

 宣市はますます訳が分からなくなったようで呆気に取られていた。


 ――わけがわからない。いきなりこの女は何を言っているんだ?


 同時に、宣市は何故自分が目の前の存在を女だと判断したのか冷静になって考えてみた。


 ――そんなの見ればわかることじゃないか。


 そいつの二つの青色をした眼は猫の様に大きくパッチリと澄み渡り透き通っていて、底が見えない泉の様に見ているこちらを引き込みそうだった。だが、それとは対照的に口と鼻はしっかり存在しているものの小さく、顔の輪郭自体も小さい、総合して言うとまるで猫のような顔立ちをした美人だった。それに加えて、その全身を包み込むキラキラと銀色に輝く腰まで伸びた長い髪も、そいつが女性であると判断できる要素の一つであろう。


 ――だけど、この違和感はなんだ?それに、どこかで会ったことがある気がする。


 宣市はそいつの先程の発言や、すぐに手を出してこないことから、当面の間は眼の前の存在が自身に危害を加えることはなさそうだと判断したのであった。そして、いつまでも腰を抜かして床に倒れ込んだままではいられなかったのか、一度立ち上がってから色々と事情を聞き出し状況を整理することにしたようだ。

「お、おい!あんたは一体何なんだ!どうして僕の名前を?」

「私の名前は戦闘用人型自律式機甲 試作二号機 ヴェルダンディ、形式番号SMP02nVe!未来からの刺客に命を狙われているこの時代の人間を守るため、未来のあなたによって時空を超えてこの時代に送り込まれました。まあ、所謂お手伝いロボットです」

「…………」

 宣市はそいつにそう言われて違和感の正体に気づいた。


 ――そうかこの違和感は……、そういうことか!


 そう、その違和感は目の前の存在が人の形をしてはいるものの、本当は人間ではないという差異から生じていたということに気付いたのだった。

 宣市はそいつをパッと見て、自分と同じ「人型」をしていて「女性」の様な見た目をしているという認識から、反射的にそいつを「人間の女性」だと判断していたのだが、本能か何かでは違いをしっかりと感じてはいたのであった。さらに、あまりにも唐突で衝撃的なその登場に動揺していたことや、一応は全裸の女性と判断してしまいジロジロと見ることが憚られたのも、彼に違和感を感じさせる手伝いをしたのであろう。


 そして、判断を改めた今、宣市はもう一度眼の前の存在をじっくりと観察してみた。

 その背丈はかなり高く、互いに立った今の状態でその差は宣市の頭一つと半分くらいあり、宣市の身長がおよそ155cmなので180cmくらいは優にあると推測できる。しかし、それに反して胸の大きさは控えめだった。それはかろうじて女性だろうと思えるくらいの大きさで、人間における乳頭らしいものがないこともより控えめに見せている一因だろう。加えて、その谷間の上の方に普通の人間にはない、小さなピラミッド型をした半透明のクリスタル状の物体が埋まっていることも、その要因となっているかもしれない。

 後は、左前小腕部は小さな液晶とキーボードらしきもので構成された小型コンソールと一体化しているようで、これも普通の人間とは異なる部分だろう。それから、腕、脚の付け根などの関節部は機械部分が剥き出しになっていて、人の白い骨とは対照的に鈍く黒光りする頑丈そうな太いフレーム、そのフレームを覆う筋肉の様に綺麗に束ねられた配線があまり目立たないようにうまく工夫を施されてはいるのだろうが確認でき、それ以外の可動するであろう部位にも切れ目のようなものが見て取れた。だが、それ以外を覆う皮膚であろうものは綺麗でみずみずしく、体格に比べて少し若々し過ぎる印象であることを除けば人間の皮膚とそう大差なく感じられる。

 総じて言えば、よくここまで作り込んだものだと言える。衣服を纏えばほぼ普通の人間と判別できないと言っても過言ではなかった。しかし、宣市もしっかりと全身を見て判断していたならば、違和感なくロボットと判断できていたのであろう。もっともこの時代にこの様なすごいロボットはいないはずなので、コスプレか何かかと彼は判断するかもしれないが。


 宣市がそんな思考を張り巡らせているところ、そいつは急に彼の元へと近づいてきて両肩を掴みガクガクと全身を揺らし始めた、――物凄い力で。

「センイチ、どうかしましたか?大丈夫ですか!」

 彼の首は少し前に流行った西部式乗馬体験型ダイエット器具の様に、激しく一定の方向にグラングランと揺れている。しかし、首より下の動きは最小限に止められていて、機械故の力の大きさや、制御の巧さが窺い知れた。そんなことをされた宣市は、たまらず叫びをあげる。

「やめろー!やめっ、やめて!てぇーっ!」

「はい、やめました」

「えぅーごぉ!」

 そいつは宣市の叫びに直様反応し、両肩を掴んだまま力を加えることだけをピタリと止めて静止させた。すると、彼は背中から思い切り引っ張られる様な衝撃に襲われ、彼の体は綺麗なアーチ状に曲がったまま動かなくなった。物凄い力を逃すことなく急に止めたため一方向に力がかかり、物凄い衝撃となって彼の全身を襲ったのであった。

 薄れゆく意識の中、彼は思った。


 ――この先、生き残れるかな……?

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