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白華-黒金王の憂い-

作者:狭雲
 かつてその世界には、何も何者も存在していなかった。世界と共に生まれた創造の女神デュシェはそれを嘆き、やがて世界に自然を、生き物を与えた。只一つ、金属を除いて。
 女神デュシェが頼ったのは異界の神。見上げるほどの白銀の巨体に走る黒い縞模様、夜闇でも分かる輝く黄金の眼を持つ雄々しく気高き神に。金属を生み出し木々や草花を操る雄大なる大地の神は、女神デュシェの望みを聞き入れ、生み出した様々な金属を世界に与えた。
 異界に住むかの神の名を、『黒金王』と呼ぶ。
(「旧トルスタヤ聖書 第1章神の系譜」より一部抜粋)

 気まぐれに降り立った世界で最初に目にしたのは、布にくるまれた人の子だった。
 いつだったか、此の世界の最高神とやらがオレに助力を請いに土下座しに来た。最も、そうさせたのはオレなのだが。それはそうと、その時此の世界への通行を自由にさせたのだが、正直どうでも良かったのでついこの間まですっかり忘れていた。退屈を紛らわそうとやってきたら、眼前に生まれたばかりの嬰児とはどういう意味があるのか。がしかし、生を受けてすぐに捨てられた嬰児の命などたかが知れている。助ける理由はないし、此れが此の泣き叫ぶ嬰児の運命だ。
 だからあの時何故そのまま立ち去らなかったのか、不思議で致し方ない。


 私は肩までの真っ直ぐな白髪を揺らしながら、ぎりぎり早足だと思われる範囲で足を進めている。昨夜就寝前に考えたことを、養父に伝え許可を取るために。まあ、昨夜と言ってもこの空間に昼も夜も、ついでに時間もあってないようなものなのだけど。目当ての存在が寛いでいるであろう部屋が見えてくる。いつも開けっ放しの襖は今日も開いている。

「お養父さん(ヤンフー)!」

 私が自分の下へ来ることなどお見通しであろうこの空間の主にして私の養父を呼ぶ。帳台にうつ伏せに寝そべり、自身の化身にして神使の一頭である白い子虎が手にじゃれ付くのを眺めていた小柄な存在が、私を見ずに冷めた声で答える。

「煩い」
「うっ・・・」

 つい言葉に詰まる。確かにドタドタと歩いていたし部屋に入るなり大声を出したので、何も言い返せない。けれど目的は果たさなければ。
 私は彼を見る。
 外見年齢は十歳程度。氷の眼差しとも言われている釣り目気味の大きな瞳は輝く黄金、身長よりずっと長い艶のある白髪が畳の上に優美な曲線を描いて広がっている。彼の額を銀のサークレットが飾る。雪のような、と言う表現がぴったりな白皙ハクセキの肌が羨ましい。畳に投げ出された足はすらりとしている。普段、片足が隠れるように巻いている腰布は、今はもう一頭の子虎の敷布団となっていた。長々語りましたが、何が言いたいのかと言いますと、およそ人間とは思えない『人外の美貌』を持っているんですよ、此のお方は。事実人間じゃないけど。

「何用だ」

 冷めた声音で尋ねられて、思い切って言う。

「シロ。私、人界に行きたい。と言うか、行く」

 瞬間、その場の空気がいっきに下がった。彼の放つ気が鋼の様な剣呑さを帯びる。

白華バイファ

 劉白華リュウ バイファ。それが私に与えられた名前。
 身を起こし片膝を立てそこに腕を置いた体勢をとったシロが、本来なら幼く愛らしい顔を不機嫌に歪めていた。あ、いつも不機嫌顔だった。

「前も一度降りただろう。今度の理由はなんだ」
「前は魔法と科学?が共存した世界だったじゃない。今度は違う世界を見たい」
「却下だ」
「なんで~?」
「オレの神域でのうのうと育った世間所か一般常識さえ危ういお前に、そう何度も許可できるものではない」
「そりゃ、シロ~。ここに居れば襲われることも明日の暮らしを嘆くこともないから、その発言も一理あるけど・・・」

 あまりにもはっきりしすぎた発言の内容だと思う。この養父は大方オブラートに包むという事を全くしない。清清しいくらいに発言がどストレートだ。

「人生見て聞いて感じて楽しむのが一番だって青龍も言ってたし、それに・・・」

 いつの間にか胸の前で握り締めていた両の拳をおろす。つと、視線をつま先に落としたままの私に気付いたシロが私を見たのが分かった。

「それに・・・」

 言葉につまる。言葉の先を、彼は知っているのかも知れない。けれど、これ以上を口にしてしまえば私はシロとシロの同胞達を裏切ることになりはしないだろうか。そもそも、人間である私はずっとここに居ていいのだろうか。
 そんなことをつらつらと考えていると、あからさまなため息が聞こえて思わずシロを見つめる。

「シロ?」
「好きにしろ」

 絶対に許可されないだろうからどう説得しようか昨晩から考えていたのに、信じられない思いでシロを見つめていると。

「ん」

 のんきに寝ていた子虎の首根っこを掴んで私に突き出す。小さくて可愛いとは言っても神使である。護衛には最適だからだろう。前回もそうだった。大またで歩み寄り子虎の神獣を両手で受け取る。腕の中から「きゃうきゃう」と鳴き声が聞こえる。

「い、いいの?」
「許可が出なかったら出なかったで、他の奴に許可取っ手でも行きそうだからな」
「・・・あ、その手があった!!」

 途端、シロは顔を顰める。どうせ「余計なことを言ってしまった」とでも思っているのだろう。
 子虎を腕に抱えなおして身を翻す。

「有難うシロ!行ってきます!」

 無言で見送るシロの視線を感じながら、私はさっそく下界に降りたのだった。


 煩い小娘の気配が己が領域から消えたのと同時に、懐かしい、けれど小娘以上に煩い奴の気配が領域の出入り口に現れる。ここもだが、同胞達の持つ領域は、例え同胞といえど主の許可なく踏み込むことは出来ない。一瞬躊躇ったものの許可をすると、そいつはすぐに目の前に顕現した。

「俺っち参上!!!」
「帰れ」

 そいつに向かって軽く腕を振るうと、鉄の氷柱がそいつの顔面めがけて剛速球で向かっていく。

「うおう!!」

 寸前で上体を逸らすことで回避したそいつは、青ざめた顔で抗議してきた。

「ちょ、白虎!?俺っちの麗しい顔に風穴開くとこだったぞ!!」
「開けば良かったのにな。そうすれば静かになったものを」
「酷い・・・」

 心のそこからの本音で返せば、わざとらしく落ち込むしぐさを見せる。思わず鼻で笑う。人間には不可能だが、オレ達神族であれば余裕で見切れる速さだ。ギリギリまで避けなかったのがその証拠だろうに。
オレは両手を後ろについて同胞を見上げる。

「それで、お前は何の用でオレの神域に来たんだ青龍」

両耳の前だけ長い紺碧の髪に神の証である黄金の瞳の同胞青龍は、笑いながらオレの前に胡坐で座る。座布団?必要ないだろ。

「いやなに、久し振りに鏡を通して白虎と小白シャオバイとだべろうと思ったらなんか面白い会話が聞こえてきてさ~」

 人で言えば10代後半の見た目のくせに、「来ちゃった」と茶目っ気たっぷりに首を傾げやがって気色悪い。頭上からまた鉄の氷柱を2本落とす。今度はバク転で避けた。
 因みに、「小白」とは白華の愛称で白ちゃんという意味だ。
 青龍がニヤリと口角を吊り上げてこっちを見る。

「で、結局許可するなんてやっぱり白虎はあの子に甘いね」
「何処が」
「全部がだよ。あの子を拾って名を付けて知識を与えた。愛情だよね~~。『あの』黒金王が実は親馬鹿だなんて知ったら、神界が上へ下への大騒ぎだろうなあ」

 眉間に皺が寄る。不機嫌さが数値化して見えたなら、今頃数値が急上昇していることだろう。

「愛情?」

 クスクス笑いながら頷く青龍。一体何がそんなに面白いのか。袖で口元を隠してオレを見た。

「やっかいだよね。そんな人間みたいなものとは無縁であるはずの俺達神でさえ、愛し子には人の親みたいに甘くなってしまう。神にとって本当に厄介で・・・それ以上に愛しい存在だよ。『神の愛し子』は、さ」

 『神の愛し子』。

 神に魅入られ庇護され加護を与えられた神の子供タカラモノ。そいつらは加護を与えた神の力の一部を行使することが出来る。白華も同様だ。
 オレはニヤつく同胞に潰れた蛙でも見るかのような眼差しを向ける。

「くだらない。あれはオレの所有物だ」

 愛情などありはしない。これは只の気まぐれなのだから。
 赤く色づいた神域の木々を遠くに眺め、美貌の男神はこっそりと息をついた。

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