おじ様と当事者についての事情説明
「さて、改めて自己紹介しましょうか」
フワリっと肩にかかった髪をはらった文学部部長様。ん~?わざわざ挨拶する必要あるの~?
「紫苑?悠輔はね?私の表向きの表は知っていても、表向きと本当の身分を知らないんだよ」
私の疑問に答えるように、顔を覗き込んで答えてくれるおじ様。…悠輔の顔が唖然としてる。本当に知らないの?
「この事は、皇族でも箝口令がしかれるほどだろ?むしろ知らなくて当たり前だろ」
「いくら神の使いである烏天狗だとしても、そのお方の擬態は見破れるのは少し厳しいと思うよ?」
「神の使い…。擬態…?…まさか!?」
二人の言葉に深く考え込み、なにか思い至ったように驚く悠輔。流石、頭の回転が速いね~。
「紫苑が、今の最高神と呼ばれる方が敬意を払うとしたら、それより上の……別天津神か神世七代…」
悠輔のその言葉に、あのかたの表情が固まる。ん~、私が敬意を払っているのに気づくなんて流石だよね~。まぁ、それに気づいたことに気づいて、表情が固まっていらっしゃるけど。
「それでいて、天照様が信頼している相手…。人間界にいらっしゃるのは、天照大御神様、月読尊様、須佐之男命様…。あぁ、思兼命様もいらっしゃったか。後は、その血であるがゆえに、神である妖狐が何柱か…」
その言葉に、銀髪組の顔が固まる。疑うような目線を向けてこられても違いますから!!私、功おじ様が思兼命なんて言ってませんから!それに、妖狐の件も言ってませんよ!私でさえ、誰が妖狐かわかんないんですから!みゃー君なんて、猫ですからね!
「思兼命様がいらっしゃるとなると……古書の通り、仲がよろしい。そのお方が信頼をおけるのは………」
ふっと、伏し目がちだった顔を上げ、おじ様に目を合わせる悠輔。そして、最敬礼をしその正体を告げる。
「……高御産巣日神様であらせられます?」
物凄くカッコいい!!自信に溢れたその瞳と相手を敬う態度が、あの怖い雰囲気を相殺してて、物凄くカッコいい!(大事なことなので二度言いました)
「正解だよ、悠輔。まさか、ヒントも無しに正解にたどり着くとわねぇ?………そこまでこの子の事が好きかい?人間界に転生してまでも」
「おじ様?今、なんて…?」
「聞こえないように言ったから良いんだよ」
ふわり、と微笑んだおじ様は何事か呟く。聞いても曖昧に誤魔化され、他の人たちに問いかけても、無言で首を振られる。
空狐と言う名の神の私と、烏天狗の悠輔の耳に入らないように呟くなんて、本当にこの人は何を言ったんだろうねぇ〜?
「ほら。頰を膨らませても可愛いけど、説明させてもらってもいいかな?」
「むぅ〜。良いですよ。いつかは説明して下さいよ」
頰を撫でられながら、覗きこまれ思わずうなづいてしまいます。この人、絶対説明してくれないん ですよね。けど、昔からの癖でそれをされると、思わず頷いてしまうんだよね。
「悠輔。この子の昔からの癖ですよ。いつかやってみると良いですよ?」
「えっ…。ありがとうございます…?」
悠輔の反応を見て、面白がってるおじ様。この人、愉快犯みたいな性格してるからなー。
「では、改めまして。桜華大学文学部学部長、高木太陽です。よろしくね?」
「おじ様?前は、六之篠宮を名乗っていましたよね?」
「その前は、白河でしたよね?」
「一番、性格が似ている川之宮・水之宮を名乗らないんだよな〜」
自己紹介に唖然とした顔をする悠輔。そりゃあ、自己紹介した名前を誰も呼ばないなんておかしいし、しれっと名前を変えてる発言したら驚くよね?
「それで。俺は何てお呼びすれば良いんですか?」
「呼ばなくて良いよ。和成を脅してはよく名前を変えてるしね。……そんな事より君の弟だよ」
「それはおかしい!」
「何しちゃってくれるんですか!?」
「悠輔と良ちゃんに賛成です!!」
笑顔で話をそらしたおじ様につっこむ私達。この人、しれっと国家最高峰の権力者を脅したって告白しましたよ!?普通の人間でしたらアウトですよ!
「流石は我らが祖先。理不尽差もそっくりだ」
「父さん(大叔父様)も大概だから!」
一人だけ無関係を装う大叔父様も、その血が濃いってことを自覚してくださいよ!貴方も大概理不尽ですからね!
それに、高御産巣日神は、天孫の伯父である思兼命の父!つまり、今世の功おじ様の姪御と交際している貴方の御子息が結婚すれば、あなたは縁繋ぎができるってことでしょうが!
「紫苑。これ以上愚息の話を進めたら、靖さんに迷惑でしょう?ほらほら、ここも長く使えない事ですし、本題に入りましょう」
「はーい。了解でーす!まずは、今回の事件に関してですねー」
「それは私から言おうか。実は、各学部の学部長の元に命知らずの愚か者が現れていてね?こっちには1時間ペースでだけどそっちはどうだい?」
「こちらはそこまで。最近オペの仕事が多くて身元の知れない客入れないようにしていたので」
「おやおや。彼らは、それなりには名家のはずなのにねー?愛しい我が娘の相手に選ばれるんだから」
「えぇ。その血筋の者に妖怪の生まれ変わりが生まれるのは、旧家だけですからね。しかし、ウチの入院患者と関わりがない者を入れる理由なんぞ必要ありませんよ」
………怖い。おじ様は良いとして、大叔父様は怖い。昔、裏の社会と繋がりがあったとも言われる人が、あんなに丁寧に喋ってたら怖い!
「…紫苑。この二人って似てるよね?なんで、こんなにも妖しく微笑みながら、冷たく嘲られるの?」
怯えながら、コソって話しかけてくる良ちゃん。怖いよね、うん怖いよね。私帰りたいもん。
「良ちゃん…。川之宮・水之宮のお父様・お祖父様《氷の名の二人》は良くやっていますよ」
「女帝様と女王様もか。つまり血筋だね」
「……俺は、あの二人をそうさせてるのが、血縁だと知って。今、猛烈に胃が痛い」
「大丈夫だ悠輔くん!君達が紫苑が信頼するに値している人物だと知っているから!」
「そうだよ!今回の件に関しては、神が絡んでいるから悠輔のせいじゃないから!」
「「神?」」
真っ青な顔してお腹に手を当てる悠輔を、良ちゃんと一緒になって慰める。だって、悠輔が悪いわけじゃないし。それに、おじ様達がこちらに反応してくれたしね!
「えっ?あの愛の女神が関わっているんでしょう?じゃないと、神の力をそのままにして現世に来ているおじ様が対処できないはずないもの!」
「そんなに輝かしい笑顔で言わないでくれる?遠回しに無能って言ってるように聞こえるから」
少し落ち込んだおじ様に、気になっていた事を聞く。
「それと、私達と同格以上の神も絡んでいる」
みるみるおじ様の表情が固まる。大叔父様達は知らなかったみたいだし、悠輔は知る由もなし。
「悠輔は知らないと思うけど、私の部下に情報収集させていてね?悠輔を見つけた時に、報告を周りにも聞こえるようにさせていたのよ。下衆な勘ぐりを受ける前に、あくまでも無関係という事を分からせるために」
彼らの真意がわからないこそ、悠輔達の最低限の名誉を守るために。そして、怪しい人を自由に徘徊させているような態度をとる、責任者に非はない事を分からせるためにも。
「だからこそおかしいのよ。彼女達は、私の神としての加護を受けている。そうだとしても、最高神に匹敵する程の、神の力を見破れる筈がない」
「そうだよなぁー。俺が聞いてたのは、兄達が問題を起こしやがってるとだ。まぁ、神の血のお陰で違和感しか無かったがな。詳しく調べようにも、何かの力に妨害されて腹たってたんだよ。……殴っていいか?その女神」
「やめなさい。廉太郎がぶん殴るって決めたら、天照だけじゃ無くて、月詠や須佐男まで力を授けて大惨事になるから」
笑顔で手をゴキゴキ鳴らす大叔父様に、おじ様はゆっくりと頭をふる。やっだなぁ、私が力を貸すわけないでしょ。
「あの女神は人の信仰心によって神格化した神だから、下手に危害を加えたら人間界に影響があるんだよ。聞いた事があるだろう?--。彼女は愛に狂った女として今も語り継がれて、能の題材にもなっている。だからこそ、狂愛と偏愛を司り、恋愛の神として最高位になっているんだよ。
……面倒な。人の信仰心が増して、最高神にも匹敵する程になったと思ったら。月詠たちの力から意識だけでも逃げ出して。
可愛い人の子をなんだと思ってるんだ」
怒りに身を震わせるおじ様の目が妖しくきらめく。それは人の血のように鮮やかな色。猩々(しょうじょう)という伝説の生物の名を持つ猩々緋色は、昔から人を惹きつけて止まなかった。
今も、皆がおじ様の瞳に見惚れている。それでいて、ごくありふれた茶色い髪も銀色に変わってきて神々しくなって…え?
「おじ様!落ち着いてくださいませ!あなた様が暴走なさってどうするのです!?」
「あぁ…。うん、ごめんね?」
恥ずかしそうに笑ったおじ様は、普通の茶色い髪と目に色を戻している。穏やかなこの人をそこまで怒らせるなんて、あの女すごいなぁ。悪い意味で。
「おじ様、気になってたことで一つ。その兄弟達の中で、操られている人はいないんですか?
「いるよ?」
普通に肯定されて驚く私達。そりゃ、おじ様は神としてこちらに来たんですから、神の力にそこまで惑わされないと思いますよ?ですけど、そう簡単に肯定しますか?普通。
「紫苑。君が巻き込まれているからこそお願いがある」
どうか
彼女を救ってあげてくれないか?




