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私を心の底から愛して  作者: 湊 悠美
天才教授は誰?
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*大学の講義 ~源氏物語~*

長々と講義のお話をしていますが、聞かなくても大丈夫

 振袖を着て、壇上に立つ紫苑。古典文学と言う事で許可は取ってあるので大丈夫なはずだが、問題が有れば文学部学部長のせいにしようと考えている。因みにだが、本振袖であり、いつぞやのパーティーのものである。


「さて、皆さん。古典文学の最高傑作と言われるのは何だと思う?」


 紫苑教授の問いに返答がすぐさま返ってくる。


「源氏物語」「紫のゆかり」「紫物語」


「そう、源氏の物語。では、この作品の作者は?」


「紫式部!」「・・・みなもとの高明たかあきという説もありますよね」 「あぁ!」 「えっ!?」


 流石は、桜華大学の学生。半分以上が、その説も知っているとは。自分の欲しかった答えが返ってきて、紫苑の顔には、満面の笑みが浮かんでいる。


「流石だね!作者は、紫式部だと言われているのだが、みなもとの高明たかあきが書いたと言われる説が存在するんだ。高明の娘の明子あきこは藤原道長の妻だった。だから、道長が天皇の気を引くために、高明に頼んだ説があるんだ。

 他にも、源平藤橘げんぺいとうきつ――奈良時代以来、名家として一門が繁栄した歴史のある源氏・平氏・藤原氏・(たちばな)氏の四氏の称――の中でも、藤原氏がもっとも古いのは、知ってるね。蘇我そがの入鹿いるかを倒して大化の改新を実現した藤原鎌足に始まった。しかし、源氏は嵯峨さが天皇が皇子に源姓を与えて臣下に降したことに始まったんだよ。つまり、藤原の方が歴史が古いんだ。おっと、これは歴史学部(が専門)の内容だね。

 兎も角。なぜ、藤原氏全盛の時代に、藤原一族である、紫式部――父は、藤原ふじわらの為時ためとき。夫は、藤原ふじわらの宣孝のぶたか――が、かつて藤原一族が安和あんなの変で失脚させた源氏を主人公にし、源氏が常に勝ち、源氏の帝位継承の話――冷泉帝れいぜいてい(桐壺帝の第十皇子)は、光源氏と藤壺ふじつぼの中宮の男子――を書いたのか。父親である、式部大丞しきぶだいじょう(当時の官位)を思わせる「藤式部丞とうしきぶのじょう」が、愚かな内容の話をする役割を演じているのは何故か。だから、紫式部が書いたからではないと言われたんだ。他にも、女性にはこんな話を書けないと言った、男尊女卑だんそんじょひとか・・・馬鹿らしい。

 ・・・まぁそれは、ありえないんだけどね」


 ズバッと、今まで喋っていた内容を斬る紫苑。少なくとも、大半の学生は驚いている。何人かは、知っていたらしいが。


「どうしてですか?」 「幼少期に、高明が亡くなっていたからだ」


「・・・何か、良いとこどりされた気がする。そう、明子の幼少期に高明が亡くなっていたから、それはあり得ないんだ。まぁ、モデルは源高明だと言われているよ。7歳で臣籍降下し、源の姓を賜与しよされる。安和あんなの変で三月に流罪となったが、光源氏も須磨に下るのは三月。学問も管弦も得意だったんだよ・・・」


 含みのある言い方をした紫苑に、学生たちは首を傾げる。まるで、見て来たような言い方・・・。それに気づいたのか、紫苑は話を逸らす


「・・・で、何故、紫式部がこの話を書いたんだと思う?」


「作家としての文才や創作意欲を満たすため」「式部の父がその文才で官位を得たように式部が女房になるため」


「多分、それも大きいと思うよ。他にも、藤原氏により左遷された源高明の鎮魂のために藤原氏一族である紫式部に書かせたという説とかがあるんだ。だからこそ、私は、源高明について語ったのだけど。

 まぁ、他にも邪道だけど、紫式部が藤原道長を愛していた説。だからこそ、光源氏は、波瀾万丈の人生を送るんだ。物の怪に悩まされたり、義母や、禁断の愛に悩まされたり。道長を愛していたからこそ、女性の心理表現が巧みだったと言われているんだ。献身的な愛をした、女性達の表現がね・・・」


 含ませながら言った、紫苑の言葉に何人かが息を呑む。自分より若い天才教授にも、闇があったことを、天才過ぎる事を改めて実感した。


「と言う訳で、源氏物語の54帖の名前を言ってみよう!それに合わせて、要点を書いていくから!」「教授!身長は、大丈夫ですか!?」「多分、大丈夫!では、右端の田中君。言ってみよう!」


「へっ?あ、はい。桐壺きりつぼ

帚木ははきぎ

「人妻に惚れる。空蝉うつせみ

「夕顔」

「藤壺の血縁との出会い。10歳は、犯罪だよね!そして、藤壺との禁断の関係。若紫わかむらさき!」

「現代でも共感できる、末摘花すえつむはな

「罪の重さに心を痛める、紅葉賀もみじのが

朧月夜おぼろづきよとの出会い、花宴はなのえん

「子の誕生、正妻の死、紫の上と契りを結ぶ。あおい

桐壺院きりつぼいんの死、六条ろくじょうの御息所みやすどころの出立、藤壺の出家、朧月夜との関係が発覚した、賢木さかき

花散里はなちるさと

「須磨に行った、須磨」

「明石の上と契り、権大納言になった、明石」

「令泉帝の即位、御息所の死、明石の姫君誕生!澪標みおつくし

「末摘花を愛しく思った、蓬生よもぎう

関屋せきや

絵合えあわせ

「明石の君の上洛、松風まつかぜ

「姫君を養女に、藤壺の死、冷泉帝が出生の秘密に気付いた、薄雲うすぐも

「第20帖、朝顔あさがお

「夕霧の元服、少女おとめ

「玉鬘十帖である、玉鬘たまかずら

初音はつね

「玉鬘に魅かれ始める、胡蝶こちょう

「内大臣が(玉鬘)を捜す、蛍」

常夏とこなつ

篝火かがりび

「紫の上に夕霧ゆうぎりが魅かれる、野分のわき

「玉鬘と実父の対面、行幸みゆき

藤袴ふじばかま

髭黒ひげくろに嫁ぐ、玉鬘十帖の最後、真木柱まきばしら

「明石の姫君の成人式、梅枝うめがえ

「準太政天皇を授かる、藤裏葉ふじのうらば

「第二部で、女三宮が源氏に嫁ぐ。若菜上わかなじょう

「女三宮が柏木と契った、若菜下わかなげ

「女三宮がかおるを出産した、柏木」

「柏木の一周忌が終わった、横笛」

「鈴虫」

「夕霧の妻である雲居雁くもいのかりが実家に帰った、夕霧ゆうぎり

「紫の上の死去、御法みのり

「源氏が出家し姿を消した、幻」

「54帖に入っていませんが名前だけは伝わっている、雲隠くもがくれ

「第三部で、匂宮三帖。匂宮におうのみや

「髭黒の娘、紅梅に匂宮が興味を持つ。紅梅こうばい

「匂宮三帖の最後、竹河たけかわ

「宇治十帖、橋姫はしひめ

「薫の思いを受け入れてもらえなかった、椎本しいがもと

「薫の思い人の死去、総角あげまき

「美しい女性を匂宮に譲った事を後悔する、早蕨さわらび

「美しい浮舟うきふねに心を惹かれる、宿木やどりぎ

「浮舟を宇治に連れて帰る、東屋あずまや

「浮舟が死を決意する、浮舟うきふね

「宇治川に身を投げようとした、蜻蛉かげろう

「出家した浮舟、手習てならい

「浮舟は薫の手紙を受け取らず完結、夢浮橋ゆめのうきはし


「・・・・良し、何とか書けた」


 上下式のホワイトボードな為、何とか書ききったが、後ろの方は見えにくいだろ。


「流石だよねぇ~。要点書くからって言ってるのに要点言ってくれるとか」


 はぁ。っと溜息を吐き、袖を振る。


「因みにだけど、夢浮橋ゆめのうきはしの続編のお話もあるのだけど、山路の露と言ってね。まぁ、書かれたのが建礼門院(平清盛の娘・徳子)女房・右京大夫との説だったら、鎌倉時代。彼女の父親だったら平安後期と言ったところかな。内容は、浮舟の母から便りがあり、薫と浮舟は再会を果たすけど、帰京を促す母の願いには答えず、浮舟はそのまま修行をつづけるって言うところかな?」


へぇ~。と流石に、皆も知らなかったのか感嘆の声がする。


「まぁ、源氏物語は、今も愛されているお話なんだよ。その中で、私は一番気に入った話を探してほしい。そして、その裏の話を考えてほしい。物語だけではなく、作者側の話をも想像してほしい。それが、今の君達に対する、教訓になるかもしれない。それを考えてほしい」


 何処と無く偉そうに言い切った後、くすりと笑い、


「まぁ、若い私が言う台詞じゃないんだけどね」


 天才教授のその一声に、皆が笑った。


「では、これにて解散」




 ~第一部~


 1,桐壺きりつぼ

 2.帚木ははきぎ 3.空蝉うつせみ 4.夕顔ゆうがお  帚木三帖

 5.若紫わかむらさき 6.末摘花すえつむはな 7.紅葉賀もみじのが 8.花宴はなのえん 9.あおい 10.賢木さかき 11.花散里はなちるさと 12.須磨すま 13.明石あかし 14.澪標みおつくし 15.蓬生よもぎう 16.関屋せきや 17.絵合えあわせ 18.松風まつかぜ 19.薄雲うすぐも 20.朝顔あさがお 21.少女おとめ

 22.玉鬘たまかずら 23.初音はつね 24.胡蝶こちょう 25.常夏とこなつ 26.ほたる 27.篝火かがりび 28.野分やぶん 29.行幸みゆき 30.藤袴ふじばかま 31.真木柱まきばしら  玉鬘十帖

 32.梅枝うめがえ 33.藤裏葉ふじのうらば



 ~第二部~


 34.若菜上わかなじょう 35.若菜下わかなげ 36.柏木かしわぎ 37.横笛よこぶえ 38.鈴虫すずむし 39.夕霧ゆうぎり 40.御法みのり 41.まぼろし  (雲隠(くもがくれ)



 ~第三部~


 42.匂宮におうのみや 43.紅梅こうばい 44.竹河たけかわ  匂宮三帖

 45.橋姫はしひめ 46.椎本しいがもと 47.総角あげまき 48.早蕨さわらび 49.宿木やどりぎ 50.東屋あずまや 51.浮舟うきふね 52.蜻蛉かげろう 53.手習てならい 54.夢浮橋ゆめのうきはし  宇治十帖


新章始まりました~

この章は、無駄に話が長いので飛ばせる所は、飛ばしても問題なしと前書きに書きます

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