紫苑様の闇 眞奈視点
溜め息をつきながら、早足で歩く。早く呼びに行かなければと思う気持ちと、紫苑様の深い闇についての気持ち。1人では、消化できない気持ちが渦巻いている。
「華菜、光紗。・・・お二人も一緒に聞いてもらえますか?」
ドアを開けると、杏香さんと眞絢さんの姿と共に、華菜と光紗の姿があった。杏香さんと眞絢さんにも、聞いてもらおう。因みに、杏香さんは、メイド長。眞綾さんは、杏香さんのお母さんで、料理長。菖蒲色の髪に蜜柑色の目をした美女です。長い髪は、紫苑様に負けず劣らず、美しいです。凛として気高い雰囲気の中にある、可愛らしさが特徴の人ですね。
「何があったの?」
杏香さんが、首を傾げながら聞いてくる。流石は、長い間生きているだけありますね。
「・・・紫苑様が私達の和服姿が見たいと」
「それは、いつもの事でしょう。本当は?」
眞絢さんがズバッと斬る。
「紫苑様の愛に関する事です」
「「愛?」」
杏香さんと眞絢さんが、首を傾げる。華菜と光紗は、うすうす何かを感じていたのでしょう。同じように溜め息を吐く。
「紫苑様はLiebesträumeでは、No.3の歌詞が一番好きだと」
「2番じゃなくて!?」
「3番は、『愛のために尽くせ』よね!」
「「・・・・はぁ」」
Liebesträumeは、ピアノ曲ですが、元々独唱歌です。2番は、情熱的で愛について語られていて、3番は愛のために尽くす事が語られている。普通は、『死んでしまいたいものだ 愛の幸せのもとで』と言う歌詞の2番を選ぶでしょう。
けど、紫苑様がえらんだのは、『もう再び目を覚ましはしない 彼は死にたどり着いた』という歌詞の3番。
これは、『彼の人に死が訪れ、お墓の前で嘆き悲しむ時は来る。だから、自分に心を開く者がいれば、愛せるかぎり愛せ。どんな時も喜ばせよ。悲しませてはならない』という内容。
そう、『自分に心を開く者を信用せず』、血縁以外の異性に対して絶対に『愛している』とは絶対に言わない紫苑様が、選ぶような歌詞ではないのです。
「・・・・歪みきってますね」
杏香さんが、吐き捨てるように言った言葉が、皆の気持ちを代弁していました。
「はぁ。お母さん・・・どうにかならないの」
「彼らに、任せておけば?」
「大丈夫なの?」
「あの人は、『大丈夫だ』と言っていたし、旦那様も『問題は無い』と」
「「「じゃあ、大丈夫ですね!」」」
「いやいや、お母さん達忘れているよ!あの、シスコンと三十路達の事!」
「「「「・・・・あぁ」」」」
シスコンは、今日も紫苑様の部屋に突入しようとしたお二人。水之宮月光様と川之宮新雪様。お二人は、叔父と弟と言う関係。だけど、正確に言わせてもらうなら、弟達。だから、シスコン。そのシスコン達も、紫苑様の事が大好きなんでしょう。けど、何処かで自分以外の人達が、紫苑様を幸せにできると考えている。
三十路は、神篠鳳様と、如月幸矢様。お二人とも、三十路で、警察庁長官とその補佐という役職の為、よく女性にモテます。しかし、好きな女性が居るからと断っています。それは、紫苑様が大好きだから。家族としても、女性としても。けど、何処かで自分以外の人達が、紫苑様を幸せにできると考えている。・・・・・・・なんで、こんな面倒な人達しか居ないんでしょうか。どいつもこいつも、独占欲が強すぎでしょ!
「まぁ、何とかなるでしょ!」
眞絢さんが、考えるのを諦めました。確かに、そうするのが良いんでしょうね。
「爽様も、紫苑様を諦めるみたいですし」
「あぁ・・・。『愛しい人は、羽ばたいているからこそ愛しい』って、言ってましたもんね」
・・・それにしても、何で独占欲が強いものしか居ないんだろう?
「眞奈、独占欲が強いのは、当たり前よ。貴女達も、昔はそうだったでしょ?」
「血がそうなっているのよ。だから、私とお母さんと見てたらわかるでしょ?あの方は、空狐だと言っているけど、神様だから、そういう者しか寄って来ないの」
眞絢さんと杏香さんが言った事を改めて、認識する。私であるからではなく、妖怪としての血がそうさせている。そして、皇族は神の血が強いから、独占欲が強く、そしてそういう者から好かれやすい。
「皇族の血は、功様と、遼己様。後は、和暉様でわかるかしら」
「確かに、分かり易い例えですね。特に前半二人は」
納得するしかない。パーティーがあっても、奥様に引っ付いている人達だから。
「もっと簡単に言えば、虎様と、勝亀様と、砕亀様と、黄木様」
「あぁ・・・」
皇族の中でも、真面と言われる色家。次期当主達は、独占欲が強い事で有名です。だから、去年のバレンタインでも大変だったとか。
「まぁ、少なくとも、紫苑様の相手の彼らも独占欲は強いわよ」
「そこから、一人を選ぶんですか?無理ですよ!」
「えぇ、無理よ!けど、紫苑様は秀才なの。何て言われているか知っているでしょう?」
紫苑様は、賢すぎる。だから、秀才・天才・化け物とか呼ばれている。その頭脳は、国家機密にも使われ・・・・っ!
「つまり・・・枷・・いえ、禊・・・・・鎖にするんですね。この国に・・・・唯でさえ、御三家としての宿命を背負っているのに・・!」
「『私は、籠の鳥何かじゃない。私自身が籠なのよ。だから、籠の役割として、私は居なくてはならないの。私は、鳥に愛情を抱いているわ。だからこそ、私はこの世に存在していなければならない。私は、私であり私なのよ』・・・紫苑が・・・天照が言っていたわ。私が言うのも何だけど嫌な宿命よね」
眞絢さんが、紫苑様の言葉を紡ぐ。その時の紫苑様の顔は、絶対に見たくない。見たとしても、忘れられないだろう。
「今日ぐらいは、ゆっくりして欲しかったんですけどね」
光紗が、手首を撫でながら言う。服で見えないけど、そこにはお守りがある。
「どうして、この世を征服しようと思うのでしょうか。それぞれの世界があるのに」
誰かに問いかけるわけでもなく、華菜はため息をついた。・・物凄く、気持ちは分かるよ。
「では、紫苑様の元へ行きますか。遅くなって探しに来た、紫苑様に聞かせられないし」
「「そうね」」
「三人とも行ってらっしゃい!」
「あの人を見つけたら、私の所に来るように伝えてくれる?」
「「「了解です!」」」
さて、我らが、お姫様の紫苑様の所に行きましょうか!
眞綾さんと、杏香さんは既婚者です。
さて、年齢については気にしてはいけませんよ。
だって、彼女たちとその夫は・・・・。
その内容は、詳しくまた書きます




