*2週間のダイジェスト*
~ダイジェスト~
1日目
~教室~
教室の机で寝ている紫苑。そして、その寝顔に見とれる光と、遠巻きに見ている人達。因みに光はすでに、紫苑の寝顔を撮っている(もう他の4人に送ってある)。すると、後ろから紫苑に忍び寄る影。
「紫苑様!起きてください!!」
「ふぇ!?青!え、ちょっと、引っ張らないで!」
「おじ様達がいらっしゃらないので、書類が溜まっているんですよ。では、光君。紫苑様をお借りしますね」
「えっ!?はい!どうぞ・・・」
警察に腕を掴まれ連行される被疑者の姿を見送りながら、ため息をつく光。
「はぁ。それにしても、紫苑様と龍様は美しいですわね?」
「えぇ。お二人ともご両親に似られたのでしょうね」
「それにしても、紫苑様の口調が崩れても溢れ出る気品!素晴らしいですね!!」
「えぇ!紫苑様も挨拶してくださっているのに、彼らのせいで返せないのが辛いですわ」
「まぁ、それだけ紫苑様を愛してくださっていると言う事で良いんじゃありませんこと?」
「「えぇ!!」」
3人のご令嬢の会話を聞きながら頷く、令息・令嬢。もうすでに、紫苑が名前で呼ぶ人達以外に、紫苑の多重人格のような猫かぶりが広まっている様に、光達による溺愛も広まっていた。まぁ、彼らに関しては水面下で自分たちの手で広めていたりしているのだが。
2日目
~理事長室~
「ねぇ?この書類どこまであるの?」
そう言って紫苑が示す机上の書類は、優に紫苑の座高を超えていた。紫苑は、身長が低くても足が長い為、座高が低い。だが、普通は書類が座高を超すこともないだろう。
「あぁ?・・・後、七十ぐらいだろ。ここにあるのは」
・・・そして、軽く人の身長を超えるほどの束で、地面が隠れるぐらいないだろう。
「・・・風紀室と風紀委員長室にもまだあるんだぞ!これでも!!」
「うっわぁ・・」
・・・・風紀室と風紀委員長室が、書類まみれになることもないし、監視役として風紀委員長が居る事もないだろう。
3日目
~理事長室~
「うぅ~、書類が減らないよ~。青の馬鹿~」
そう言いながらも、書類の束が三十位減っているのだ。・・・風紀委員により束が増えているが。
「私に馬鹿と言われても・・・。紫苑様、Planetのケーキを食べます?」
「食べる!」
「では、後四十位今日中に終わらせましょうね」
「はぁ~い」
こういう所で付き合いの長さが出る。だから、風紀委員が、この世のものではない者を見る目で龍を見ているが、龍にとってはいつもの事だったりする。
「あっ!紫苑様、食べながら処理しないでください!」
「え~?だって~」
そう、いつもの事だ。
4日目
~理事長室~
「姉さん、生きてる?」
「半分、魂が出てそうだけどな」
「あ、雪と月兄?大丈夫だよ、多分」
「「まぁ、それだけ終わらせたら、そうなるわ」」
そう言う二人の視線の先には、山積みになった書類。そう、紫苑は全ての書類を終わらせた。その数、十万枚!・・よくこの数の書類を置いていたものである。
「まぁ、今日は帰って寝たら?」
「あぁ、後少しで日が暮れるしな」
「うん、金曜日だしね」
紫苑が記憶が戻ったのが月曜日だったため、今日は金曜日。週末は、学校が無い為、流石に家に帰る。残りたい者は残っているが。
5日目
~黒峰家~
「あの~ふと思ったんだけど・・・」
「何が?」
「どうしてここに居るのかなって」
「私の助手」
「やっぱり!」
ここは、黒峰家の一室。そこらじゅうに、配線があり電子機器で溢れ返っている部屋。そこに居るのは、二人の美女。片方は、言わずと知れた紫苑。もう片方は、化粧を一切してない黒峰舞彩。この二人は、ネットの世界では有名なのだが、師弟関係である事を知っている者は数えられるほどの人物しかいない。
「今度は、誰から?」
「蝶と行」
「鳳と幸から?それにしても、それって暗号見たいですね」
「だね?遼己が怖いけど」
「お疲れ様です」
今度の依頼は警察から。ある事件の重要な証拠らしいのだが、解析できないためまわって来たそうだ。因みにだが、アゲハチョウを、揚羽蝶、もしくは鳳蝶と書く為、神篠鳳が蝶。源氏物語第二十九巻の巻名が行幸の為、幸矢の幸をとって、行。
6日目
~桜華大学~
「いやぁ、ごめんな」
「いえ、鈴大叔母様からのお願いですから」
「まさかの鈴か!」
「あっ!紫苑、今日はありがとう」
「いやぁ、私は何も」
「そして、俺は無視か」
桜華大学にあるカフェテラスに、白衣を着てやり切った顔をした紫苑の姿があった。珍しく漆黒のスーツを着ており、白衣と相まってとても目立っている。そして、同じテーブルに天才医師の宮森廉太郎と、医学界の天才の宮森良太が座っているせいでもあるだろう。廉太郎がサラッと紫苑に流されていて、良太とともに笑われているのは日常茶飯事のようなものだ。何故、大学かと言うと桜華大学は珍しく大学内の敷地内に病院があるのだ。全国の大学でトップの敷地面積を誇る、桜華大学だからこそできた事である。まぁ、それが出来たのも六之篠宮家だったからこそだが。少なくとも、全国一の広さの病院をいくら付属とはいえ、大学の敷地内につくれないだろう。
「それにしても、今日で良かったな」
「・・今日じゃなかったら、鈴大叔母様が居たけどね」
「まぁ、紫苑がいただけ良かったよ。本当」
「確かに私も、著名人の手術は初めてだったからね」
「「涼しい顔して、TAVIを成功させただろうが!」」
TAVIとは、Transcatheter Aortic Valve Implantation、経カテーテル大動脈弁治療の事。心臓にある弁に障害が起き、本来の役割を果たせなくなった状態『心臓弁膜症』の治療法。何らかの理由で手術ができない人や、体外循環出来ない人(心臓を一度止める必要があるため)が、対象。だが、それを行うには、特殊な技術と設備が必要なため限られた所でしか行えない。と言う事で、名医が集まる最先端の桜華大学病院に白羽の矢が立ったのだ。
因みに白羽の矢は、多くの中から特に選ばれると言う意味ともう一つ。
『人身御供 (ひとみごくう)を求める神が、その望む少女の家の屋根に人知れずしるしの白羽の矢を立てる』という俗説から来ているので、多くの中から犠牲者として選び出される事を言ったりするのだが、今回はそれだったりする。今回の手術した著名人は、女性に対して最低な行為をしてきたので、病院関係者もその被害にあい、関わりたくないと言う人達が多かったのだ。人望が無く金の力だけで生きていたので、誰も助けようと思わなかったらしい。
しかし、『所業は兎も角、助ける命は救う』を家訓にしている宮森家。そのため、かの人物は今生きているのだ。しかし、担当医に女性陣が居ない事から警戒はしているのだろう。少なくとも、もう紫苑には関係の無い事だ。
「まぁ、手術は成功したから帰るね。合併症の疑いが出たら呼んで」
「うん。でも、多分紫苑を呼ばないと思うよ」
「俺と良太だけで解決できるし」
「・・・ごめんね。変な気を遣わせちゃって」
「「いや、紫苑の闇は知っているから」
「・・・ありがとう」
周りが紫苑を過保護にしているから。
7日目
~宮内庁~
「真紅大伯父様!月曜日の朝の5時に緊急連絡をかけるとかいったい何なんですか!」
「紫苑。息をしろ」
「あっ!お兄様、お久しぶり」
「急に落ち着くの止めろよ?」
「真紅大伯父様!何があったの!」
「真紅さんに呼び出してもらったんだ。いやぁな。縁がな、紫にドレスを贈りたいから紫苑に聞いてもらえと・・」
「じゃあ、こんなのが良いです」
「おぉ、それ良いな!」
「でしょ!」
話を聞き終わる前に、紙にドレスのデザインを描いた紫苑。薄萌葱色の、フリルがふんだんに使われたプリンセスラインのドレス。襟元の開きが浅いので胸を余り強調させないネックライン。ベルスリーブになっているので、露出が少なくなっている。お人形のように愛らしい紫に、合うだろう。因みに、黒茶色の紫苑の花の髪飾りが描かれているのは、宮と合わせるため。
「何で音だけで、縁ちゃんと紫ちゃんの違いが分かるんだ!?」
真紅も人の事は言えないのだが、冷静に突っ込める人間は、和暉が来た時点で退出していた。
8日目
~神篠家~
「何かあったの!?」
連絡が来て飛び込んだのは、神篠功の自室。そこには、優雅に椅子に座りながら紅茶を飲む功の姿。
「あぁ、いらっしゃい。これ何語かわかりますか?」
「こ、こ、これって、万葉仮名じゃないですか!しかも、額田王の歌!?って事は、まさか万葉集の原本!?皇族が代々継承してきて何代か前に所在不明になったのに見つかったんですね!」
「これを、全部訳して下さったら、差し上げますよ」
「はい!頑張ります!」
靖に会いたいがために、功に良いように使われた紫苑だった。
9日目
~桜華大学~
「は~い、呼び出し食らった教授ですよ~・・いたっ!」
「何かイラッとした」
「まぁまぁ、克己。落ち着いて」
桜華大学院の物理学の教授室。そこには、博士号を持つ二人の教授と、助教授の姿があった。言わずと知れた紫苑と、白河克己・来夫妻である。
「どう?実験の結果は?」
「どこかの計算が間違っているのか、合わないんですよね」
「えっ?ちょっと、借りるね。・・・あぁ、ここが一桁ずれてる。多分これを直して、計算すると・・・良し、あったよ!」
「ありがとうございます!つまり、これを用いれば結果が出ますね!」
「どんな結果が出たか教えてね」
「・・・二人とも、本当、教授間の会話になったら、口調が入れ替わるよね」
盛り上がる二人を脇目に一人冷静な来であった。
10日目
~警察庁~
警察庁にある、大会議室。そこには、警察関係者が居た。国家公安委員会委員長の神篠貫太。国家公安委員会委員の神篠響。警察庁長官の神篠鳳。警察庁長官補佐の如月幸矢。警察庁次長の赤鳥魁輝。警察庁次長補佐の水原優斗。警察庁長官官房長の紫華原一己。警視総監の黒峰遼己。警視副総監の金山将己。そして、スーツの上に白衣を羽織った、科学警察研究所所長の赤勾雷紅、科学捜査研究所所長の青峰巧人、両科研に所属している川之宮紫苑。この面子で、何か事件が起これば、その被害は計り知れないだろう。
「今回の事件ですが、申し訳ありませんが、まだ判明しておりません」
「捨て駒が、多すぎて中々そこまでたどり着いていません」
「一応ですが、聞きますね。どのぐらい、時間をかけましたか?」
「「七徹です!」」
「今すぐ寝なさい!」
事件の早期解決を目指して、一週間も寝てないのを正直に告白してしまい、響に強制退場を命じられる、巧人と雷紅。
「・・全く。紫苑概要を」
「はい、貫太大伯父様。まず、今回の被害者の方々ですが。その当日に、何をなさっていたか判明していません」
「はぁ?」
「被害者の所持品は?」
「鳳と幸。いくら、私でも記録に残っていないものを解析できませんよ」
「ちょっと待ってください!」
「確か、コンピューターウイルスで破壊されていたんじゃないのか?」
「えぇ、遼己伯父様に魁輝伯父様。復元できましたが、特筆するようなものはなにも」
「そんな馬鹿な!因みにかかった時間は?」
「優斗伯父様、それ聞きます?確か、一分位でしたっけ」
「速いねぇ」
「いつもの事だろ」
「何か、酷いですね!将己伯父様に一己伯父様。まぁ、それは兎も角、付近の防犯カメラの映像から似ている人を探しています。が、如何せん、通行量が多いので、絞り込めません」
「成程。では、情報が集まり次第、また集まる様に。巧人と雷紅に関しては、睡眠をとらせろ」
『了解です!』
11日目
~教室~
「えっ?!紫苑様?!お久しぶりです!」
「「お久しぶりです!!」」
「久しぶり!長い間来てなかったけど、相変わらず可愛いね」
「「「あ、ありがとうございます」」」
本人が自覚しているように、教室に来たのは10日ぶりである。因みに、紫苑の無自覚なタラシの被害者になったのは、1日目のご令嬢の3人。上から順番に、鳴原依織、川奈加香織、識山幸織。依織は、家族ぐるみの付き合い。香織と幸織は、幼少期『川之宮紫苑に媚びろ』と親族に言いくるめられ、その夜会で会った紫苑のファンになる。親族の手前、紫苑の許可を取りながら、媚びる振りをしていたが、親族全員が、何やかんやで皇族に骨抜きにされたため、堂々と紫苑のファンである事を宣言した生粋のお嬢様。
「今度こそ、一日居たいなぁ・・・」
「残念ですが、無理です」
「ねぇ!もうちょっと間を開けようよ!水!」
「私もそうしたいのですが・・・ね」
「うぅ。じゃあね、依織さん、香織さん、幸織さん」
「「「っ!はいっ!」」」
麟と喋りながら悠然と去っていく紫苑。
「うわっ!来るのが遅かったか!」
・・・・今回は運が悪いんだね、光君。
12日
~川之宮・本邸~
「眞奈さ~ん、光紗さ~ん、華菜さ~ん!!・・・って、何を持っているの?」
「「「紫苑様の新しい服です!」」」
Venusの新作の服を持った、眞奈と光紗と華菜。女性らしさを出しながらも、中性的な印象を抱かせるデザインの服が7割。可愛らしい服が2割。男装用の服が1割。
「「「これで、着飾った写真を撮らせてください!」」」
「・・・・う~ん。いつもお世話になっているから良いよ!」
「「「本当ですか!」」」
そして、着せ替え人形化した紫苑である。
13日
~理事長室~
「何やかんやで、休日出勤~」
「大丈夫ですか?」
日曜日なのに理事長室に居て、変なテンションの紫苑と、紫苑を心配する玲美。紫苑の前には、積み上げられたエアメール。アイスランド語・英語・ロシア語・ドイツ語など様々な国の言葉で書かれている。これらは、各国の伝承や、川之宮・水之宮宛ての内容が、書かれている。
「明日までに終わらせたら良いんだよね」
「えぇ」
紫苑は、また泊まり込みになった。
14日目
~食堂~
「それにしても外国には、色んな伝承があるよね」
テーブルの上に積み重なった本を見ながら、呟く紫苑。
「あぁ、眠たいな」
そう言って寝始める。すぐに、従兄姉に起こされると知らずに。明日、何があるか忘れて。
伏線があるので投稿させてもらいました




