*ある日の食堂*
新章開始
川之宮紫苑が、記憶を取り戻して普通の日常が訪れた。と言っても彼女自身は、二週間のうちに、二回しか学校に行っていないのだが。いや、正確に言えば、学校には行っているが、教室にいたのが二回しかないということ。もっと簡単に言えば、理事長である皇族達の代わりに、理事長室にいたということだ。
まぁ、紫苑は学校に通ってなくても、首席をキープできるほどの実力保持者なのだが、周りの嫉妬が面倒くさい。特に、自分が一番と考えている常識知らずが。
紫苑の本音は、兎も角。川之宮と水之宮、もっと簡単に言えば、皇族に対する考え方がなっていないものが多い。いくら、常識があっても、周りに毒されることがあるのだ。だからこそ、『皇族だけは(特に御三家は)敵に回すな』という格言があっても忘れるものが多い『自分は、とてつもなく偉いんだ』と思い込んで。
お日様の光が、窓から差し込み、ポカポカした朝の食堂。寮生と、学校に泊まっていた、生徒や教論が朝ごはんを食べに来る。その食堂のテーブルは、無駄に長いのだが、そのテーブルを一人で占領する生徒が居た。
テーブルに突っ伏しているので、顔に漆黒の髪が流れ、腰まである、漆黒の髪が朝日に照らされ光り輝く。椅子に座っていても、判りやすいプロポーションの身体。その少女の前に積み上げられた、世界各国の本。
ここまで来ればお分かりだと思うが、彼女は、川之宮紫苑。本人にとっては、母親が一番綺麗なのだが、周りの人間にとって見れば、紫苑も負けず劣らずなのだ。それを未だに理解できないのは、本人だけ。だからこそ、本人が知らぬ間にファンクラブが作られている。最近では、眠り姫とも言われている。紫苑は知らない事だが、紫苑の二重人格のような性格を知っている人は多い。しかし、猫を被っている為、近づく事が出来ないのだ。そのため、鬼渇校長の『川之宮紫苑が満点取った』の発言で向けられた視線は、大体が尊敬だったりする。だからこそ、紫苑に話をしようとしても本人の考えがひん曲がっている為、悪循環に陥っているが尊敬しているものは多い!だからこそ、紫苑に近づくことなく遠巻きにしているのだが、そんな紫苑に近づく、人影が四人。
白髪に紅梅色の目の青年。その横に寄り添う、緋色の髪と目をした少女。濃紺色の髪と目をした青年。そして、彼が腕を絡めている、瑠璃色の髪と目を少女。上から、風紀委員長、園芸委員長、図書委員長、美化委員長。紫苑の従兄姉達の内の四人である。因みにだが、白河虎と、赤勾朱。黒峰勝亀と、青峰龍。この場にいない、金山黄木と、赤鳥玲美。紫華原砕亀と、水原麟。この、八人が、恋人同士という噂(と書いて真実)は、各委員会の委員と、各学年のS組、それなりに、皇族と親交がある人達しか信じていない。その為、二重の意味で、驚愕している。あの、川之宮紫苑に近づいた事。そして、恋人のように歩いている事。まぁ、彼らは、その視線を気にしていないのだが。
四人は、その視線をものともせず、虎と勝亀は、紫苑の前に。朱と龍は、紫苑の横に座る。
「紫苑は、どうすんだ?」
肘をつきながら、怠そうに言う虎。・・・おい!一応、主のはずだぞ!
「ほっとけばいいんじゃないんですか」
淡々と返す、勝亀。・・・だから、主のはず!
「ハァ。馬鹿なことを言っていないで、起こしますよ」
物凄く、真面目な発言をしながら、何処からか惑星の絵が描かれた箱を取り出す朱。
「そうですね。起こしに来たのに、起こさないのはどうかと。・・・彼等も結構荒れてますし」
荒れていた彼等の心配をして、何処からかケータイマグを取り出す龍。
「・・・・planetの新作ケーキ!」「朝に作っていた、コーヒー豆が溶けきれずに浮いている、無駄に苦いコーヒー!」
綺麗なリアクションをする虎と勝亀。
「「こうすれば、起きますよ」」
二人で、綺麗にハモる朱と龍。そうこう言っている内に、紫苑の前には、planetの新作のフルーツケーキと、紫苑の髪並みの黒さの珈琲が置いてあった。微かに、虎と勝亀が引いているが気にしたら終わりだ。
「んっ」
少し、艶のある声。その声は、驚きの余り静まり帰っていた食堂に響いていた。誰もが、顔を赤くしたのは、仕方あるまい。因みにだが、一番近くにいた四人の顔色は変わっていない。
「planetのケーキとコーヒー・・」
その声とともに、体を起こす。
眠り姫が目を覚ました。




