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ZERO@POINT(ゼロ・ポイント)  作者: 黒助(くろすけ)
4/7

4、試練 (後編)

 回転数ゲージが8000超えた瞬間クラッチを絶妙に繋ぐ、路面を軽く滑って後輪は車を一気に前へ押し出した。

 いくら情報が少ないとは言え、口伝えでコースの概要は聞いていた。


 暫くは見通しの良い状態が続いてから急カーブが二つ、その後変則的な緩めのカーブをクリアすると開けたカーブ道に出る。

 その先更に折り返すようなU字コーナーを曲がると直ぐ3つカーブがあって、抜けると林が開けて来た後、車が結構停められそうな路肩のある広い所がある。

 もうそこから先は片道幅になり、その先五つカーブを抜けると小屋が立っているという、小屋より先は間違いなく往路1キロを超えているので、説明は無かった。


 界矢は予め距離計をリセットしておいてその数字を目安にしようと考えて、折り返しが近づくまで運転に集中した。

 聞いていた通りコースの伊戸代の説明は正確だったものの、それでも自分がイメージしていたものよりも相当トリッキーなコースだった、少なくとも加速をしにくいコースなのである。

 スロットル開けて加速しようとしても3速になっていて伸びず、落とそうとすると直ぐコーナーが迫り、1速まで落とさないとトルクが維持できない、それを繰り返すといった印象だ。距離計見てそろそろだと前を見ると折り返しが目前だった。

間伐入れずにターンポイントが迫る、予測すると広い所の奥かその先の五つカーブの第一コーナーの辺りと判って焦る。

 広い所奥なら規定より距離はショートしそうだがターンはし易い、コーナーに進入してからだと距離は正確になるが道幅狭くターンは難儀になる。

界矢は瞬時に後者を選んで広い所での加速を利用して一速まで一気にシフトダウン、抜けた直後反動を利用してスピンターンして第一コーナー手前で折り返し、一速で全開でトルク維持して広い所に戻る。直線で速度を稼いでカーブに入る前に、目線を距離計に落とすと想定通り゛1.09゛を指している、界矢はガッツポーズをし往路を疾走する。

 車は元来た道へ消えて行った。


 あっという間の二巡だった、ゴールには車から降りた界矢と伊戸代の姿があった、しんとした中で止めたハチロクのエンジンが冷えようとする、キンキンという微かな金属音だけが聞こえる。


「結構凄いじゃないか」

「ベストはつくしました」

「結果は四番目だ」

「ええ~!」

「ただ、初走行という条件付なら同ルールの順位は二番だ」

「上がるんですか?」

「このコースは私含めて四人しか知らないけど、その私達がルールを決めてから初走行タイムとレコードタイムをキチンと記録してある、それとの比較だよ」

「四人って、もしかして」

「その一人は君の父大輔さんだ、しかもここのレコードキーパーでもある」

「二番目という事は、親父の次」

「不思議な縁だな、残念ながら一回目は二番だが、君なら次は大輔さんの打ち立てたレコードを塗り替えるチャンスがある」

「おじさんは何位ですか?」

「私は残念初回タイムでは既に君に負けているし元々三人の中ではビリだった」

「三人?四人じゃ無いんですか」

「一人はメカニック専門だ」

「じゃもう一人は小暮さんですか?」

少し返事をせずに思案した後で、

「いや、彼は走りはしないメンテ専門だった」

「じゃあ、俺が知らない人?」

「そうなるかな、知りたいかね?」

「はい」

「やはりそうなるか、ここへ呼んだ理由と関係ある、帰りながら話そう」

 そう言って伊戸代は運転席に乗り込み界矢も助手席に乗り、車は町に戻って行った。

 伊戸代がわざわざあのコースを教えたのは、過去の記録と界矢の実力を比較させる目的と、三人目の人物との繋がりが運命的だったからだ。


 話はは25年以上遡る、その時期、峠ブームに乗って公道バトルという名の一大ムーブメントが日本全国、特にこのK市を含む関東中心にあった。

 当時も交通法規で規制はあったもののそれを凌駕する程の勢いがあった時期で、各々自慢の峠道を持った地方のドラテク自慢がその腕を競ったのである。マンガのイニシャルDはその当時の事をテーマにしたもので、今も連載が続いているがブームが去った今でもそのバイブル的位置付けとなっている。


「日が昇ってきたな」

 伊戸代にそう言われ初めて気付いた、外はかなり明るくなっている。車は民家の見える国道まで出て、太陽に向かって走っていた。

 伊戸代はバイザーを下ろしてから話を続ける。


 さてこの町は、避暑地として東京圏からの地のりが良いことで栄えたが、峠も多く地方としては実力派のカーショップも進出して一時代を築いた土地柄だった。

界矢の父、大輔達もこの地で腕を磨き仕事の基礎も作った。

 鳴瀬大輔と小暮は、ある出来事があった後この地を離れる事にはなったが、残った伊戸代とはそれからもモータースポーツを通して繋がりがあった。

「大輔さんが亡くなってからは、あまり連絡を取らなくなったがね」

「俺もその頃からクローズド競技から引いていました」

「でも車には興味を持ちつづけた」

「マニアな同級生の影響もあったから」

「そうか、所詮蛙の子は蛙だな」

「そうなんですかね」

暫く会話が途切れる間に車は街の風景の中にいた、長い信号待ちになって伊戸代が口を開く、

「その、もう一人なんだが」

いきなり核心に入る、緊張する界矢。

「岸本直哉というんだ」

「初耳の名前です」

「奴は、地元では有名な岸本工業の跡継ぎになる男で、私達の資金提供者でもあった」

「お金かかりますもんね」

「うん幸運だった。私達は結構本気だったので、遠征や車のチューニングに結構使ったからな、まバブルのお陰でもある」

「そんな凄いんですか」

「ただ他のグループとは違って、一番はガソリン代が半端じゃなかった、兎に角時間があったら走っていたからな」

「羨ましいな」

「あの頃の空気は凄かった。で岸本だが当時のNo.2だったから、大輔さんには勝ちたがっていた、大輔さんが亡くなった時は岸本が一番悔しがっていたよ」

「じゃ、スーパーNって岸本さん?」

「彼は会社の社長だそんな暇はないが、子供が何人か居るらしいからそれがスーパーNじゃ無いかと思うんだ」

 岸本の子供の詳細を話す時間は無まま車は自宅についてしまい、止めになった。


 店に入ると咲が慌てた様子で二人に言った。

「さっきネットの書き込みで、スーパーNがT県でレコードを塗り替えたって」

「土曜夜に現れたんだ、俺戻るよ」

「また来る、よね?」

「来るよ」

「じゃ、それまでお守り預けておく」

「サンキュ、何時か必ず返すよ」

「気を付けて」

 界矢はおじさんに挨拶をして、そのままハチロクに乗り込んでトンボ返りで地元へ帰った。


つづく

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