解決屋
「あなたがわからないこと教えます!略して…解決屋!」
どどーん、という太鼓の音が聞こえた。もちろん幻聴だが。
とうとう俺の耳もおかしくなったのかもしれない。
社長の意味もない馬鹿でかいこの決まり文句のせいだ。
いや、でも、下の階の住人さんに「うるさいのよ、毎回毎回!あの台詞言わないとダメなの!?」と苦情を言われ続けているせいでもあるかもしれない。あのおばさんの声も人のことを言えたもんじゃないが、苦情の内容が最もすぎて反論もできない。
改めて社長の言い切った感満載のドヤ顔を眺める。
溜息。
こんな、学生服を見事に着こなし、高いツインテールの長い髪を揺らす身長145cmの高校生が俺の上司で社長だなんて世の中終わりだ。世界の破滅だ。
地球が爆発するのを想像した。間違えた、地球の破滅だった。
溜息。
ご近所さんに何度も頭を下げる俺の身にもなれ。
溜息。
「あのう、どこをどう略すと解決屋に…?」
おっ。俺が出会った客の中で3人目のこの反応。
新鮮だ。
8割の客は社長の迫力と声のでかさと意味不明な第一声に唖然と口をひらく。
残りの2割くらいは高校生という点に対して疑問を抱く。
これはノーベル平和賞に値する…!
俺の地球は爆発せずに済みそうだ。
「ローマ字表記にしたときの10番目のK、1番目のA、16 番目のI、17番目のK、25番目のE、4番目のT、22番目のS、29番目のU、30番目のY、3番目のAをとって解決屋です」
くそう、今まではその解決屋の略し方について言及されると何も言えなくなってたくせに…、いつあんなこじつけ考えたんだ!?完全にやられた…!!
日本沈没だ。
社長がドヤ顔で悔しがる俺を見ながら口をパクパクさせてる?
なにか言っているんだろうが…なになに「あ」、「い」、「さ」、「い」、「か」、「ですから」?ばかか。
…いや、違う。わかったぞ!
「か・い・け・つ・や・で・す・か・ら」
なるほどな。すっきりすっきり。
意外とうまいな、社長。
な訳あるか。
ばかか。
「社長さん、30番目にYはありませんよ」
手元にあったメモ帳にローマ字を並べた。
ほんとうだ、Yはどこにもない。
ほら見たことかやっぱり、ばかだ。
にやけた。これで富士山くらいは噴火でなんとか浮き上がってくるだろう。
救われた…!客、おぬしやるな。
「ん?やだなーよく見てくださいよ、最初の台詞!最後に付いてるでしょ「!」が」
「はい?」
「だからー、「!」ですよ!ヤッターマーク!」
ヤッターマーク?
ああ、よく見れば…!
意外とやるな、社長。
な訳あるか。
ばかか。
「社長、それはびっくりマークでは?」
「エクスクラメーションマークだよ?」
……ばかじゃなかった!社長馬鹿じゃなかった!
って、違うそうじゃない。
無邪気によろこんで涙してる場合じゃない。
「はい、エクスクラメーションマークです。ヤッターマークではありませんが…っく…くっく」
そうだ、それだ。
って客。俺を見て笑こらえるな。
それはなんだ、この社長おもしろいですねってこっち向いてのか、
それとも、あなたなに泣いてるんですかって嘲笑ってんのか、
むしろ、地球が爆破寸前なのに笑うしかないのか、
あるいは、俺の顔が改めて見ると残念な顔ですねって笑ってるのか
いったいどれに対して笑ってるんだ!
声に出したつもりはないのだけど返事が返ってきた。
また、口パクか。
なになに…「い」「ち」「ば」「ん」「さ」「い」「ご」「で」「す」?
1番最後は…ああ、俺の顔が残念っことか。
…認めよう。
それよりなんで俺の心をっ…!?
客がまた俺を見て口パクしてきた。
はいはい…「こ」「こ」「ろ」「よ」「め」「ま」「す」「か」「ら」?
「心読めますから」…いや、違うよな。
「ろ」「よ」が「あ」と「の」の間違いだったんだ。
なんの宣言だ、いったい。
「「っく…くく…っ」」
今度は社長も一緒に笑をこらえ始めた。
エスパーか。
わかった、地球のおわりは滅亡じゃなくて、宇宙人に乗っ取られるんだ。
遠い目を向けられた。
よっつの白い目が俺を睨む。
「お茶、入れてきます」
「それで、解決屋への依頼内容は?」
「はい、お恥ずかしいのですが、その、好きな人が、僕のことをどう思ってくているのかわからなくて…」
「そうですよね、そうですよね!人の気持ちってなかなかわからないものですよね。いやー、この解決屋でもなかなか難しい依頼ですねぇ」
「やっぱり、無理でしょうか?」
「難しいです…が、持てる力を全力で発揮して私ども解決屋がその方の気持ちを探ってみます…!!任せてください」
「本当ですか!?ありがとうございます、ありがとうございます」
おい、エスパーども。
ありがとうございました!