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少年の秘密


「僕は捨てられたんだよ…」

「…捨て子…ってことか」

「うん…」

僕が捨てられたのは五歳の誕生日の日だった。おかあさんに連れられて駅にいたんだ。おとうさんの所に行くから電車に乗ろうっていう約束だった。僕は生まれてから一度もお父さんに会ったことはないんだ。後で知ったことだけど、僕は愛人の息子なんだって。だからお父さんと一緒に暮らすことはできなかった。

駅に着いて、電車を待ってる時、おかあさんに言われた。コーヒー買ってくるからここで待っていなさいって。その時のお母さんの顔はいつもと何も変わりはなかった。だから僕はおかあさんの言葉に素直に従うことができたんだと思うよ。

でも、いくら待ってもおかあさんは戻ってこなかった。乗るはずだった電車も通り過ぎて、終電が来てもおかあさんは戻ってこなかった。真夜中になって、駅には誰もいなくなった。その静けさが僕にはとても怖かった。怖くて、寂しくて、ついに僕が泣き出してしまった時、駅員さんが僕に話しかけてきたんだ。おうちはどこ?お母さんはいないの?どうしてこんなとこにいるの?ってね。僕がいくつか質問に答えたら、駅員さんが電話で警察の人を呼んだ。そして僕は警察に保護された。警察署で何日か過ごしたけど、おかあさんはいつまで経っても迎えに来てくれなかった。

保護されてから一週間が過ぎた時、僕は児童相談所に連れて行かれた。それから三年間そこで暮らした。児童相談所にいるときに、僕はお母さんに捨てられたということを理解した。おかあさんが僕を捨てた。最初は全然理解できなかったけど、何ヶ月か暮らすうちに、僕は愛人の息子だから捨てられたんだって納得した。悲しくなかったわけじゃないけど、なぜか涙は出てこなかった。

僕が八歳になったとき、ある人が僕の元を訪ねてきた。そしてその人は僕に言った。

「俺は君の兄弟なんだよ、霧くん。君のお母さんと俺のお母さんは違う人だけど、お父さんは同じ人なんだ。異母兄弟っていうんだけど…わかる?」

「異母兄弟?本当に?」

「うん。本当だよ。…俺はさ、君を引き取りたいと思っているんだけど…どうかな?別に今すぐ決めてもらわなくてもいいんだよ。ゆっくり考えて決めてくれればいい。また今度来るよ。その時までに決めておいてくれればいいよ」

その人はたった数分だけ僕と話して、すぐ帰っていった。僕があの人と異母兄弟というのはあまり信じられなかったけど、僕が愛人の子供なら可能性は高い。もしあの人について行けばおとうさんにも会えるかもしれない。あの人は優しかったし、なにより僕のお兄さんなのだ。一緒に暮らすことはできるかもしれない。そう思うと決断は早かった。最初にあの人が来てから三日後…つまり昨日、なんだけど、またあの人が来た。

「お兄さん、僕、お兄さんと一緒に暮らすよ。おとうさんにも会えるかもしれないし」

僕がそう言うと、あの人は気まずそうな顔をした。

「…ごめんね霧くん。言ってなかったよね…。先に言っておくべきだったかも。あのね、お父さんはもう亡くなってしまったんだ。俺らのお母さんも亡くなっている。今俺は弟と二人暮らしなんだ」

「おとうさん…死んじゃった…の?」

「そうなんだ。ごめんね言ってなくて。もしも気が変わったんなら言ってくれればいい。君が俺と暮らしたくないのならそれでいい。強制じゃないからね」

「ううん、いい。おとうさんに会えないのはちょっと寂しいけど…お兄さん優しそうだし…一緒に暮らすよ」

お父さんが死んでいたのはショックだったけど、おとうさんに会ったことはなかったし、もういいやと思った。

「本当?本当にそれで構わない?」

「うん、いいよ。僕もここにいるの嫌だからね。早く出て行きたかったから」

僕はお母さんに捨てられたということを実感させるこの児童相談所が嫌いだった。

「じゃあ、これから俺の家においでよ。今すぐ一緒に暮らせるわけじゃないけど、俺の弟と会っておかなければいけないだろう?」

「うん、行くっ!」

「もうここの人には話つけてあるから今すぐにでも行けるよ。準備しておいで」

「うん、わかった。…あ、お兄さん、名前なんていうの?」

「あ、そうだそうだ。俺は吉田春樹。君は今度から吉田霧になるんだよ!」



「はぁ!?」

俺の頭は疑問符でいっぱいだった。

「今まで黙っててごめんね、ハル」

「えっ、ちょっと待て、どういうことだ?」

「僕はハルの弟になるんだよ」

「は?お前が俺の弟?まじで意味わかんないんだけど」

「そりゃそうだよ。ハルのおにいちゃん…ハルキもハルにはまだ言ってないって言ってたもん」

「…ちょっと待て、整理させろ」

こいつが捨て子だということは薄々気づいていた。それはいい。問題は後半の話だ。こいつはつい最近まで児相にいて、この間兄貴に異母兄弟だって言われて、昨日こいつが俺たちと一緒に暮らすということを決めて、俺の家に来るはずだった…?ということは兄貴と会ったことがあるということだ。

「つまり、お前は兄貴と会ったことあったんだな?」

「うん。ハルキと一番最初に会ったのは一週間前。それで僕がハルキとハルと兄弟だっていうことを聞かされた。で、昨日またハルキが来て、一緒に春たちの家に行こうとしてた」

「…はぁ?ホント意味わかんない…」

「えーと、全て纏めると…僕とハルキとハルは家族になるっていうことなんだけど…」

「てゆーか!兄貴はどうしたんだよ!一緒にいたんだろ?」

一番重要なことに気づき俺は急き込んで尋ねた。だがキリはなぜか視線を泳がせている。

「えーと…それは…僕からはなんとも…。あっハル!見て!!」

「あ?」

キリが指さした先を見ると、目指していた小屋があるのが見えた。よく目を凝らしてみると、小屋の前に人影がある。…まさか。

「ハルキーっ!」

キリが嬉しそうに駆け出すのと、俺が大きく溜息をついたのはほぼ同時だった。

次で完結いたします!!

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