山の中
「はー…やっと着いた…」
「寒いよハル…」
始発に乗って目的の駅に到着した俺たちは、兄貴が囚われているかもしれない山の登山道入口にいた。とりあえずこの山の地図を探す。
「あ、あった。これか」
「どこにいるの、ハルのおにいちゃん」
身長が低いキリが必死に背伸びして地図を覗き込もうとしてるので、俺はキリを抱きかかえ、見やすいようにしてやった。
「あ、ありがとハル」
「…ま、いるとしたらこの小屋か。菜の花畑と川が近くにある小屋はこれぐらいしかねーか。…遠いなー…」
「ここにいるの?ハルのおにいちゃん。ね、行こっ!早く行こ!」
「はいはい…」
キリを地面に降ろして歩き出す。兄貴が居そうな小屋は山の中腹あたり。結構長い道のりではあるがこの際そんなことは言っていられない。電車を乗り過ごしてしまったせいで、兄貴が誘拐されてから結構時間が経ってしまった。この寒さの中、何も食わずにいるのならとても危険だ。早く兄貴を探し出さなければいけない。
「…お前、腹減ってねーの」
「え?別にダイジョウブだよ」
そういえば俺もキリも昨日の夜から何も食べていない。コートのポケットの中を漁るとクッキーが入っていた。なんでこんなもん入ってるんだよ、兄貴…。
「でも何も食ってねーだろ。これ食っとけ」
「え、でも一個しかないじゃん。ハルは?ハルもお腹すいてるでしょ」
「いいよ俺は…」
「だ、ダメだよ。ハル食べていいよ!」
「いいから。俺腹減ってないから」
腹が減ってないというのはもちろん嘘だ。だがここで俺がこれを食べてしまうわけには行かない。
「え、じゃあ半分こしようよ」
「いいよ、全部食えって」
「ダメっ!ハルも食べて!」
「…わーったよ…」
キリは嬉しそうにクッキーを半分に割ると、俺に寄越してきた。齧ると口の中で甘い香りが広がり、溶けてゆく。クッキー半分だけで満腹になるはずはないが、何も食べないよりはマシだろう。
クッキーを食べ終えて暫くした時、キリが徐に口を開いた。
「ね、ハル。僕さ、ハルに昔のこと話してもらったから…僕もハルに昔のこと話してあげるよ…」
辛うじて聞き取れる程度の声でそう呟くと、真っ直ぐに俺を見上げた。
「は?別にいいよそんなの。話したくないなら無理に話そうとしなくても」
「ううん…話したくないわけじゃない。ハルになら…話せるような気がする。今まで誰にも話すことはできなかったけど、ハルになら…話せる」
「…」
「聞いてくれる…?」
「あぁ…」
キリは静かに語り始めた。
短すぎですね…
あと二話で終わります!