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電車の中

「ハル!こっちこっち!」

キリが大声で俺を呼ぶ。もう深夜なのにたいした体力だ。

「うるせーよ。静かにしろ」

「はーい」

俺とキリは大学から一番近い駅にいた。蓮香の情報を頼りに、とりあえず兄貴がいそうなところに目星をつけた。ここから四時間以内に車で行ける山。ありがたいことにそれは一つしか該当しなかった。

「本当にいるのかな、ハルのおにいちゃん」

「知るか」

「なにそれ」

「うっせー。俺だって探偵じゃねえんだよ」

「まーね。ハルはハルだもんねー」

キリの生意気な態度に段々と腹が立ってくる。

「あ、あった。ここだよハル」

俺とキリは目的の山へ行くために電車を使うことにした。電車に乗ることにキリは張り切っている。電車が好きなのだろうか。

「お前さぁ、電車とか好きなの?」

「なんで?」

「やけに楽しそうにしてるから」

「ううん。別に好きじゃないよ」

「じゃ、なんでそんな楽しそうなんだよ」

「だって僕、電車乗るの初めてだもん」

そういえばこいつ、親いないって言ってたっけ。

「お前、親いないんだろ?普段どうしてるんだ」

「…」

「おい」

「…別にハルにはカンケーないじゃん。いいでしょ、どうでも」

「は?」

「だーかーらー!ハルにはカンケーないんだからいいでしょ。僕がフダンどうしてるかなんて」

「なんだそれ」

俺は半ば呆れながら電車に乗り込む。終電なだけあって車内は割と空いていた。

「…別に…ハルには…カンケーないでしょ…」

そう呟くキリの声は僅かに震えていた。…悪いことを聞いてしまった気がする。俺がこんなガキに気を遣うのはおかしな話だが、不思議と罪悪感が残る。俺は慌てて話を逸らした。

「あ、これ終電だから寝るなよ。寝過ごして駅通り過ぎたら明日の始発までないからな」

「…うん、わかった」

手近なボックス席を選んで腰掛ける。キリを窓側に座らせ、その姿を隠すように並んで座る。しばらく黙っていると電車が動き出した。目的の駅まで少なくとも二時間はかかる。電車が動き出してもキリは黙ったままだった。

「…ハルは…?」

俺はしばらくぼんやりしていたが、キリの小さな声に我に返る。

「何か言ったか」

「ハルは…なんで…」

「あ?」

「なんでヒキコモリしてるの?」

「…どうでもいいだろ、そんなん」

「…ちゃんと言ってよ!」

「…学校行くのが面倒だから」

少し考えて答えた俺の言葉に、キリは衝撃を受けたような顔になった。

「ウソ!ヒキコモリしてるひとにはなにか理由があるっておかーさんが言ってた…」

「なんでお前がそんな必死になってんの?」

「べ、別にいーでしょ!僕が気にしてることにモンク言わないの!!」

…なんで俺はこんなガキに怒られなきゃならんのだ。

「うっさい。どうでもいいだろ。俺が学校行かない理由なんて…」

「どーでもよくない!悩みを持っている人には優しくしてあげなさいっておかーさんに言われたの!だから僕はハルの悩みを聞いてあげるの!」

「…わかったよ、言えばいいんだろ。俺が学校行かない理由を…」

なぜ俺はこんなことをこんなガキに語らないといけないんだと憤りつつ、静かに自分の過去を語り始めた。

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