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凍えた少年

家を出て小さく「いってきます」と呟き、歩き出す。丁度家の門を出ようとしたとき、何かにつまづいて危うく転びそうになる。

「あぁ?」

足元を見やると、小学生低学年くらいの小さな男の子が寒さに震えていた。まあ、真冬の夜にこんなところにいたら寒いだろう。

「…なにしてんの」

しゃがみこみ少年に声をかける。すると少年は歯をガタガタ震わせながら言った。

「お…おにいちゃん、さっきの…」

「は?」

「さ、ささささっきのおにいちゃんと…ちがう…」

「何言ってんのお前」

「さっき…だいがくのちかくで会ったおにいちゃんと、ちがうひとだよね?」

よく見ると少年は肩まで届く長めの銀髪で、瞳が紅く輝いていた。そのとき思い出した。兄貴が電話で言っていた子の事だろうか。

「お前、俺の兄貴に会ったのか?」

少年は驚いたように肩をビクッと震わせると、小さく、うん、と答えた。

「おにいちゃん、さっきのおにいちゃんと兄弟?」

「あー、まあ兄弟というか、双子だよ。一卵性双生児って知ってるか?」

「あ、うん知ってる。おにいちゃん、さっきのおにいちゃんとそっくりだもんね」

少年は初めて笑った。ていうかなんでこいつはこの歳で一卵性双生児なんて知ってるんだ。

「で、なにしてたの、お前」

「あ、そうそう。おにいちゃんさ、おにいちゃんのおにいちゃんさがしに行くんでしょ?僕も連れてってよ!」

「ややこしい言い方すんな。俺は春人。…で、なんでお前が俺について行くわけ?」

「ハル兄ちゃん、でいい?」

「ああ」

「僕ね、だいがくの近くでハル兄ちゃんのおにいちゃんに助けてもらったんだよ。転びそうになったとこを助けてもらった」

「なんでお前が、兄貴が誘拐されたこと知ってんだよ」

「僕、ハル兄ちゃんのおにいちゃんが誘拐されるとこ見てたもん」

やっぱりこいつが目撃者か…。しかしなんでまたこんなガキがこんな時間にフラフラ外に出歩いてるんだ。警察仕事しろよ。

「お前さぁ、親とかどうしたんだよ。こんな時間にこんなとこにいたらおまわりさんに捕まるぞ」

「…別にいいよ。おかあさんもおとうさんもいないし」

「ふーん…」

どうやらこいつは俺たち兄弟と同じ境遇にあるらしい。…まあそれはさて置き。

「で、それがなんで俺について行く理由になるわけ?」

「ぼ、僕、ハル兄ちゃんのおにいちゃんに助けてもらったお礼言いそびれちゃったし、僕だってハル兄ちゃんのおにいちゃん助けに行きたいもん」

「あっそ。兄貴には俺からお礼言っといてやるから、お前は帰れ」

「なんで!やだよ、僕、ハル兄ちゃんについて行く!」

「俺だってこんなガキを深夜に連れ回すほど馬鹿じゃねえんだよ。俺が補導されるだろ」

「ハル兄ちゃんだってまだ子供じゃん」

今すぐにでもこの馬鹿なガキンチョを殴りたい衝動に駆られたが、ここは街中。それこそ補導されかねない。

「うっせ。もう好きにしろ」

俺はさっさと立ち上がり、歩き出す。あのガキがついてこれないように早足で歩いた。しばらくして、流石にもういないだろうと思って後ろを振り向くと、俺のすぐ後ろにアイツはいた。

「待ってよハル兄ちゃん」

もうコイツは何があっても俺についていく気だ。…諦めよう。連れて行くしかない。再びしゃがみこむと少年にゆっくりと言い聞かせるように言った。

「いいか、なにがあっても俺の傍を離れるなよ?もし迷子にでもなっても俺は探しに行かないからな」

「うんわかった!ありがとうハル兄ちゃん」

「…ていうかお前、名前は?」

「あれ、まだ言ってなかったっけ。僕はキリだよ。よろしくねハル!」

いつの間にか呼び捨てになっている。まあいいか。

「じゃ、行くぞ、キリ」

キリはにこやかに笑うと、うん!と返事した。俺は立ち上がり、今度はキリがついてこられるようにゆっくり歩いた。

キリがコートの裾を小さく握った。それを見た春人はキリに向かって手を出し、ほらよ、と言った。するとキリはとびきりの笑顔で春人の手を握り返してきた。幼い小さな手は、この寒さの中でもほのかに暖かかった。





「ねえハル、どこ行くの?」

「とりあえず兄貴の大学行ってみる」

キリが上目遣いに尋ねる。

「ハル、だいがくってあっちじゃないの?」

キリの言葉に春人はドキリとする。慌てて辺りを見渡すが、この風景に見覚えはない。

「…俺、兄貴の大学知らないんだけど…」

二年前から一度も外へ出ていない。あたりには見覚えのない建物がいくつか建っていた。

「えっどうして」

「…二年前から、外に出たことねぇんだよ。引きこもってたんだよ」

「ふーん、ばかだねハル」

春人はキリの頭を軽く叩く。

「うっせ。…じゃあお前が案内しろよ」

「わかった!」

キリは春人の手を引っ張ると駆け出した。



「うー、春人まだかなー…。寒い…」

真冬に山中の小屋に閉じこもっているのはさすがにキツイ。持っていたポケットカイロはすっかり冷めてしまった。

「本当に春人来てくれるのかな…」

春樹は小屋の隅に縮こまり、独りごちた。

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