ハッピーウエディング
----うん、やっぱりウエディングドレスはこれに決めた。
私は胸に大きな花をあしらってある、アシンメトリーのレースに包まれた1着を身にまとい決意した。隆志に写メ送ろっと。
きっと彼は「どれも一緒じゃん…」て言うんだろうけど…やっぱり女として生まれたからには一生に一度しか着ないであろう(そうだと願いたい)ウエディングドレスは時間をかけてじっくりと自分に一番似合うものを選びたい。そして人生のパートナーである彼にも俺の嫁は綺麗だ…と思ってもらいたいじゃない。
試着を何日もかけて行ってやっと決まったドレス…あー、式に向けてやんなきゃいけないこといっぱいあるけど、これが決まったのは私の中でかなり大きい。憂鬱だったことも(曲選びや席次表の組み合わせ、誰に何を頼むとか…いろいろ小難しいんだ、これが)一気に吹っ飛んでいく。
隆志は基本的に何もしない。私に丸投げといっていいほど。好きにさせてくれるのはありがたいけど、どっちがいい?って聞いた時にもどっちでもっていう奴の性格には何度も苛立ってしまった。2人の式なのに…って。でも元からそういう人だし、ま、仕方ないんだけど。結婚すら期待してなかったんだもん。これくらいどうってことない。
もともとお互い好きで好きで付き合ったってわけじゃない。なんとなく、まぁ成り行きで付き合ってるうちに、私の方が夢中になってしまった。隆志は常に冷めてるし、自主性ほとんどないわりに頑固だし、喧嘩したらずっと引きずるし(私が謝らない限り)、優しさの欠片も持ち合わせているように思えないし、家事も全くしない。…悪いところなんていっぱいある。たまに自分でもどこに惚れたさ…って嘆くことも。でも、私が凹んでたりすると絶対気づいてくれる。誰も気づかないのに、隆志だけは見落とさない。…なんでわかるんだろうって思うもんな。彼が私から離れていくことがあっても、私からは絶対ない。そういう人。
「あー…ぼちぼちいっか?結婚。」
いつものように2人でご飯食べて、ダラダラとバラエティなんか観ていた…そんな時に世間話をするかのように切り出された結婚。絶対ないと思っていた隆志からのプロポーズ…。彼の前で嬉しくて泣いたのは初めてだった。それからあれよあれよという間に決まった結婚。…まぁ、お互いもう31歳だしね。落ち着いてもいいよね。
「石田様?携帯鳴ってますよ?」
うっかり意識が飛んでいた。気がつくと目の前にはウエディングドレス姿でにやける女の姿が…って鏡に写った私だ…。
「す、すみません。」
「旦那様からの返信じゃないですか?」
「えーと…あ、そうです!!………わっ…珍しい。」
隆志からの返信内容は私の予想とはかけ離れていた。
予想→『いんじゃない?』(どうでも)
実際→『今までので一番いい。はっきり言って前送ってきたがっつり姫ってかんじのはないって思ってた…年的にありえないと。これ似合う。』
…ちゃんと見てくれてたんだ…。結構はっきり否定されてるけど、それでもちゃんと考えてくれていたことにジーンと胸が熱くなる。…うん、結婚式、頑張るぞ!!(主に披露宴ですが)
「これにします!!」
目頭が熱い。こんなことで感激してしまうなんて…式はどうなってしまうんだろう。と思わず苦笑が漏れる。
「ちょっと確認してきますのでお待ちくださいね。」
そう言って係りの人がいなくなった。私はもう一度、一面の鏡に自分の姿を映した。…ふふ、似合う、だって。隆志の口から(口じゃないけど)そんな言葉聞けるなんて思ってもみなかったな。…やだ、ほんとぼやけてきた。もー…どんだけよ自分。化粧が落ちないように指先だけで軽く目を押さえる。
…違う。涙で視界がぼやけてるんじゃない。
何これ…?
頭ははっきりしている。それなのに…目の前に映る自分の姿が歪む。立っている床までもまるで波打っているかのよう。まっすぐに立っていられない。なんなの…これ…??
目の前に広がる歪んだ世界がやがて色を失っていき、完全な闇に包まれた。怖い、怖い、怖い。その中で唯一見える白。私のドレス…?隆志、怖いよ…怖い…助けて………
ひたすら隆志を呼び続けるうちに、だんだんと意識までもが奪われていった。




