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ニワトリだって恋をする  作者: のな
魔法生物編
63/78

63羽 糧となるのは

「少し痛みますよ」


「大丈夫だ」


 馬車の中は暗く、ジェームズとの再会に興奮していたせいで気が付かなかったが、実は執事のリチャードが行儀よく座っていた。

 チキがある程度落ち着いた頃、彼は救急セットを取り出して、淡々とバーデの傷の手当てを始めたのである。


 その間、外の御者席に座って周りを警戒していた義祖父ロランは、ようやく安全と確信して馬車の中に乗り込んできた。

 動きながらの馬車の御者席からの乗り込みに、チキとバーデが驚いたが、彼にしてみればどうということもないことだったようである。


「さて、少し話を聞きたいんだが」


 ロランはそう切り出し、チキは朝からの出来事を話した。


「チキの姿が大きいニワトリになって、騎士団長に町に降りて魅了が解除できるか試して来いって言われたの」


「巡回がてら、俺と新人で街に出たんですが、そこで魅了された町の住人と暗殺者に追いかけられて」


「暗殺者?」


 ロランが疑問を挟む。


「先ほど馬で引こうとした男ですよ。元々は和平の使者としてセオドアから来た男で」


「蠍ですよ」


 リチャードが告げる。


「蠍って?」


 チキが首を傾げると、リチャードはふむと少し考えるようにして答えた。


「砂漠の国ヴィートの抱える暗殺集団とでも言いましょうか。随分昔に危険視されて、飼い主自らが滅ぼした集団です」


「ヴィートの…。恨みこそあれど和平を結ぶなんてありえないか…」


 バーデがそう告げて考え込む。


「少し状況は変化しておりますのでその辺りは後で説明するとしまして、お嬢様、追いかけられた後どうしたのです?」


 チキはどこまで話したかと思い出し、あぁと続けた。


「町の人を魅了して連れて行く人達を見つけて、追いかけたらテレジアそっくりの女の人と、体半分が蛇のような男の人に出会って。2番と15番て名乗ったの」


 チキは町の人の魅了が彼等のせいであること、そして、彼等がテレジアの子供であることを伝えた。

 その情報にはバーデが目を丸くし、指を折って数えている。

 何をしているのかと見ていれば、彼は愕然とした表情で告げた。


「あの蛇女どんだけ歳誤魔化してんだ…」


 馬車の中の空気が微妙になる。


「何歳かわからんが、かなりの年増だろうっ、そんな詐欺みてぇな女に魅了される男って…どんだけ女日照りなんだ!」


 ズバン!


 チキが突っ込むよりも早くクッションがバーデの頭に当たり、クッションとは思えない音を立てた。


 バーデは頭を抱えて悶絶している。ヘタすると肩を貫かれたときよりも痛がっているのではないだろうか。


 クッションで殴ったのはどうやらリチャードのようだが、すでに彼の手元にクッションはなく、彼もただにこにことほほ笑んでいるだけで今のは幻だったろうかとチキは目をこすった。


「チキ様!」


 ふと、笑みを浮かべていたリチャードの表情が驚愕にかわり、そんなリチャードを見るとは思わなかったチキは逆に驚いて目を丸くした。


「な、なに?」


 がしっと目をこすっていた方の腕を掴まれ、彼はその手をチキに見せる。


「これはどういうことです?!」


 チキの右手は手首から上が透けていた。

 ぼんやりと輪郭があるのだが、中身が透けて周りの景色を移すというホラーな手だ。


「あちゃ~。…今日は頑張ったから魔力が足りないの」


「魔力…。ユリウス様の精ですね」


 がたがたがたん!


 御者のジェームズが驚いたのだろう、馬車が大きく揺れてチキは椅子から転げ落ちそうになった。


「ジェームズ、危ないよ~」


「真面目な話と思ってたらびっくりするわ!」


「…あぁ。確かに。…卑猥に聞こえるよな」


 バーデが頭をさすりながら呟き、リチャードが少し考え込んでなるほどと納得したように肯いた。


「失礼しました。ユリウス様の愛が足りていないのですね」


「いや、言い方変えても…」


 ジェームズの意見にバーデは大いに同意するが、ただ頷くだけにしておく。(鞭のような衝撃を生み出すクッションが恐ろしいのだ)

 

 チキはロラン達を見上げる。

 バーデは例の本を読んだと思われるので、魔法生物の糧を知っていてもおかしくはない。だが、ロランとリチャードはどうなのかと二人を見れば、二人は優しく微笑みかけ、ロランはチキの頭を撫でた。


「チキを孫にしたときから魔法生物については調べた。お前達は愛する者の精を糧とする。だから、願いの叶う者(・・・・・・)は長く生き、そうでない者はほんのわずかの生を生きるのだと」


 バーデは首を傾げる。


「それは、心が無くても(・・・・)糧として得ることは可能ではないのですか?」


 それにはロラン、リチャード、そしてチキが首を横に振る。


「魔法生物は聖獣と呼ばれる一角獣のように純粋だ。そこに心がなければ何の糧にもならんのだろう。それに、無理強いもできんのだろう?」


 最後の質問をチキに向けてすれば、チキはにこりと微笑むことでそれに応えた。

 バーデはため息をつき、チキの透明な手をさすってやる。


「だが、そんな純粋な生き物ならテレジアは?」


 第三王子と心通わせ、愛する彼のために今回のような暴挙に走っているのだろうか。

 バーデがそう考える中、リチャードは大きくため息をついた。


「彼女も元々はチキと同じ純粋な魔法生物でしたよ」


 そういうと、彼は今までどこに行っていたかを教えてくれた。


「私は、セオドアで情報収集に当たっておりました」


 タイミングを計ったかのように、馬車は城門を抜けてピタリとその場に止まったのだった。





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