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ニワトリだって恋をする  作者: のな
魔法生物編
56/78

56羽 敵は何人?

「もうお前そのまま生きろ。そしたら俺達の勝利だ」


 道に転がる男達をせっせとどかしながら呟いたバーデの一言に、ごぅっと風の唸る音が聞こえたかと思うと、バーデは長年の勘によりその一撃を(かわ)した。


 ズバン!


 バーデが先程まで足を置いていた所に、チキの(くちばし)が刺さり、なぜかふしゅぅぅぅぅ~と煙を上げている。

 

(はずした・・・)


 チキが顔を上げたその後には、土にぽっかりと嘴の大きさの円形の穴があり、バーデはぞっとして青ざめる。


「待てっ、俺が悪かったっ、今のは無しっ、なっ」


 気絶しているどこかのオヤジを盾にしながらチキを説得する姿はとても栄誉ある騎士団の小隊隊長とは思えない。

 

「…お嬢様、まだ(・・)殺しては駄目ですよ。隊長、終わりましたよ」


「今、まだって言わなかったか!?」


 慌てるバーデを無視し、あとはそのオヤジだけとばかりにギルバートがバーデの抱えるオヤジを引きはがして道の脇に寝そべらす。彼等については町の自警団に話を持って行っているので、自警団が操られていなければちゃんと回収に来てくれるだろう。

 自警団が操られていた時は自力で目覚めてもらって家に帰ってもらうしかない。


「自警団の人達に報告終わりましたー。でも、やっぱり招集に応えない人がいるって言ってましたよ」


 エマと共に自警団へ行ってもらっていたラインヴァルトの妹マリーが手をフリフリ戻ってきた。

 気絶した者達を退かすのは力仕事でラインヴァルトが外せないし、エマは町に不慣れなので、エマがマリーを護衛しつつ道案内してもらったのだ。

 

 二人を迎えたバーデは落ち込んだ雰囲気でその報告を聞いた。

 

「応えない、てことはやっぱり魅了されてんだよな…」


 本当に驚くほど侵食が早い。


流行病(はやりやまい)なら隔離だけどなぁ」


 ログがぽつりと言い、皆がため息を吐く。

 これは流行病でもないから住民を隔離したり非難したりの支持が出せないのだ。

 いっそ病が流行(はや)ったことにして避難させるかという話は上がるには上がったが、期間が不透明すぎて決断できなかったという裏事情もある。


「隊長さん、自警団で聞いた話なんですけど。3日前くらいに自警団の人が貴族街のマダムに呼び出されたそうなんです」


 貴族街の人間は大抵兵を呼ぶ。そこをあえて自警団にしたということは…


「その男はマダムのご贔屓(ひいき)か」


 男とマダムの笑えない関係を想像してにやにや笑うバーデに、渋面を作るエマに対し、マリーは慣れたもので表情を変えることなく頷く。


「そうなんです。でね」


 少しは恥じらうとか、冷たい目で見るとか、エマのような反応が欲しかったが、あっさりかわされてしまい、なんとなく面白くないバーデは少し()ねたような表情を浮かべ、遠巻きに他の男達に呆れられている。


「聞いてます?」


「聞いてる聞いてる、で?」


 マリーは「もうっ」と言いつつも続けた。


「マダムが言うには、おかしな人たちが屋敷の前をうろついていたというんです」


「あぁ、俺もよくそういって呼び出されるな」


 娼館の女達がバーデのような仕事を生業(なりわい)にする男達を呼び出す常套句だ。


「隊長さんはモテてるんじゃなくてきっと金づるとして呼ばれるんですよ」


 マリーの一言にバーデはうっと(うめ)く。

 はたから見ているチキ達は、時々茶々の入る二人の会話に、この二人は相性がいいのか悪いのかと悩むところだ。


「マダムのおうちで飼ってるサルがものすごく脅えて、外を見たら15人ぐらいのマントにフードをかぶった怪しい人達がこそこそ動いてたって」


「サル…」


 ギルバートがそこで(うつむ)いて考え始める。


「その時から、マダムの旦那さんやその貴族街の男の人達がおかしくなり始めたらしくて」


「…不倫か」


 バシン!とバーデの頭に平手攻撃が入った。


「魅了でしょう! 何真面目な顔で言ってるんですか!」


 殴ったのはエマらしい。

 珍しい、とチキが目を丸くする。

 

「サルが脅えたというのならその中に蛇であるテレジアがいた可能性がありますね。サルは蛇を怖がると言いますし」


 続くギルバートの言葉に、バーデを頭をさすりつつ頷いた。


「協力者がいるってことを考えんとな。こちらが掴んでるセオドア関係者の人数はテレジアと使者の一人を除いて12人。旅の護衛に付いて来た奴等だ。だが、奴等には見張りがついていた。もちろんテレジアにもだ。報告ではその時分に抜け出した奴はいなかったはずだが、それでも抜け出したとなると、見張りに付いた奴も正気でない可能性がある…」


 数的にはマダムが見た人数と同じくらいだが、魅了で見張りすらも操っていたとして、全員が城から抜け出すというのはまずないはずだ。


「全員がもしその時城にいたのなら、別の15人が媒体を持って魅了を拡大させているとみていいってことか」


 ラインヴァルトに皆が頷く。

 

「敵は、少なくとも30人はいると思えってことですね」


 ギルバートの出した答えに重苦しい空気が流れた。


「全員魅了されているなら、チキ様の力で…」




「魅了されてるだけの他人にそんな大事なことを任せると思うのか?」




 エマの言葉を遮るようにして降ってきた声に、チキの羽がぶわりと膨らんだ。

 男達は剣を抜き、いつの間にか目の前に現れた黒づくめの男を見て目を見張る。


 全身黒い衣装に身を包んでいるが、その髪も瞳の色もどこにでもいる栗色で、顔立ちもこれと言って特徴がない。

 それこそ服だけが怪しさを醸し出しているだけの男は、足音を立てずにバーデ達の前に忽然と現れたように見えたのだ。


「使者」


 恐らくどこかで魅了され、セオドアの使者として仕立て上げられたであろう男は、肘から指の先の長さくらいの双剣を抜き放ち、地面を蹴った。


「もし、魅了以上の能力があの女にあったら?」


 ガキンっ


 使者の男は、バーデに打ち込み、全員を翻弄するかのようにそう告げると、ニィッと口の端を持ち上げ、笑った。

 



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