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ニワトリだって恋をする  作者: のな
魔法生物編
54/78

54羽 寝る子は育つ

シリアスの箸休め…

 寝る子は育つ。


 チキはここ最近眠ることでむくむくと自分の中に溜まる何かを感じていた。

 きっとこれが月の神様の力なのだろうと思い、毎晩月にお願いするのと共に、できるだけ眠るようにして、力を取り戻し人間になるのだと意気込んでいたのだ。


 確かに寝る子は育った。


 育ったが…なぜ、今、チキは人間でなく、巨大なニワトリになっているのだろうと首を傾げる羽目になった。


「足からトサカまで80センチ、胸から尻まで80センチ…横幅は…」


「ゴゲッ(横は計らなくていいよっ)」


 大きくなった分声が太くなったようで、かつての美声が割れた音を響かせる。

 

 テレジアに先手を取られた翌朝、目が覚めたチキは巨大化した自分に驚き、同室の皆を叩き起こして体を計った結果、ありえない巨大ニワトリと化していた。


「これはこれで可愛いです」


 エマがもふっと抱き着き、チキが「ゴッ」と小さく鳴く。


「鳴き声が汚い…」


 ギルバートがぼそりと呟くと、エマはすかさずチキから離れ、チキは翼を広げてギルバートを追いかけた。

 ある意味見た目がとても怖い追いかけっこに、目が覚めたログもラインヴァルトもぽかんと口を開けて固まっている。


 本来なら目が覚めてすぐ、新たなテレジア対策を練るために団長隊長の指示を仰ぎ、より一層鍛錬しなければいけないという時期なのに、緊張した雰囲気が総崩れである。


「ログ、あれはありなのか?」


 ラインヴァルトがチキとギルバートの追いかけっこを見ながら尋ねると、ログは何度も瞬きし、ベッドの上に胡坐をかいて「ふぅ~む」と唸る。


「チキ、違和感は?」


「ゴッゴッ」


 チキは足を止め、二度鳴くことでいいえと返事した。

 返事がおっさんのようだとは皆追いかけられたくないので口にしない。


「昨日何か食べたとか」


「ゴッゴッ」


「あ、昨日蹴られたのは?」


 エマがはっとして尋ねたのは、昨日テレジアにニワトリ姿のチキが蹴られたことだ。

 結構な威力だったらしく、チキは少しの間気絶したので、影響しているのでは?とログを見れば、ログはぼっと顔を赤くした。


(((わかりやすい)))


 相変わらずのログの反応に男二人と巨大ニワトリは呆れた視線を向ける。


「やっ、そのっ、それも、いえ、それが原因かも!」


 エマの言うことは全てイエスにするつもりかとチキはバサッと翼を広げ、くるっと回転をかけることで回し蹴り、ならぬ回し…翼打ち?を編み出し、ログの頭を叩いた。


「うぐっ」


 それほど力は入れなかったつもりだが、まぁまぁ威力があったらしい。ログは後頭部を抑えて(うずくま)る。


「ゴゲッ(ごめん)」


「チキ様っ、ログの頭がこれ以上(・・・・)おかしくなったら大変ですよっ」


((うわ、ログ哀れ))


 現在ログは頭の痛みよりも、おかしい人扱いをされたことの心の痛みの方がダメージがでかいらしく、起き上がれない。

 …かと思いきや、エマに頭をさすられると、たちまちムクリと起き出すから現金なものだ。


「とりあえずバーデ隊長に報告しよう」


 ラインヴァルトの言葉に皆が頷き、身支度を整えて移動を開始した。


___________________



「ぶははははははははははは!」


 廊下を歩いているときも注目はすごかったが、こうしてちゃんとお披露目すると、やはりというか、予想通り笑いが返ってきた。


 第五小隊隊長バーデの横にはメイドのお仕着せを身に纏ったラインヴァルトの妹マリーがいて、彼女はチキを見るなり、部屋の片隅に置いてあったバーデの騎士団用のマントをとってきてふわりとチキに着せた。


「騎士団のマスコットみたいで可愛いですね!」


「でしょう! 本当はチキちゃん用ニワトリケープを作ってあったんだけど、これなら人間用でいけるわ」


 そういってマリーがポンと叩いた箱には、確かに今チキが纏わされたマントと同じ騎士の紋章の入った小さなケープが入っていた。

 マリーは昨日襲われた後、チキの正体を聞くなりお針子部屋にこもったのだが、ニワトリ用騎士ケープを作っていたらしい。

 どうやら入城しても創作意欲は失われておらず、ケープを作った後も、昨夜はお針子仲間と小物作りにいそしんだようだ。

 

 彼女が寝泊りすることになったお針子部屋は実は第五小隊の寮の建物内の一番上階になる。その下にはチキ達や第五小隊の皆がいるので警護の面で問題はない。


「でもちょっと大きいから裾を切って…」


「まてまてまてまて、おれのマントを切るんじゃない」


 えぇ~?という顔をされたが、そこは兄のラインヴァルトがマリーを黙らせる。


「で、これはどうしたって?」


 改めてバーデが切り出し、一番魔法に詳しいログが答える。


「おそらく、人間に戻るところに身体にダメージを負ったせいで、魔力がおかしな作用をしてこんな姿になったのではと思います」


 他に原因があるかと尋ねられても思い当るものはないので原因としてはこれが一番妥当であろう。

 

「なるほどなー。…で、俺にどうしろって言うんだっ」


 もっともである。

 解決策を見出そうにも誰も魔法生物については詳しくないし、かといって放っておくわけにはいかないし、でここに来たのだが、バーデとて同じ答えしか出ない。


「よし、ここは愛の力だっ」


 クサイことを言ったと自覚があるのか、ものすごい渋面になりつつ、バーデはチキに振り返った。


「ユリウスに何とかしてもらおう」


(((逃げたな)))


 全員がバーデにそう思った瞬間だった。





 チキ達新人にお針子マリーとバーデが加わり、大人数での移動と巨大ニワトリが城内を闊歩し、大注目を浴びながら辿り着いた第一小隊隊長執務室には副隊長のカイルだけがおり、ユリウスは不在だった。


「どこ行った?」


「隊長なら団長室ですよ。昨日の話を詰めるのに」


「…なら丁度いいか」


 バーデは部屋の中のカイルに礼を言って団長室へと向かう。

 カイルとは顔を合せなかったのでチキは笑われずに済んだ。

 が・・・


「失礼します」


 団長室に入り、お披露目するなり、ユリウスはぽかんと口を開け、騎士団長ライルは席を立ち、壁に拳を打ち付け、顔を伏せて肩で息をしている。


(((笑えばいいのに…)))


 どう見ても大爆笑を堪えており、皆の冷たい視線が背中に突き刺さるライルだった。




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