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ニワトリだって恋をする  作者: のな
魔法生物編
51/78

51羽 狼

 パーティーから4日が過ぎた。


 今日は国王主催の狩りが行われる日だ。

 

 相変わらず貴族の何人かは魅了されているし、国王の警護に当たる者達の人数もあまり多くはないが、それでもこの国の異変を悟られぬよう狩りは開催される。

 その狩りに、砂漠の国の者と、蛇女テレジア、そしてセオドアの使者の男が参加することになっていた。


 この隙に第五小隊の新入り5人と、騎士団の責任者としてユリウス。新入りと情報提供者の安全確保のためにバーデ、カイル、なぜかロランもついて大人数でラインヴァルトの母親の元へと向かうことになった。

 もちろん用向きはセオドアで起きたこととテレジアについて知るためだ。


 日を開けたのはラインヴァルトの母親達の存在をテレジア達に悟られないようにするためで、そのために彼等が狩りで城から離れる日を選んだのだ。


 落ち合う場所は、乗合馬車の御者ジェームズの奥さんナターシャの経営する宿屋の一階にある食堂である。そこでならこの人数が行っても問題ないだろうということで向かった。





「動物はお断り!」


 食堂に入るなり、美人女将がびしっと胸の前で腕をクロスさせて告げる。

 

「いや、これは動物ではないのだ女将よ」


「動物じゃないってどう見てもニワトリじゃないか。目もダメなら頭もおかしくなっちまってるのかい、じーさん」


 ナターシャにじーさんと言われ、ロランは唖然とする。


「じ…」


 ぶふっと後ろで皆が笑いをこらえ、申し訳ないと思いつつチキもコケッと吹き出してしまった。


 確かに年は70近いし髪もうっすら白髪交じりだが、まだまだ髪の多くは濃い茶色を保ち、青い目も澄んでいて、顔のしわもあまり見受けられない。体格も筋肉質でがっしりしており、初めて彼を見たものは50代ぐらいだと思うのが常であるのに、ナターシャはロランが年寄りだと見抜いたようである。


「すまない女将、これはチキなんだ」


 ユリウスがチキをそっと抱いて正体を明かせば、騒ぎを聞きつけて厨房からひょっこり顔を出したジェームズの息子ハロルドが立ち並ぶ男達を見てぎょっと目を見開き近づいてきた。


「す、すみません、うちの母がっ。母さん!ロラン様だよ!父さんがお世話になったっていっただろ!」


 息子に小突かれてナターシャは首を傾げる。

 元々ナターシャは夫であるジェームズの話を隠し子ができたと誤解していたため、ありとあらゆる細かいことが頭から抜けていたのだ。

 

 記憶の奥から誤解を解いた後に聞いた話を思い出し、顔を真っ赤にしてぺこりと頭を下げた。


「申し訳ありませんっ、あたしゃ旦那が世話になったお方にとんでもないことを」


「気にしなくていい、彼はわしの恩人でもある。ジェームズは息災か?」


 ロランはじーさんと呼ばれたのが少しショックだったと見えて、ぎこちない笑みを浮かべながら告げた。


「あの宿六は死んでも元気ですよっ。さ、入ってください。そのニワトリも特別です」


 これは絶対にチキ=ニワトリにはなっていないだろうと皆が思ったが、実際目で見なければ信じがたいことでもあるので説明は省いた。


 席に座ると、ちょうどラインヴァルトが母親とマリーを連れてやってきて、バーデ、カイル、ギルバートはそれぞれ食堂の出入り口をそれとなく見張り、いつでも動ける位置についた。






 ふわふわとした金色の髪に緑の瞳、緊張してそわそわしているマリーが年をとったかのような姿のラインヴァルトの母モネは、アストール国に危険が迫っていることを簡単に説明された後、一番年配のロランの口からテレジアの名前が出た瞬間にびくっと身を震わせた。


「すまない、おそらく辛いことを思い出させると思うが、この国であの魔女をのさばらせるわけにはいかんのだ。協力してくれ」


 騎士全員が頼むとばかりに頭を下げれば、モネは恐縮しながら、ポツリポツリと口を開き始めた。



「セオドアにあの女が現れたのは12年前です。当時の王太子殿下が事故で亡くなられてすぐ、第三王子があの女を妃にするといい、城に連れてきたのです」


 第三王子の愛人というのは貴族達が話していた通りである。それに関しては裏付けもとれているので間違いはない。


「あの女が入城した瞬間からすべてが変わりました」


 謁見の間に集まった王、騎士、貴族そこから始まり、魅了が広がったのだという。


「…町全体に初めから広がったわけではなく?」


 ロランの質問にモネは首を横に振る。


「夫の話では、あれだけの広範囲の力は彼女一人の物ではなく、何か媒介となるものがあるのだと、それを突き止めようとしておりましたが、最後までそれは叶わず」


「旦那は魅了が効かなかったのか」


 ユリウスの言葉にはっとしてチキがモネに顔を向け、彼女は頷いた。


「夫は…」


 チラリとラインヴァルトとマリーに視線をやったモネは、深呼吸の後、コクリと喉を鳴らし、一度俯けた顔を上げた。


「夫は、人間ではありませんでした」


 ラインヴァルトは目を伏せ、マリーは目を丸くする。

 

 ラインヴァルトはなんとなく父親が人間ではないような予感がしていたのだ。

 時折見せる俊敏な姿は何処かチキに似通っていて、テレジアの正体を突き止めたことや、他人の魅了を解除していたこと、そして執拗に狙われていたことを思い出せば、後はすぐに答えが出た。

 

「父さんは狼?」


 ゆっくり目を開いて母モネに尋ねたラインヴァルトは彼女が驚きながらも頷くのを見て、「やはり」と納得する。


 チキが出会った頃ラインヴァルトを見て言っていた『灰色狼』というのは、おそらく父親似の自分に残された彼の血がチキにそう感じさせたのではないかと今では思う。


「おそらく、この国の高官ならばご存じでしょう。・・・夫の名は、ヴォルフ・オーエン」


 男達が感づいていたのか、しんと静まり返る。

 チキとエマ、それに幼い頃の記憶があやふやなマリーが不安げにモネを見つめた。



「セオドアにて内乱を起こし、処刑された騎士です」




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