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ニワトリだって恋をする  作者: のな
騎士編
46/78

46羽 怒り爆発!

(おのれ蛇、次に会った時には目に物見せてくれるわっ!)


 チキはばさばさと翼を動かし、それを眺めていたラインヴァルトをびくりと怯えさせる。

 ドレスの残骸から見てもこのニワトリがチキだということはわかるのだろうが、やはりニワトリはニワトリ、何をするかわからないといった恐怖感があるのだろう。


「コッコッコケッ(何もしないよ~)」


「すまない、何言ってるかわからない」


 チキはう~むと悩む。人間の姿ならば腕を組んで首を傾げているのだろうが、ニワトリなので突っ立ったまま軽く首を傾げる程度だ。

 

 意思の疎通ができないのを如何したものかと思うものの、ニワトリであった時の方が長いので、自分自身はあまり気にしていないチキである。

 とりあえず今したいのは、地面に落ちてしまったドレスを汚れないよう回収することだ。


「コケッ(拾って)」


 つんつんとドレスを啄むと、ラインヴァルトは首を傾げる。


「腹が減ってるのか? いや、そもそも意思があるのか?」


(そこからなのか…)


 チキががっくりと項垂れていると、ざりざりと土を踏む音がする。

 ひょっとしてギルバート達が来たのかと期待して顔を上げれば、迷路から出てきたのはパーティーに参加していた貴族の男達だ。それも10人以上いる。


 いくらなんでも男同士そんな大人数で夜の散歩に洒落こむはずはない。明らかにおかしいので目を凝らせば、よたよたと動きは鈍いものの、彼等は皆利き手にナイフを持ち、澱んだ瞳でこちらを目指してくる。

 どう見ても狙いはチキとラインヴァルトだ。


「あの女!」


 ラインヴァルトはバサッとドレスのスカートを跳ね上げると、ドレスの下に隠していたショートソードを手に取り構えた。

 チキはと言えば、同じくショートソードは持っていたが、ニワトリでは持てない。


 だが!


 チキはふんっと鼻息荒く胸を張る。


「コケーッ!((くちばし)と脚がある!)」


 どの道彼等は操られているだけで殺してはいけない人間だ。何とか昏倒させるか捕えるかするしかないのだ。剣はあっても補助にしか使えない。

 ラインヴァルトもそれはわかっているのだろう。じりじりと男達に迫られてどう対処すべきか考えているようだ。


「チキ! できれば誰か呼んできてくれ!」


 チキは一瞬悩んだ。

 ここに残って攻撃することもできるが、万が一ということもある。こちらがヘタな攻撃ができない以上、これだけの人数を相手にするならばやはり援軍が必要かもしれない。


(チキは今ニワトリだしね)


「コッ(行ってくる)」


 請け負ったとばかりに翼を広げ、駆け出したところでチキは乙女心を思い出してしまった。


(ユリウスからのドレス!)


 初めて貰ったプレゼントだ、何とかして持って行きたい…と思い、振り返れば、そこにはドレスを踏みつけて歩く貴族達の姿が!


 ・・・・・・・・・!!!!

 

 目の前が真っ赤になり、チキは腹の底から叫び声をあげた。


「コケコッコォォォォォォッ~!(ふざけんなー!)」


 怒りモードのチキに援軍なんて言葉は残っていない。

 今、彼女の頭を閉めるのは抹殺(・・)の二文字である。


 テケテケテケテケッ


 素晴らしく速いスピードで男達の足元を駆け抜けたかと思うと、ドレスを踏んだ男の顔面めがけてキックが炸裂。次いで傍にいた男の肩に乗り、嘴でザックザックと将来が心配になるほど頭を突く。


「う…うわあああああ~!」


 攻撃された者達は驚いて手を振り回し、地面に尻餅をついた。だが、それはドレスの上。


「コッコケコォォォォォォッッ~!(あの世で詫びろ~!)」


 尻餅をついた男の哀れな叫びと、ニワトリの怒号(?)に男達がはっとして動きを止める。そして、一様に辺りを見回し、自分達が持っているナイフと、目の前でショートソードを構えている美女を見てナイフから手を離した。


「コケッコケッコケッ!(チキのっ大事なっドレスっ)」


 ニワトリの瞳にキラリと涙が浮かぶ。


「だっ誰か助けてくれ!」


 男が必至で尻をすりながら下がろうとするのでドレスがさらに汚れ、チキは遂にしょんぼりと力を無くその場にうずくまってしまった。


「チ、チキ?」


 ラインヴァルトがそっと近づくと、その手前の薔薇の垣根の中からずぼっとメイドが飛び出し、男達がびくっと脅えた。


「お嬢様! なんてこと!」


「コ~…(エマ…)」


 チキはエマに抱き上げられ、ウルウルと見つめる。


「尾羽が短くなってます! 髪を切ったせいだわ!」


 そんなことはどうでもよかったのだが、エマはどうしましょうと忙しない。


「エマ…エマ!」


 ラインヴァルトが慌てるエマに大声で声をかけると、エマはようやく惨状に気が付いてはたと動きを止めた。

 

 全く状況がつかめない男達と、何が起きたのかわからないエマがしばらく見つめあい、無言の時が流れる。

 

「えぇと、何が起きたのでしょうか? ギルバートとログが先に迷路に入ったはずですが、会いませんでしたか?」


 先にと言われてラインヴァルトはどきりとする。

 もしや二人は何処かでテレジアにあって魅了にかかったのではないかと思えば、エマの後に垣根をかき分けて山賊…いや、髪がぼさぼさになったログが現れた。


「道に迷った…」


 ログはテレテレと頭を掻く。

 どうやら地図を覚えきれていなかったらしく、迷いに迷った挙句に垣根をかき分けここまでまっすぐに歩いてきたらしい。


「庭師には後で怒られてください」


 エマの言葉はザクリとログに刺さったようだ。

 

「すみません。ログが待っても来なかったので探しておりました」


 続いてギルバートも姿を現し、ラインヴァルトはほっと息をつく。


「無事でよかった」


 もしかしたらラインヴァルトが逃したことで彼等がテレジアと接触し、魅了されていたらと思うとぞっとする。

 

「コッコッコッコッ、コッコケコッ!(それよりも、ドレス!)」


 チキが叫ぶと、貴族の男達はびくっとし、エマはチキを撫で、ログとギルバートは目を丸くし、ラインヴァルトは深くため息をついて告げた。


「とりあえず、この状況を報告しよう」


「コケ!(ドレス!)」


「あれ?そういえばお嬢様、今日は新月じゃないですよね…」


「え?…お嬢様って…チキ?」


「・・・ついにユリウス様にも話す時が来た気がしますね」


 それぞれ呟くと、4人と一羽は混乱する男達を連れ、迷路から抜け出すのであった。




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