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ニワトリだって恋をする  作者: のな
騎士編
45/78

45羽 やられた!

 アストール国と砂漠の国ヴィートの平和宣言記念パーティーは、異様な雰囲気に包まれていた。

 魅了された男達が女に(かしず)き、女達は途方に暮れて遠巻きに見ているのだ。

 そんな中、チキは(さら)うように情報の確認をする。


「蛇の名前はテレジア。年は28歳。12年前にセオドラに現れ、魅了により2年でセオドラを制圧した。おまけに最近諸外国にまで魅了に侵された者達を派遣、何かしかけている…と」


 これは基本情報だ。

 ラインヴァルトはチキと共にテーブルの周りで食事しながらテレジアを睨んでいる。

 

 ギルバートとログは近づくと危険なので今はチキ達とは違う方向で少し離れて彼等を見張っているはずだ。

 情報収集に関しては、できる限りでいいはずなので、招待客達との会話は控えめにしているが、会場内に人が増えたため、控えめでも多くの被害を耳にすることができた。


「魅了が国全体に及んでいるとしても、そこから外へ出た者達までおかしいままなんてあるの?」


 人と話せば話すほど本来ある魅了の形を逸脱していることに気が付く。

 

 魅了の効果は個人の持つ魔力に比例する。だから、もしもログのような魔道士が魅了を持っていた場合、その効果は普通の人よりも高くなる。

 だが、その範囲を国とし、さらに維持し続けることはどのような魔道士でさえも不可能なのだそうだ。


 しかし、テレジアの魅了はといえば、国中を巻き込み、聞けば砂漠の国ヴィートでも操られた者達による騒動が何度も起きているというのだ。

 国内だけでなく国外に出ても続く魅了。そんなものがあるのだろうか?


「何かからくりはありそうだが、その辺りは魔道士の分野だろうな」


 ラインヴァルトが油断せずテレジアを睨みながら呟く。


「からくり」


 チキが気になっているのはずっと鎌首をもたげてこちらを見ている蛇だ。どう見てもあれがかかわっていそうな気がしてならない。

 

「それにしても、やけに騎士が少ないな」


 ラインヴァルトがちらと警備の為に配置されているはずの騎士を確認する。

 騎士の多くはテレジアが現れた時に惑わされてしまったため、ロランやユリウス、それに正気を保てた騎士により昏倒させられた、そのせいで警備の兵は激減したようだ。

 

 何かあったらと少ない兵と騎士がピリピリしているのがわかるが、魅了によって敵に回る確率が高くて応援も呼べない状態だ。


 パーティー自体は主役であるアストールと客人ヴィートの民を全く無視したテレジアの独壇場だ。

 ただし、彼女を見る限り、彼女はそれを望まないといった雰囲気を感じるのだが、城内の男達がそれを許してくれない状況になっている。

 あくまで見た目は…。


 そんな中、テレジアは少し疲れたのか、外の空気が吸いたいと男達に断わって動き出した。


 慌ててチキとラインヴァルトが彼女達を見失わないよう、かといって気が付かれないようにテラスから外に出る。

 ひんやりとした空気が体を包み、細い月が映す暗闇は明かりがなければ心もとない暗さだ。


 二人が身を隠しながら追ったはずのテレジアは、薔薇園のある庭に入っていき、チキ達が追ったところで見失ってしまった。


「くそっ警備が少なすぎるっ」


「なんでこんな迷路に入るのっ」


 各種の薔薇の咲き乱れる薔薇園はアストール城の自慢の庭だ。

 元々侵入者避けに迷路になるように木を植え、あちこちに薔薇をはわせたその場所は、昼間には客を楽しませる場所となっていたが、こんな時には隠れる場所を与えるばかりで役に立たない。


「ヴァルはあっちから、チキはこっちから探す」


 騎士団に入ったことで薔薇園の迷路の地図を叩きこまれているチキ達は、合流場所を決めて迷路に飛び込んだ。


 暗闇の中の薔薇園はどこから攻撃されてもおかしくなくて緊張のあまり心臓が破裂するかと思われたが、意外にあっさり何事もなく合流ポイントに着いてしまった。

 

 走ってきたので、時間にして5分ほどだ。

 途中途中にあった別れ道も確認してきたが、それらしい姿はなかったと思う。


 サァァァァァァァ…


 薔薇園の中央にある噴水の音がやけに大きく聞こえ、チキが緊張していると、ざっと土を踏む音を立ててラインヴァルトが姿を現した。


「ヴァル、いた?」


「いや、いない」


 首を振るラインヴァルト。

 それでは追い越してしまったかと(きびす)を返したところで、二人はぎくりと足を止めた。


「どなたをお探しかしら?」


 ちょうど二人が出てきた出口とは違う場所からテレジアと使者が姿を現したのだ。


(待伏せっ?)


 地図通りなら、テレジアと使者の出てきた道は行き止まりになった一本道だ。

 

 一気に緊張が高まり、身構えるチキ達に、テレジアはクスリと笑みを浮かべた。


「私を追ってきたのよね、ニワトリさん」


 チキはやはり、と緊張する。

 

「それからそこの美人さん…。どこかであったことあるかしら?」


 ラインヴァルトは見つめられて顔を背ける。


「名前が聞きたいわ。私はテレジア・イエスタ・セルドゥーア、テレジアと呼んで頂戴」


 ラインヴァルトが一瞬びくりと震え、チキはどうしたのかと不思議に思うが、聞くのは後にして、今はテレジアの挑発するような、こちらを馬鹿にしたような視線を睨み返して答えた。


「チキとラインヴァルト」


「ラインヴァルト…」


 テレジアは吟味するかのようにその名を口の中で転がし、「違うわね」と呟いてチキに微笑みかけた。


「あなたがチキでしょう。珍妙な名前だもの。意外な偶然ね、私が魔法生物に会うのはこれで二度目よ」


 チキの目はテレジアの姿に重なるようにして鎌首をもたげる蛇を睨んだ。

 

(この人も魔法生物で間違いない)


「チキは初めて会ったよ。人間を惑わす魔法生物なんて」


 テレジアの清楚に見える表情が歪み、一気に妖艶で毒々しいものにすり替わる。

 その唇は先ほどよりも赤みを増し、唇をぺろりと舐めとる仕草は蛇そのものだ。


「ふふ…一つ聞いてもいいかしら」


 テレジアはチキの前に立つと、その頬を白い手でするりと撫でる。

 ひんやりとした体温にゾクリとしたが、チキはにっこりとほほ笑んでやった。


「なんなりと」


「あなたが人間になったのは誰かのため…ね?」


 テレジアの瞳の奥に一瞬よぎったのはなにか…苦い過去だろうか?

 

「それが?」


 一瞬で消えてしまった影がもう一度見えないかとテレジアの瞳を見つめていたチキは、一瞬出遅れた。


「あなた、もうすぐ・・・・」


 その言葉を聞いた瞬間チキは驚愕に目を見開き、唇をチキの耳元に近づけて囁いたテレジアを突き飛ばした。

 だが、すでに出遅れており、視線の高さが変わっていく。


「魔法生物がどんな生き物か調べておくことね。その上で私に立ち向かうというなら容赦はしないわ」


 ラインヴァルトがテレジアを追おうと足を踏み出したところで、使者のマントにより視界を奪われ、それを払った時には見失っていた。




 そして、振り返ったラインヴァルトが見たものは…


「コケッ(やられた…)」


 チキが着ていた服の中に埋もれる一羽のニワトリであった。



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