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ニワトリだって恋をする  作者: のな
騎士編
43/78

43羽 女

 ラインヴァルト狙いの男が群がる中、ラインヴァルトを置き去りにした状態で彼等をうまくあしらい情報収集した結果、得られたセオドアの愛人についてチキとラインヴァルトは会場の隅っこに移動しながら首を傾げていた。


「なんか変」


「確かにおかしいが」


 一部の貴族の男達が持つ印象は『怖い女』。しかし、ある一部の貴族達が持つ印象は揃って『女神のように慈悲深い』だった。後者はどうやら何らかの接触をすでに果たした男達なのだが、皆が皆口をそろえて言うのには違和感がぬぐえない。


「実際会ったら怖くなかった…てこと?」


「それならそう言うだろう。同じセリフは出ないはずだ」


 そうなのだ。同じセリフというのがおかしいのだ。


 チキはう~んと悩み、ラインヴァルトは怖い顔で考え込む。はたから見れば決して近づきたくない二人である。

 そこへ、すすっと寄ってきたのは、ギルバートとログの二人だ。


「どうだった?」


 チキの問いにログが苦笑いを浮かべる。

 

「話をしたという女性と周りの女性は、どうやら本人かまたは夫が接触をしたようなんだが、…皆怖かった」


 やり取りを思い出してログはぐったりとし、ギルバートは苦笑する。

 何があったのか詳しく聞けば、どうやらログは婦人達の愚痴を男代表として聞く羽目になったらしい。


 そういえばと先程の取り巻きへ目をやれば、そこに参加している男性の姿はなく、女達はなぜかみな目を吊り上げて会話に白熱中のようにみえる。なるほど、夫が不甲斐なくて愚痴を言いあっているというのならあの表情も頷ける。


「廊下ですれ違ったという女性は夫がおかしくなったって言ってたな。まるで崇拝する女神でも現れたかのように女を褒め称え、奥さんの存在を忘れて傍にあることを願ったそうだ」


 想像すればそれは修羅場だ。

 夫が傍にいた妻の存在を忘れ、廊下ですれ違った女にそばにいたいと願ったとすれば、当然忘れられた妻は激怒するだろう。


「他には自分の全財産を捧げるとか言い出した男もいたようですよ」


 まさに異常である。

 どこの世界にすれ違っただけで全財産を捧げるなどと言い出す男がいるというのだ。いや、実際にこの会場内にはいるのだが、常識的に考えて、一目惚れだとしてもそう本気で言い出す男はまずいないだろう。


「冗談?」


「残念ながら本気だったようで、数人が全部は受け取れないと断った愛人に、すでに渡せるだけの財産を譲リ済みだそうです。没落貴族が増えそうですよね」


 ギルバートが苦笑する横で、こちらの情報と自分達の情報を交換し合ったラインヴァルトとログが同時に口を開いた。


「「魅了(テンプテーション)」」


 チキは何それと目を丸くする。


「魅了というのはですね、一種の魔法でありまして、自分とは違う性別の者を虜にし、言うことをきかせるという羨ましすぎる能力のことですお嬢様」


 にょきっと突然メイド姿のエマが柱の影から現れ、皆をぎょっとさせる。


「どこにいたんですかエマさんっ」


 ログが突然現れたエマにわたわたしている。身構えていなかったせいか顔が真っ赤だ。


「先程からここにおりました。それでですね、ちょうどロラン様がご到着なされましたので同行されているであろうリチャード様にある程度情報をお伝えしたところ、魅了についての返答が返ってきたのです」


 あっさり会話が終了し、ログがひどく落ち込んでいるというのに気が付かないエマに、ラインヴァルトは目を見張り、ギルバートは同情して肩を叩く。

 

 不思議そうな表情でエマとチキが男達を見るが、気にしなくていいとラインヴァルトに告げられ、さらなる情報を告げる。


「魅了の力は人それぞれらしいのですが、複数の人間を虜にし、さらに離れていても効き目があるならば、それはよほどの魔力を持っているのではないかということでした。ちなみにリチャード様も若い頃はそれを使ってモテモテだったとか」


 万能執事が空恐ろしくなるチキとギルバートだったが、意外なところで能力を知ったからには対処法もあるのではと、ここでは最も魔力に詳しい魔道士のログを見れば、彼はいつになく険しい表情をしていた。


「ログ?」


 チキが声をかけると、ログは顔を上げて答えた。


「魅了の能力の範囲はどんなに大きくてもこの部屋全体ほどだと言われてる。それが城全体に及んでいるのかもしれん。そうなると普通の魔力保持者じゃない」


 ありえない。

 ログはそう考えながらも、参加する貴族達が明らかにおかしいということは否定できていない。

 では…?


「魅了の能力自体が変則的だとか」


 ギルバートの考えにチキ、エマ、ログが頷いたが、ラインヴァルトは首を横に振った。


「ヴァル?」


 暗い影を落とし、どこか悲しげな美女姿のヴァルにチキとエマはどきりとし、ギルバートとログはごくりと喉を鳴らした。


「あの女の魅了はたぶん国全体に及ぶ」


「「「「は?」」」」


 四人の声が重なり、どういうことかと問いただそうとして、ざわりと会場内がざわめいた。


 5人は一旦話をやめ、ざわめきの原因に目を向けると、エマはあんぐりと口を開け、ギルバートとログはどこかとろんとした目で見つめ、ラインヴァルトはその女を睨み据えた。


 チキとは反対でクロに右の横一部に白いメッシュの入った髪。表情の読みにくい黒い瞳。

 身長はどちらかと言えば低めでどこか幼く見える顔立ちでありながら、なぜかひどく心をざわつかせる妖艶な雰囲気を醸し出している。

 着ているドレスも胸元があまりあいていないどちらかと言えば品行方正なシルクのドレスだが、彼女が歩くたびにできるドレスのひだですら艶めかしく見える。


 チキはその女を見た瞬間全身の毛が逆立ち、目が離せなくなった。


「あれ…は」


 ぽつりとつぶやくチキに、ラインヴァルトがはっと我に返ってチキを見た。


「あれは…、蛇だ」


 チキの視線は女の視線と絡み、互いにすっと目を細める。


 チキが見たもの


 それは


 女の器に重なるようにとぐろを巻く黒と白の一匹の蛇だった。 

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