表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニワトリだって恋をする  作者: のな
騎士編
41/78

41羽 秘策

「この忙しい時に何やってんだ~!」


「あ、やっときた」


 チキはソファの上で目を白黒させるユリウスに圧し掛かり、彼の上着の胸元をくつろげ、首元をはむはむとと食んでいたところで第五小隊隊長バーデがやってきた。

 

「お前そんな男だったか?」


 呆れるようにバーデがため息をついた。


 押し倒されたうえに襲われていたユリウスの表情は複雑で、体を起こし、とりあえず襟を直そうとしたところでバーデに濡れふきんを渡された。

 お茶に使う用のふきんは、どうやら離れたところに立つメイドからバーデに渡されたものらしい。


「首元拭け」


 チキに好きなように食まれていたのでチキのつけていた口紅が首元に付いていたようだ。


「襲われたというより味見されたみたいに見えるな」


 世の妖艶な女性ならば口紅を唇の形で残し、色艶を感じさせるものだが、ユリウスの首元に着いた口紅はべろ~っと伸び、かなりの数が付いている。それはどう見ても子供の落書きか、子供が押しまくったはんこのようで、色艶とかけ離れて見える。


(こんなんじゃあ欲情できんわな)


 せめてもう少し艶があればユリウスもその気になるだろうにとバーデが思ったところで


「助かった…」


ユリウスがほぅと息を吐き出すのをバーデは聞いて、たらりと冷や汗が流れた。


「それはどういう意味でだ?」


 胡乱な目でバーデがユリウスを見れば、彼は目をそむけて頬を染め、口元を押さえた。


(あれで欲情できるのか! そしてお前は乙女か!? その百戦錬磨な顔で乙女なのか!)


 うおぉぉぉぉぉ~っと叫びながら頭を掻きむしるバーデを見上げ、チキはむぅと唇をとがらせる。


「皆は?」


 その目は早く見たいと訴え、バーデはため息をつきつつエマ達の名前を呼んだ。

 どうやらドアの外側にいたらしいが、なかなか入ってこない。


「もうっ、往生際が悪いですよっ」


 エマの声が聞こえたかと思うと、エマにぐいぐい通され、部屋に入ってきたのは二人の長身迫力美女と、見知らぬ貴族男性。それから王城のエプロンドレスに身を包んだメイドのエマだ。


「エマずるいっ。ドレスは?」


「人を監視するのにはこういう役も必要でしょう?」


 エマはお姫様に憧れたりするわりに自らお姫様にはなろうとしない。どうやらその高すぎる身長を気にしてのことらしいが、ここには彼女よりも背の高い男達がたくさんいるのだからエスコートしてもらえばいいのにとチキは思う。

 潜入の話をしたときは一日ならとどこかの令嬢になる案を妥協し、今日が来るまで喜んでいたはずなのだが、諦めてしまったのだろうか。


「せっかくだったのに…あ、ギルとヴァルは美人になったね~」


 エマに押されて入室したの長身迫力美女は、女装したギルバートとラインヴァルトだ。

 まだまだ若く、他の騎士よりも線が細いからできたチキの秘策である。


「自信作ですっ」


 どうやらいじり倒したのはエマらしい。

 どうだという表情で目を輝かせている。


 ギルバートはピンクブロンドのかつらをつけ、ハイネックのベルベットグリーンの衣装を身に着けている。

 かっちりした衣装。無理やり連れてこられましたといった不機嫌な表情。身長はそこそこあるが、エマよりは低い彼はほぼ一般男性と同じくらいの身長。

 これは身長にこだわりを持たぬ貴族ならば落としてみたいと思わせるような美女だ。


「ギルバートの理想的な女性に見える」


 ギルバートがアタックを繰り返した年上美女なチキの礼儀作法の教師にも似た雰囲気があったとそう告げれば、ギルバートが苦虫を潰したような表情を浮かべた。


「自分が一番みたいじゃないですか。気持ち悪いこと言わないでください」


 出てきた声はやはり低い男性のもの。

 わずかばかりにバーデが残念そうな表情を浮かべた。


 対してラインヴァルトはといえば、銀髪のかつらをかぶり、ハイネックの青いドレスに身を包んだ長身の美女だ。

 さすがに彼は背が高いだけあって迫力だが、黙っているとはかなげな美女に見える。黙っていれば、だ。


「ヴァルはチキのお姉さん役だよね」


「そうらしいな」


 こちらも苦々しげな表情だ。

 いつものようにオオカミのような迫力はあるのだが、なぜかその圧迫感とはかなげな容姿のギャップが逆に人を惹きつけ、目を離せなくなる。


 もしかして、とエマに目をやれば、エマはゆっくりと肯いた。


「私、この二人と並んで立つ勇気は出ませんでした」


 やはり…。


 はじめは一日お姫様体験と喜んでいたエマは、二人をいじり倒した後思ったに違いない。

 この二人の傍に立ったら自分はただの背景だ…と。

 何しろ今現在チキが思ったことなのだから。


 チキが女として負けたと落ち込む横で、二人をチラチラと気にするバーデが「それでは」と声をだす。


「気を付けて行って来い。無茶はするなよ」


「はぁ~い」


 チキはもうすでにやる気が半減している。


「気が抜けた返事だな。大丈夫か?」


「大丈夫じゃないよ。チキこの二人に負けたのにっ」

 

 嘆くチキにバーデはぽかんと口を開く。


「いやいや、勝とうという考えがまずありえんぞ」


 何気にバーデがひどい一言を言い、チキがギラッと睨む。


「チキはそれでいい」


 バーデの言葉に膨れたチキだが、横からユリウスの助け舟があって浮上。

 にっこり微笑んでユリウスと見つめあうと、バーデがうがぁぁぁっと自分の髪を掻き回し、最終的に彼の頭は爆発していた。


「とにかく行ってこいや!」


 追い立てるように叫ぶバーデに、チキはきょろきょろと周りを見回す。


「うん。でも、まだログがいないよ?」


 チキが首を傾げたところでバーデがぶふっと吹き出し、エマ、ギルバート、ラインヴァルトが視線を逸らす。

 そんな中、見知らぬ貴族がすっと手を上げた。

 

「ここにいるんだが…」


 栗色の髪をびしっと撫でつけてオールバックにし、伸びてぼさぼさの髭もきちっと切りそろえられ、体格のいい体にピタリと合った黒の夜会服に身を包むその姿は、まさしく貴族、といった姿のログに、チキは目を丸くした。


「あのログに見えない…」


「もとは同じなんですけど違いますよねぇ」


 チキとエマに言われ、ずずんと落ち込むログ。


 そうこうしているうちに会場の音楽が聞こえ、全員がはっとして表情を引き締めた。


「チキ、気を付けて」


 ユリウスの言葉にチキは肯くと、バーデとユリウスに見送られ、4人は会場へと向かったのだった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ