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ニワトリだって恋をする  作者: のな
成長編
4/78

4羽 山賊

 吾輩は元ニワトリである。名前は…


 ジェームズの取り計らいにより、ニワトリ少女は彼と王都への道行きを共にし、その間人間としての生き方を学ぶことになった。

 

 人間というのは、自由に(ふん)をしてはいけないらしい。


 そこから始まった教育は、困難だらけになるかと思いきや、ここまでニワトリとして生活してきたこと、村などをあちこち行き来してたくさんの人間を見てきたことから、基本的なことさえ覚えるだけで、後はちょっと風変わりな子供、というのが出来上がった。

 赤ん坊を相手にするような心づもりだったジェームズがほっとしたのは言うまでもない。



  さて、ここで一つニワトリは新しくあるものを手に入れた。

 

 それは名前だ。

 

 そう、ジェームズとのやり取りで、何度も尾黒と呼ばれていたのだが、それは人の姿にはふさわしくないし、名前とは呼べない。ということで、ニワトリは唸りつついろいろと考えた。

 ジェームズの名前候補はジョセフィーヌ、アドリアンヌ、マルガレーテと大層仰々しく、ニワトリは舌を噛みそうになったので却下した。そして、考え出した名前は、ニワトリのもう一つの呼び方である。


「チキッ、チキにするよ!」


 チキ=チキン。

 ニワトリ時代に何度か耳にしたことのある呼び方を、なぜかニワトリは気に入っていたのだ。

 あのチキン野郎と言って男達が笑うのもきっと褒めているのだと思っていたため、チキに決定した。


 ジェームズにしてみれば呼びやすければ何でもよく、チキの由来がチキンだと思ってもみなかったため、訂正されることなく採用である。


 そしてチキは現在ジェームズと共に王都へと向かっている。


「ねぇねぇジェームズ。チキ、この髪切っていいかなぁ」


 御者台に座るジェームズに、馬車の中から顔を出したチキが髪を掴み、邪魔そうにガジガジと咬みつく。


「勿体ねぇこというな。それに、その髪切っちまったらもう男の子にしか見えんぞ。髪は女の命って言うだろ、大事にしとけ」


「でもさ、とっても邪魔なんだよね。座るとき踏んじゃうし」


 膝まである髪はなかなかに大変だった。それこそ座れば踏んでしまうし、あちこちに引っ掛けては痛い思いをするし、トイレでは…ここではよそう。

 そんなわけで、長い髪にさほど価値を見いだせないチキは髪を切りたがっているのだが、長い髪はそれなりにお金になることを知っているジェームズは、変わった色合いのチキの髪を切るというのはもったいなくて止めている。


「後でくくってやるから我慢しろ」


「は~い」


 チキは仕方なく座席に戻り、堅い座席にもすっと座る。

 

 長い馬車の旅は退屈で、チキはいつの間にかうとうとと舟を漕いでいた。

 

______________


 

 キンッ


 硬質な音にパチリと目を覚ましたのは、馬車が山道を上り始めた頃だ。

 チキは眉根を寄せ、窓から顔を出した。


「ジェームズさん。この先で変な音がするよ。あと、血なまぐさい」


 すんすんと鼻を鳴らすチキに、ジェームズはいったん馬車を止める。


「変な音ってのはわからんが、血なまぐさいってのはよくないな」


 脳裏をよぎったのはやはり山賊の類。

 王都の周辺であればずっと治安が良く、山賊盗賊といった輩は取り締まられてほとんど見かけられないが、ここはまだまだ王都から離れた田舎だ。盗賊山賊などの被害は多く聞く。ただ、出現回数が多い分、皆対応に慣れていて、よっぽどでない限り争ったりしないものなのだが。


 道は一本。そろそろ日も落ちてくるので引き返すこともできない。

 とりあえずは通行料を払うつもりでジェームズは馬を再び進めた。


 窓から顔を出しっぱなしのチキの目に、その光景が飛び込んできたのはそれからすぐだ。


「ジェームズさん! 馬車が襲われてる!」


 当然ジェームズの目にもそれは見えている。

 仕立ての良い紋章付きの馬車に山賊らしき男達が群がり、護衛と思しき男達が3・4人応戦している。


「ありゃあ良いとこの馬車だな。大方通行料を渋ったんだろう。それで襲われてるんだ。お前は顔出すなよ。そんなでも一応おんな」


 ばたんっ


 チキは扉を開けて飛び出すと、そのまま馬車を追い越す勢いで争いの真っただ中へ突っ込んでいく。

 もちろん武器無しである。


「何やってんだチキ~!」


 叫ぶジェームズに襲いかかってきたのは絶望である。

 どこの世界に盗賊に武器なしで立ち向かっていく娘がいるのかっ。

 ここにいるが…。


 チキはニワトリダッシュをかまし、そのまま剣をぶつけ合っている男達めがけて空へと飛び上がった。

 

 ふわりと浮かぶ体はまるで羽でも生えているかのように男達の頭上を飛び越え…る前についでとばかりにその頭に蹴りを入れていく。

 攻撃されたのは剣を結び合わせる男達両方ともにだ。

  

 チキに敵味方の区別はないらしい。


 ジェームズが遠くから「あちゃー」と声を上げている。


「さぁ、かかってこい! 人間になんかに負けないぞ!」


 びしぃっと男達に指をさすチキの姿はそれなりに美少女だ(発育途上だが)。薄汚れた男達の髭面が、剣を振り回して脂下がる。


「こりゃいいや。ちょっと幼いがそういう趣味の奴に売れば高くつくぜ」

 

 幾人かがチキに向き直り、取り囲まれていた馬車の護衛とみられる男達が、山賊の気がそれたことでわずかにほっとしたのが見える。


「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいや! これは世間知らずなガキでしてっ、無礼はこの通りお詫びいたします。通行料もお支払いいたしますのでお見逃しください」


 バタバタとジェームズがチキと男達の間に割り込み、揉み手をしながらにこにこと笑顔を振りまいた。


「あん? あぁ、乗合馬車の御者か、しかしなぁ、かかって来いって言ったのはこの嬢ちゃんだ」

 

 チラリと乗合馬車教会のマークが入った馬車を見た後、山賊が笑いながら告げた。

 

 どうやらこの山賊は新参者らしい。この辺りで乗合馬車の御者相手に不興を買えば、通行料が懐に入るどころか、町の自警団がやってきて大喧嘩になり、不利益となることを知らないのだ。

 ジェームズはにこにこ微笑みながら心の内で舌打ちした。

 新参者はルールを知らないから面倒で、危険なのだ。


「ジェームズさん、チキこんな奴らには負けないから大丈夫だよ。オオカミの方が素早いし~」


「まぁ、喧嘩っ早いお前さんならそういうだろうが、今は人間だ、子供だぞ?尾黒時代のようには」


 ニワトリと同じ気分でいるなと暗に言ったつもりが、チキはすでにジェームズの頭上を飛び越えていた。


「まかせて!」


「いや、俺がいつ任せたよ! 人の話を聞けや~!」


 


 大乱闘が開始されてしまったのだった。


 


 

最弱竜と違って喧嘩っ早いニワトリです。

たまに凶暴なニワトリっていますよねー チキはあの部類。

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