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ニワトリだって恋をする  作者: のな
騎士編
34/78

34羽 歓迎会  

グロ表現あり 後半嫌な予感がした方は避けてください

 騎士団の宿舎は大部屋でした。


「ありえん…」


 一番騒ぐべき女性陣であるチキ、エマは淡々と荷物を降ろし、一人頭痛に悩まされるラインヴァルトを無視した。


 悩むだけ無駄だと思う。


 年頃の男女が一つ屋根の下はいけませんよとチキも礼儀作法の教師に教わっていたので、首を傾げたこの状況だったが、エマもギルバートも何も言わないのでこれは例外的に許されるのだろうと判断したところだ。


 ヴァルみたいに人間を長くやってても悩むことあるんだね。


 なるほどと頷くチキは、多数決でエマ達が正しいと判断したが、本当はラインヴァルトが正しいのだ。

 エマとギルバートはロランによる野宿などの実践訓練のせいで正しい男女の在り方という感覚がマヒしていていたのだが、それには誰も気が付かなかったようである。


「そう言えばもう一人の新入りってどんな人なんでしょうね」


 あらかた荷物を片づけたエマは、小さな箪笥に荷物を押し込むチキを止めて手伝い始めながらつぶやいた。


 部屋の大きさは20畳くらいあるだろうか。そこに小ぶりのベッドが5つと、小さな箪笥が5つ、それぞれのベッドは天井から垂れ下がるカーテンで仕切れるようになっており、着替え等に支障はきたさない作りになっていた。

 すでに4つはチキ達で埋まったが、あと一つが空いているのだ。


「名前はログ・ウーラ、魔道士ギルドである意味(・・・・)名の知れた人物ですよ」


 ギルバートの答えに、こういうところはリチャードに良く似てるなぁとチキは思う。とにかく先回りして情報を集めているのだ。


「ある意味って何よ?」


 エマが嫌な予感を覚えて尋ねれば、ギルバートはラインヴァルトへと視線を向けた。

 ラインヴァルトは元々冒険者ギルドに登録していた冒険者だ。そこそこ魔道士ギルととも関わりがあるため、問題の人物も知っているのだろう。


 ラインヴァルトは説明しようと口を開き、開いたところで思案して首を横に振った。


「会った方が早い」


 見ればわかるという人物にチキはわくわくと目を輝かせ、ベッドに腰掛けてログが現れるのを待った。


 今日は入隊初日ということで、荷物が片付いた後、騎士団の食堂で歓迎会が開かれる。

 それは、丁度昼食に当たる時間なので、それまでには荷物を片づけに現れるはずだった。

 

 だったのだが・・・・


「こなかったねぇ?」


「来ませんでしたが問題なかったのでしょうか?」


「俺に聞くな」


「迷子かもしれないなぁ」


 チキとエマが首を傾げ、ラインヴァルトが知らんとばかりに一蹴し、ギルバートが予定外の行動をしていつも迷子になる自分の主をチラリとみて睨み返された。

 

 4人はすでに荷物も片付け終わり、仲良く食堂へと向かっているのである。

 そんな彼等が着ているのは支給された騎士団の新入りの制服で、袖に青い色の入った白色の腰丈で裾が水平なシングルボタンの上着に、白いトラウザーズだ。

 隊のカラーは青で、新入りの制服は袖の色で見分けるようになっている。

 そんな四人が食堂に入っていくと、やはり白を着ているだけあって注目を浴びた。


「騎士団の制服は色分けされてるんですね」


 エマが興味深そうに周りを見回す。

 

 一般の騎士は袖の折り返しに隊の色の付いた黒で丈が短いフロックコートに、各隊の色の線が脇に入ったトラウザーズ姿。隊長副隊長は新入りと同じ白の上着で、上着の丈が長く、腰に巻いたベルト代わりの布と袖の折り返しがそれぞれの隊の色になっている。

 

 白い色は敵の返り血を浴びないほどの剣技を持っているという意味もあるらしい。

 だが、これらは正装なので、普段はもっと簡素な上着とズボンだ。


「ユリウスカッコいい」


 遠目に見えるユリウスの姿をじっと見つめるチキの頭を、ラインヴァルトが叩く。


「痛い~」


「男が男に見惚れるな」


 暗にばれるぞと目で言われ、チキは断腸の思いでユリウスから目を逸らす。だが、時折チラチラと見てしまうのは仕方がない。

 そんな様子をラインヴァルトは呆れたように見つめ。そしてそのやり取りを見ていたユリウスは、カイルに「落ち着け」と止められていた。


_________________


「全員席に着いたなー」


 ざわめく食堂内で、各隊が決められたテーブルに座り、チキ達も第5小隊の席に着いたが、やはり最後の一人ログがいない。


「ではこれより騎士団入隊の歓迎会を始める! まぁ、恒例行事だから説明はいらんな、出された食事は食べきるように、以上!」


 騎士団で最も年輩だという第二小隊の隊長アドルフの声に男達が「応」と返し、それぞれのテーブルに食事が振る舞われる。

 どれもいい香りを放っているのだが、幾人かの騎士の顔色が優れない。

 特に、ほとんどを貴族出身の騎士で構成されている第一小隊の者は、青ざめている者が多いように見えた。


「お腹ペコペコ~」


 朝から隊舎の掃除や身の回りの片づけに追われて動き回ったせいで、腹を空かせたチキは、料理が自分の目の前に並んだ瞬間歓喜に満ちた。

 対して、周りの表情は微妙であり、エマに関しては卒倒しそうな勢いである。


「新入り歓迎のごちそうは恒例の虫料理だ! 心して食えよ新入りども!」


 げらげらと笑いを上げるのは第五小隊の男達だ。他の騎士達は、その嫌がらせのような言葉に同意はしても、大口開けて笑うのを避ける。だが、口元には堪え切れないにやにやとした笑みが浮かんでいる。


「お、食う前にあれ持ってきてやらんとなー」


 率先して第五の騎士達が動き、各隊の新入りの前にコトコトと何かを置いていく。


 チキの目の前にも小さな箱が置かれると、チキはキラキラと目を輝かせた。

 

「それが材料だ」


 調理された料理にも虫と思わしき手足がちらちら見えるが、そちらは刻まれていたりふやけていたりで虫に似たものと思いこんで食べることは可能だった。先程までは。

 だが、目の前に今並べられたもの、材料である生きた虫達を前に、皆それが入っていると嫌でも連想してしまい、一気に食べる気が失せる。


 騎士団恒例行事の嫌がらせ歓迎会である。ただし、現役騎士も一部ダメージを負うが。


「いただきまーす」


 チキはキラキラ目を輝かせると、手元にあったフォークでぬらぬらと動く材料(・・)の細いミミズのようなものをクルクル巻き、それをパクリと口に放り込んだ。


「あ…すみません、止め忘れました」


 虫料理にそこそこ驚いていたギルバートが気が付いて言うが、時すでに遅し。

 料理にも並べられた材料にも物おじせず、それどころか嬉々として材料の方から手を付けたチキの姿に、新入りだけでなく現役騎士の中にも卒倒するものが現れた。


「生で喰うな!」


 バーデがわずかに青ざめて怒鳴る横で、チキは満足そうに答える。


「新鮮でおいしいよ」


 喋った瞬間口からチロリと覗いた虫の頭に再び失神者続出。すでにエマはリタイア済みだ。

 

 ユリウスは初めて見るチキの豪胆な姿に凝固し、カイルが揺すっても中々戻ることは無かった。

 



 こうして、失神者続出の歓迎会は始まるとともに大騒ぎで終わりを迎え、後に悪夢の歓迎会と呼ばれることになったのである。

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