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ニワトリだって恋をする  作者: のな
王都編
17/78

17羽 入都

 王都というのは想像以上の大きさでした。


 町をぐるりと取り囲む外壁は隣国との戦争時代に作られたもので、何メートルもの高さがある。その外壁の上には兵が常駐し、不審者や敵を見張っているが、王都まで攻め込まれるような事態にはなっていないので平和なものだ。

 その外壁の北と南には巨大な門がある。そこには常に旅人や商人等が列を作り、通行手形とも言える住民票やそれに代わるライセンスなどを入り口で確認されて通ることができるのだ。

 当然チキ達もその列に並ぼうとしていたのだが、問題が起きた。


 すでに王都の門が見えるところで街道の脇に逸れ、草の茂みの中に身を隠す二人の少女。

 手近なところに落ちていた枝を拾って両手に持ち、こっそり門を窺う姿は怪しいことこの上ない。


「困りましたねお嬢様」


「そうね。でもまだ一人だけだから彼が中に入ってしまえば入るチャンスはできると思うの」


 門の入り口には、見事な栗毛の軍馬を一頭連れた青年が、辺りをきょろきょろと確認しながら列に並んでいる。

 ロランの追手の一人である。しかも、彼はチキやエマと共に剣を習いはじめた一人で、友人のように仲が良いが、ロランを信奉する信者のような青年で、他の護衛よりも融通が利かないところがあるのだ。

 

 見つかれば即ロランの元に連れ戻される。

 戻されるにしても、せめて騎士の申請だけはしておきたい。


「他の追手と合流して連携される前に王都に入ってしまおうか」


「わかりました。では、お嬢様はしっかりフードをかぶってください。髪が目立ちますからね」


 チキは自分の髪を指でつまみ、むぅと唇をとがらせる。


「やっぱり染めた方がよかったんじゃない?」


 この国の人間は茶色の髪か金髪が多い。チキの髪は白に黒のメッシュなので当然目立ってしまって計画に大いに支障が出るのである。髪を切った当初はそれも気にしていて、チキは髪も染めてしまおうとしたのだが、ニワトリに戻ったときの姿が想像できず、危険だからと全力で止められたのだ。


「茶色に染めたら全身不自然な茶色に染められた奇妙なニワトリになりますよ。しかも、全身でなかったら(まだら)です、斑ニワトリ」


 再びエマの制止が入り、チキは不満そうにしながらも旅用のくたびれたマントを身に着け、フードで髪をすっぽりと覆った。

 斑ニワトリはごめんである。


「では、そろそろ行きましょう。彼も中へ入ってだいぶたちますからね」


 チキはエマに頷くと、二人は茂みから外へ出て、両手に持っていた枝を茂みに放り投げた。

 

 ゆっくりと、旅を続けてきたかのように門に並ぶ人々の最後尾に並び、不審な動きはしないように、二人で話す話題も王都入りを楽しみにしているように何気なさを装い、緊張しながら順番を迎えた。


「ようこそ王都アンヘンへ。身分証明書をご提示ください」


 ドキドキしながらチキとエマがそれぞれの証明書を取り出す。

 

 チキの証明書、というか住民票は、ロランが準備させたデルフォード家の娘であるという証だ。ゆえに、その身分証にはうっすらとデルフォードの紋章が描かれているのだが、それについてはエマもチキも「人によって証明書は違うんだな」ぐらいにしか思っていなかったので完全に抜けていたとしか言いようがない。

 

 エマがすんなり通され、振り返ると、チキの証明書を手にした係りが焦った様にチキを待たせ、別の者の元へと駆けていく。


「どうかなさいましたかお嬢様?」


 エマは少し戻ってチキのすぐ横に控えた。いつでもチキを守れるような位置に立つようにしているのだ。

 チキは俯き、悩むように声を出す。


「嫌な予感がする」


「偽造がばれたのでしょうか」


 チキの証明書はちょっとした裏技で手に入れたものだが、ちゃんとした住民票である。ただ、元々ニワトリであることを知っているため、その住民票は偽造だと二人は思っている。

 緊張しながら待っていると、少し小太りの男がチキの前に姿を現し、恭しく一礼した。


「大公爵令嬢には大変失礼をいたしました。貴族のお方はあちらの門から入ることになっておりましたがどうやら伝達がうまくいっていなかったようでして」


 男は滲む汗を拭きながら大きな門の横にある別の門を指し示した。大きさは馬車が一台通るぐらいで、扉は閉められている。

 今通っているメインの門とは違って大分小さな門は緊急用の物だと思っていたチキは、身分証と男を交互に見た後、にこっと笑みを浮かべた。


「気にしなくていいわ。お忍びできたからこちらに並んだのだもの。もう通っても良いかしら?」


「え、は、あ、はい。あの、ですが、先程」


 そういえば一番初めに自分の証明書確認した係りがいないと視線を巡らせ確認し、チキはエマに目くばせする。


「通って良いのならば失礼します。お嬢様、まいりましょう」


 二人が一歩踏み出したところで、男が「う、あ」と何やら声をかけようとしているのが見て取れる。しかし、嫌な予感がしたチキは足早に離れようとした。


 その時である。


「見つけましたよお二人とも」


 息を乱した先ほどの係りの男と共に現れたのは、亜麻色の髪に青い瞳をした17・8の青年である。

 その手に軍馬の手綱を引き、腰に剣を下げた彼は、つい先ほど門を通って町の中へと消えていったはずの追手の一人だ。

 

 まだ近くにいたっっ


 チキは舌打ちしたいのを堪えてエマに指の動きで合図する。

 

「あら、お迎えなんて必要ないわよギルバート」


「お嬢様語を使う時のお嬢様は何か企んでらっしゃいますよねぇ?」


 ギルバートはにやりと微笑み、チキはぎくりとする。


 エマはチキの背を三度指で突いて『了解』の意を示すと、チキはくっとあごを引いて馬の手綱を持つ手に力を入れた。


「急いでいますのごきげんようっ」


 ふわっと馬上に飛び乗ると、すでに馬上の人となっていたエマと共に門から駆け出した。

 ギルバートは二人が駆け去っていくのをやれやれと見送った後、報告に来てくれた門兵に礼を言って歩き出した。


 人を探すコツは執事のリチャードから叩き込まれて心得ている。何より目立つ二人だ、急がずともすぐに見つけられるのはわかっていた。

 

 門を潜り抜けると、ギルバートは町の喧騒を眺め、まだ幼さを少し残す顔にぞっとするような笑みを浮かべた。


「さぁ、狩りを始めましょうか。お嬢様?」


 リチャードの秘蔵っ子の出動である…。

 

 

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